[[index.html|古今著聞集]] 祝言第二十 ====== 450 康和四年二月九日、御賀の試楽ありけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 康和四年二月九日、御賀の試楽((白河上皇五十の賀の予行。))ありけり。左右内大臣((源俊房・藤原忠実・源雅実))以下参り給ひけり。参入音声(まゐりおんじやう)に賀王恩を奏す。まづ万歳楽、右大臣((藤原忠実))御前にして箏を弾じ給ふ。次に地久、次に春鶯囀。この間に管絃・物具(もののぐ)を楽屋へ下されけり。左大弁((源基綱))琵琶を弾ず。宰相中将((藤原宗輔))笛を吹く。右大弁((藤原宗忠))笙を吹きけり。 次に古鳥蘇・次に胡飲酒。中院右府((源雅定))、童にておはしけるが、つかうまつり給ひけり。内大臣((源雅実))、一家の人々を率(そつ)して、楽屋へ向ひ給ひて、扶持(ふち)し給ひけり。内府帰着し給ひて後ぞ、舞ひをば奏し侍りける。年わづかに九歳の時なりけるに、一曲もあやまちなかりければ、万人感歎することかぎりなかりける。去年、資忠父子((多資忠と子の多節方。))ともに害せられて(([[s_chomonju269|269]]参照。))後、この曲絶えけるを、父大臣(おとど)治暦三年に九歳にて舞ひ給ひけるを、今日世に伝へられぬる、めでたかりけることなり。 胡飲酒の童を召して御衵(おんあこめ)を賜はせ給ひけるを、右大臣伝へ給ひければ、童すこぶる舞ひてかづかりけり。父の大臣、座を立ちて、御衣(おんぞ)を取りて肩にかけて、左の手に笏を取りて、弘庇(ひろびさし)にて、この舞の破を舞ひ((「舞ひ」は底本「舞舞」。諸本により訂正。))給ひける。見る者、目を驚かしけり。童、父の持ち給ひたる御衣伝へ取りて、また舞ひて入り給ひける。内大臣、拝賀申されけり。 次に右大弁((「右大弁」は底本「右弁」。諸本により訂正。))子息の童((藤原宗重))、陵王を奏す。納蘇利、次に輪台。両貫首以下、垣代(かいしろ)に立ちけり。右衛門督宗通卿((藤原宗通))、立ち加はり笛を吹く。右大弁、笙を吹く。左京権大夫俊頼朝臣((源俊頼))篳篥(ひちりき)、備後介有賢朝臣((源有賢))唱哥、左近将監狛光季、立ち加はりて詠を唱へける。青海波、右兵衛佐通季((藤原通季))・左兵衛佐宗能((藤原宗能))ぞ舞はれける。次に散手、次に太平楽、次に皇仁、次に賀殿、次に林歌。退出音声(まかでおんじやう)、長慶子なりける。 次に御遊(ぎよいう)。右大臣箏、右衛門督笛、右大弁((「右大弁」は底本「左大弁」。諸本により訂正))拍子、左大弁琵琶、刑部卿顕仲朝臣((源顕仲))笙、有賢朝臣和琴、左中将宗輔朝臣笙、俊頼朝臣篳篥、越前守家保((藤原家保))笙。呂、安名尊・席田・鳥の破。律、伊勢海・三台の急なりけり。 十八日、鳥羽の南殿に行幸なりて、御賀の事ありけり。二十日、後宴を行なはれける。舟楽など果てて、舞ひを御覧ぜられけり。春鶯囀・古鳥蘇・輪台・青海波の曲の間に、主上((堀河天皇))、時に御笛を吹かせ給ひけり。垣代には殿上人ども立ちけるに、右衛門督笛、右大弁唱歌して立ち加はられけり。顕仲朝臣笛、俊頼朝臣篳篥、光季詠を唱ふ。青海波、七切にて拍子を加ふ。次に散手、次に胡飲酒、内大臣の童舞はれけり。次に納蘇利、童季輔((藤原季輔))、日暮れければ、次第をまもらず、童舞をまづ召されけり。次に賀殿、次に林歌、次に三台、次に皇仁。退出音声、蘇合急をぞ奏し侍りける。 ===== 翻刻 ===== 康和四年二月九日御賀試楽ありけり左右内大臣 以下参給けり参入音声に賀王恩を奏す先 万歳楽右大臣御前にして箏を弾し給次地久 次春鶯囀このあいたに管絃物具を楽屋へ下されけり 左大弁琵琶を弾す宰相中将笛をふく右大弁笙 を吹けり次古鳥蘇次胡飲酒中院右府童にてをはし/s355r けるかつかうまつり給けり内大臣一家の人々を率 て楽屋へむかひ給て扶持し給けり内府帰着給 て後そ舞をは奏し侍ける年わつかに九歳の 時也けるに一曲もあやまちなかりけれは万人感歎す る事かきりなかりける去年資忠父子共に害せ られてのち此曲たえけるを父おとと治暦三年に 九歳にて舞給けるをけふ世につたへられぬる目出 かりける事也胡飲酒の童をめして御衵を給はせ 給けるを右大臣伝給けれは童頗舞てかつかりけり 父のおとと座をたちて御衣を取て肩にかけて 左の手に笏を取て弘庇にて此舞の破を舞/s355l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/355 舞給ける見る物目を驚しけり童父の持給たる 御衣つたへとりて又舞て入給ける内大臣拝賀申 されけり次右弁子息の童陵王を奏す納蘇利 次輪臺両貫首以下垣代に立けり右衛門督宗通卿 たちくははり笛をふく右大弁笙を吹左京権大夫 俊頼朝臣篳篥備後介有賢朝臣唱哥左近将監 狛光季立くははりて詠をとなへける青海波右兵衛佐 通季左兵衛佐宗能そまはれける次散手次太平楽 次皇仁次賀殿次林哥退出音声長慶子なりける 次御遊右大臣箏右衛門督笛左大弁拍子左大弁 琵琶刑部卿顕仲朝臣笙有賢朝臣和琴左中将/s356r 宗輔朝臣笙俊頼朝臣篳篥越前守家保笙呂 安名尊席田鳥破律伊勢海三臺急なりけり十八 日鳥羽南殿に行幸なりて御賀事ありけり廿日後 宴をおこなはれける舟楽などはてて舞を御覧せられ けり春鶯囀古鳥蘇輪臺青海波の曲のあいたに 主上時に御笛をふかせ給けり垣代には殿上人とも 立けるに右衛門督笛右大弁唱哥して立くははら れけり顕仲朝臣笛俊頼朝臣篳篥光季詠をと なふ青海波七切にて拍子をくはふ次散手次胡飲酒内 大臣童舞はれけり次納蘇利童季輔日暮けれは次第 をまもらす童舞を先めされけり次賀殿次林哥/s356l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/356 次三臺次皇仁退出音声蘇合急をそ奏し 侍ける/s357r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/357