[[index.html|古今著聞集]] 画図第十六 ====== 398 同じ御時絵難房といふ者候ひけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 同じ御時((後白河法皇の時代。[[s_chomonju397|397]]参照。))、絵難房といふ者候ひけり。いかによく書きたる絵にも、必ず難を見出す者なりけり。 ある時、古き上手どもの書きたる絵本の中に、人の犬を引きたるに、犬すまひて行かじとしたる体(てい)、まことに生きてはたらく様なり。また、男の肩脱ぎて、鐇(たつぎ)ふりかたげて、大木を切りたるあり。 法皇((後白河法皇))の仰せに、「これをば、絵難房も力及ばじものを」とて、すなはち召して見せられければ、よくよく見て、「めでたくは書きて候ふが、難(なん)少々候ふ。これほどすまひたる犬の頭縄(くびなは)は、下腹のはたより、よく引きすごされて候ふべきなり。これは犬はすまひて、頭縄普通なる体に見え候ふなり。また、木切りたる男、めでたく候ふ。ただし、これほどの大木を半らすぎ切り入れて候ふに、ただ今散りたるこけらばかりにて、前に散り積もりたるなし。これ大きなる難に候ふ」と申しければ、法皇、仰せらるることもなくて、絵を収められにけり((「れにけり」は底本「れゝけり」。諸本により訂正。)) ===== 翻刻 ===== 同御時絵難房といふ物候けりいかによく書たる絵にも 必す難をみいたすものなりけり或時ふるき上手ともの かきたる絵本の中に人の犬を引たるにいぬすまひ てゆかしとしたるていまことにいきてはたらく様なり又/s300l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/300 男のかたぬきてたつきふりかたけて大木を切たるあり 法皇の仰に是をは絵難房も力及はし物をとて 即召てみせられけれはよくよくみて目出は書て候か難 少々候これ程すまひたる犬のくひ縄はしたはらのはた よりよくひきすこされて候へき也是は犬はすまひて頭 縄普通なる体にみえ候也又木きりたる男目出候但 これ程の大木をなからすき切入て候に只今ちりたる こけらはかりにて前に散つもりたるなしこれ大なる 難に候と申けれは法皇被仰事もなくて絵をお さめられれけり/s301r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/301