[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五 ====== 524 同じ御室随身中臣近武が袴ぎはを執し思し召しけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 同じ御室((守覚法親王。[[s_chomonju523|523]]参照))、随身中臣近武が袴ぎはを執(しふ)し思し召しけるに、何事の晴(はれ)にてかありけむ、上童(うへわらは)を召し具せらるることありけるに、近武を召して、「なんぢが袴ぎは、ことに執し思し召さる。この童にその定(ぢやう)に着せて取らすべし」と仰せられければ、近武、承りて、すなはちかの童の出立ちの所へ行きにけり。 まづ酒を乞ひ出だして言ひけるは、「大合子(がうし)にて五度召すべし。その後、高枕して、しばし寝(ぬ)べき」よしを言ひければ、童も堪能者にてありけるにや、かひがひしく言ふがごとくに飲みて寝にけり。しばしありて起こして、装束取り着せて、袴のうらうへを荒らかに取りて、むずむずと引き広げられて、美しき装束(さうぞく)散々になりにけり。 御室、御覧じて、「こはいかなるやうぞ」と御尋ねありければ、近武申しけるは、「この定にこそつかうまつり候へ。進退がよく候へば、君の御目にもよく見え参らせ候ふなり。この稚児は無進退の人にて、かく近武にも似候はざらんは、力及び候はぬことなり」と申しければ、道理にて、さてやみにけり。 ===== 翻刻 ===== 同御室随身中臣近武かはかまきはを執し思食け るに何事のはれにてかありけむ上童を召くせらるる/s417r 事ありけるに近武を召て汝かはかまきは殊に 執しおほしめさる此童に其定にきせてとら すへしと仰られけれは近武承て則彼童の 出立の所へゆきにけりまつ酒をこひいたして いひけるは大かうしにて五度めすへし其後 高枕してしはしぬへきよしをいひけれは童も堪 能者にてありけるにやかひかひしくいふかことく にのみてねにけり暫ありてをこして装束と りきせて袴のうらうへをあららかにとりてむすむす と引ひろけられてうつくしきさうそくさむさむに なりにけり御室御らんしてこはいかなるやうそと/s417l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/417 御尋ありけれは近武申けるは此定にこそつか うまつり候へ進退かよく候へは君の御目にもよ く見えまいらせ候也此稚児は無進退の人にてかく 近武にも似候はさらんは力をよひ候はぬ事也と申 けれは道理にてさてやみにけり/s418r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/418