[[index.html|古今著聞集]] 偸盗第十九 ====== 430 また篳篥師用光南海道に発向の時海賊にあひたりけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また篳篥師(ひちりきし)用光((和邇部用光))、南海道に発向の時、海賊にあひたりけり。用光をすでに殺さんとする時、海賊に向ひていはく、「われ久しく篳篥をもて朝に仕へ、世にゆるされたり。今、いふかひなく賊徒のために害されん((「害されん」は底本「害さられん」。諸本により訂正。))とす。これ宿業のしからしむるなり。しばらくの命を得させよ。一曲の雅声を吹かん」と言へば、海賊、抜ける太刀をおさへて、吹かせけり。用光、最後の勤めと思ひて、泣く泣く臨調子を吹きにけり。 その時、情けなき群賊も感涙をたれて、用光を許してけり。あまさへ淡路の南浦まで送りて、下し置きけり。 諸道にたけぬるは、かくのごとくの徳を必ずあらはすことなり。末代なほしかあることども多かり。 ===== 翻刻 ===== 又篳篥師用光南海道に発向のとき海賊に/s326l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/326 あひたりけり用光をすてにころさんとする時海賊に 向ていはく我ひさしく篳篥をもて朝につかへ世に ゆるされたり今いふかひなく賊徒のために害さられん とすこれ宿業のしからしむるなりしはらくの命を えさせよ一曲の雅声をふかんといへは海賊ぬけ る太刀をおさへてふかせけり用光最後のつと めと思て泣々臨調子を吹にけり其時なさけな き群賊も感涙をたれて用光をゆるしてけり あまさへ淡路の南浦まておくりておろしをき けり諸道に長ぬるはかくのことくの徳をかな らすあらはす事也末代なをしかある事共多かり/s327r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/327