[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五
====== 560 前大和守時賢が墓所は長谷といふ所にあり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
前大和守時賢((源時賢か。))が墓所は、長谷(はせ)といふ所にあり。そこの留守する男、くくりをかけて鹿を取りけるほどに、ある日、大鹿かかりたりける。
この男が思ふやう、「くくりにかけて取りたらん、念なし。射殺したりと言ひて、弓の上手のよし人に聞かせん」と思ひて、くくりにかかりたる鹿に向ひて、大雁股(おほかりまた)をはげて射たりけるほどに、その矢、鹿には当たらずして、くくりにかけたりけるかづらに当たりたりければ、かづら射切られて、鹿はことゆゑなく走り逃げて行きにけり。
この男、頭(かしら)かきをすれども、さらに益(えき)なし。
===== 翻刻 =====
前大和守時賢か墓所は長谷といふ所にありそ
この留守する男くくりをかけて鹿を取ける程
に或日大鹿かかりたりける此男か思ふやうくくり/s444r
にかけてとりたらん念なしいころしたりといひ
て弓の上手のよし人にきかせんと思てくくり
にかかりたる鹿に向ておふかりまたをはけて
いたりける程にそのやしかにはあたらすしてくく
りにかけたりけるかつらにあたりたりけれはか
つらいきられて鹿はことゆへなくはしりにけ
てゆきにけり此男かしらかきをすれともさらに
えきなし/s444l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/444