[[index.html|古今著聞集]] 偸盗第十九 ====== 434 中納言兼光卿建久二年十二月二十八日に検非違使別当になりて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 中納言兼光卿((藤原兼光))、建久二年十二月二十八日に検非違使別当になりて、庁務ことにおこし、沙汰ありけるに、賤しき者の小屋に、小さき釜の失せたりけるを、隣なりける腰居(こしゐ)が盗みたる嫌疑ありて、贓物(ざうもつ)を探し出だしたりけるに、腰居申しけるは、「手をもちてこそゐざり歩(あり)き候へ。手を離れては、いかでか取り侍るべき。他人ぞ盗みて置きて侍らん」と陳じければ、「まことに申すところ理なり」と沙汰ありけれど、盗まれたる者の訴訟強くて、大理の門前に召し出だして内問ありけり。 相論ことゆかざりけるに、別当はかりごとをめぐらして、「この腰居、申すところ不便(ふびん)なり。ただこの釜をば、腰居に取らすべし」と仰せ下したりければ、腰居喜びて、頭(かしら)にうちかづきて、ゐざり出でけるを見て、「実犯(じつぽん)なりけり。かたはの身なれども、かくして盗みてけり」と悟りて、科(とが)に行なはれけり。 ゆゆしかりけるはかりごとなり。 ===== 翻刻 ===== 中納言兼光卿建久二年十二月廿八日に検非違 使別当になりて庁務ことにおこし沙汰ありけ るに賤ものの小屋にちひさき釜のうせたり けるを隣なりける腰居かぬすみたるけんき ありて臓物をさかし出したりけるにこしゐ申 けるは手をもちてこそゐさりありき候へて をはなれてはいかてかとり侍へき他人そ盗 てをきて侍らんと陳しけれはまことに申/s332r 所理なりと沙汰ありけれとぬすまれたるものの 訴訟つよくて大理の門前にめし出して内問あり けり相論事ゆかさりけるに別当はかりことを めくらしてこの腰居申所不便なりたた此釜を は腰居にとらすへしと仰下したりけれは 腰居よろこひてかしらにうちかつきていさりい てけるをみて実犯なりけりかたはの身なれと もかくしてぬすみてけりとさとりて科におこな はれけりゆゆしかりけるはかりことなり/s332l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/332