[[index.html|古今著聞集]] 偸盗第十九
====== 446 横川の恵心僧都の妹安養の尼のもとに強盗に入りにけり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
横川の恵心僧都((源信))の妹、安養の尼のもとに、強盗に入りにけり。物どもみな取りて出でにければ、尼上は紙衾(かみぶすま)といふものばかり負ひ着て居られたりけるに、姉なる尼のもとに、小尼公とてありけるが、走り参りて見ければ、小袖を一つ取り落したりけるをとりて、「これを盗人取り落して侍りけり。奉れ」とて、持ちて来たりければ、尼上の言はれけるは、「これも取りて後は、わがものとこそ思ひつらめ。ぬしの心ゆかざらんものをば、いかが着ける。盗人はいまだ遠くはよもゆかじ。とくとく持ちておはしまして、取らさせ給へ」とありければ、門の方へ走り出でて、「やや」と呼び返して、「これを落されにけり。たしかに奉らん」と言ひければ、盗人ども立ちどまりて、しばし案じたる気色にて、「悪しく参りにけり」とて、取りたりける物どもをも、さながら返し置きて帰りにけりとなん。
===== 翻刻 =====
横川恵心僧都の妹安養の尼のもとに強盗に
いりにけりものともみなとりて出にけれは
あまうへは紙ふすまといふ物はかりをひきて居
られたりけるに姉なるあまのもとに小尼
公とてありけるかはしりまいりてみけれは小袖
をひとつとりおとしたりけるをとりてこれ
を盗人とりおとして侍けりたてまつれとて
もちてきたりけれは尼うへのいはれけるは/s347l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/347
これもとりて後はわか物とこそおもひつらめぬし
の心ゆかさらん物をはいかかきける盗人はいまた
遠くはよもゆかしとくとくもちておはしまして
とらさせ給へとありけれは門のかたへはしり
いててややとよひかへしてこれをおとされに
けりたしかにたてまつらんといひけれは盗人
とも立とまりてしはしあんしたるけしき
にてあしくまいりにけりとてとりたりける
物ともおもさなから返しをきて帰にけりと
なん/s348r
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/348