[[index.html|古今著聞集]] 変化第二十七 ====== 589 仁和三年八月十七日亥時ばかりにある者道行く人に告げけるは・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 仁和三年八月十七日、亥時ばかりに、ある者、道行く人に告げけるは、「武徳殿の東の松原の西に、見めよき女房三人東へ行きけり。松の下に容色美麗なる男出で来て、一人の女の手を取りて物語しけるが、数刻を経て声も聞こえずなり、驚き怪しみて見ければ、その女、手足折れて地にあり。頭は見えず」。 右衛門左兵衛の陣に宿侍したる男、このことを聞きて、行きて見ければ、そのかばねもなかりけり。鬼のしわざ((「しわざ」は底本「しは」。諸本により訂正。))にこそ。 次の日、諸寺の僧を請ぜられて、読経のことありけり。その僧どもは、朝堂院の東西の廊に宿侍したりけるに、夜中ばかりに騒動の声しければ、僧ども、坊の外へ出でて見れば、やがてしづまりて、何事もなかりけり。「これはされば、何事((「何事」は底本「何」なし。諸本により補う。))によりて出でつるぞ」と、おのおの互ひに問ひけれども、誰(たれ)もわきまへたることなかりけり。物にとらかされたりけるにこそ。 この月に宮中・京中、かやうのことども多く聞こえけり((「聞こえけり」は底本「きえてけり」。諸本により訂正。))。 ===== 翻刻 ===== 仁和三年八月十七日亥時はかりにあるもの道行人に告 けるは武徳殿の東の松原の西に見めよき女房三人東 へゆきけり松下に容色美麗なる男いてきて一人の 女の手をとりて物語しけるか数剋をへて声もきこえ すなりおとろきあやしみて見けれは其女手足おれて 地にあり頭はみえす右衛門左兵衛陣に宿侍したる男この 事をききてゆきて見けれは其かはねもなかりけり鬼のしは にこそ次日諸寺の僧を請せられて読経の事ありけり/s467r 其僧ともは朝堂院の東西の廊に宿侍したりける に夜中はかりに騒動のこゑしけれは僧とも坊の 外へ出て見れはやかてしつまりてなに事もなかり けりこれはされは事によりていてつるそと各た かひに問けれともたれもわきまへたる事なかりけり 物にとらかされたりけるにこそ此月に宮中京中 かやうの事ともおほくきえてけり/s467l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/467