[[index.html|古今著聞集]] 興言利口第二十五 ====== 518 秦兼任貧しかりけるころただ独り従者を持ちたりけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 秦兼任、貧しかりけるころ、ただ独り従者を持ちたりけり。 後白河院((後白河上皇))の御時、召次長(めしつぎのをさ)になされたりけるに、一門の者ども、悦びに集ひけるに、兼任、年比の独り従者を召し出だしければ、「いかほどの目にあはんずらむ」と、人々いみじく見けるに、兼任は大力なりけるが、走り立ちて、この独り従者を踏み伏せて、髻(もとどり)を切りてけり。 親しき者ども、「いかに」とあさみければ、「年ごろ、ただ独り召し使ひつるに、ふてごとどもして、やすからず覚えしかども、『勘当してはいかにせむぞ」と、思ひねんじて過ぎ侍りぬ。『ただ今こそ、日ごろの腹をばすゑ侍らめ』とて、かくし侍るぞかし」とぞ言ひける。 さはしながら、また、「年ごろを忘るべきやうなし」とて、召次一番の所を取らせてけり。 ===== 翻刻 ===== 秦兼任まつしかりける比たた独従者をもちたりけり/s412r 後白河院の御時召次長になされたりけるに一門の物 とも悦につとひけるに兼任年比の独従者を召いた しけれはいか程の目にあはんすらむと人々いみしく みけるに兼任は大力なりけるかはしりたちて此 ひとり従者をふみふせてもととりをきりてけり したしきものともいかにとあさみけれはとし比たた 独召つかひつるにふてことともしてやすからすお ほえしかとも勘当してはいかにせむそとおもひねん してすき侍ぬたたいまこそ日来の腹をはすへ侍ら めとてかくし侍そかしとそいひけるさはしなから又年 比をわするへきやうなしとて召次一番の所をとらせて/s412l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/412 けり/s413r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/413