[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五 ====== 523 北院の御室あるかた夕暮に御所に人も候はでただ一所御念誦して・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 北院の御室((守覚法親王))、あるかた夕暮に、御所に人も候はで、ただ一所御念誦しておましありけるに、いづこよりか来たりつらむ、大床の辺より、世に恐しげなる白髪の姥(うば)参りたりけり。 御簾をやをら引きあげて、笑み笑みとして、「いかに恐しく思し召し候ふらん」など申して、「きうきう」と笑ひて候ひけり。御室の御心の内、推し量るべし。されども少しも騒がせ給はで、「何者ぞ」と問はせ給ひければ、御返事をば申さで、ただ、「きうきう」とのみ笑ひけり。しばしありて、松井法橋といふ人参りて、おびえまどひけり。 さるほどに、人々参りて見て、「これは法金剛院の宗門に侍る物狂ひなり」と申して、すなはち素首(そくび)突きてけり。((諸本、「御室は『化物なめり』とぞ思し召しける。」と続く。)) ===== 翻刻 ===== 北院御室あるかた夕暮に御所に人も候はてたた一所 御念誦して御座ありけるにいつこよりかきたりつら/s416l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/416 む太床の辺より世におそろしけなる白髪のうは まいりたりけりみすをやをら引あけてゑみゑみとし ていかにおそろしくおほしめし候覧なと申てきうきうと わらひて候けり御室の御心のうちおしはかるへしされと もすこしもさはかせ給はて何物そととはせ給けれは 御返事をは申さてたたきうきうとのみわらひけり暫 ありて松井法橋と云人まいりてをひえまとひけり さる程に人々まいりて見て是は法金剛院の宗 門に侍る物くるひなりと申て則そくひつきてけり/s417r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/417