[[index.html|古今著聞集]] 弓箭第十三 ====== 348 一院鳥羽殿にわたらせおはしましけるころみさご日ごとに出で来て・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 一院((鳥羽上皇とする説と後鳥羽上皇とする説がある。))、鳥羽殿にわたらせおはしましけるころ、みさご、日ごとに出で来て池の魚を取りけり。 ある日、これを射させんと思し召して、「武者所に誰か候ふ」と御尋ねありけるに、折節むつる((源むつる。源昵とする説、源馴とする説などがある。))候ひけり。召しにしたがひて参りたりけるに、「この池にみさごのつきて、多くの魚を取る。射とどむべし。ただし、射殺さんことは無慚(むざん)なり。鳥も殺さず、魚をも殺さじと思し召すなり。あひはからひて、つかうまつるべし」と勅定ありければ、否み申すべきことなくて、すなはちまかり立ちて、弓矢を取りて参りたりけり。矢は雁股にてぞありける。 池の汀(みぎは)の辺に候ひて、みさごをあひ待つ所に、案のごとく来たりて、鯉を取りてあがりけるを、よく引きて射たりければ、みさごは射られながらなほ飛び行きけり。鯉は池に落ちて腹白にて((「にて」は底本「さて」。諸本により訂正。))浮きたりけり。 すなはち取り上げて、叡覧(えいらん)にそなへければ、みさごの魚を把みたる足を射切りたりけり。鳥は足は切れたれども、ただちに死なず。魚もみさごの爪立ちながら死なず。魚も鳥も殺さぬやうに勅定ありければ、かくつかうまつりたりけり。「凡夫(ぼんぶ)のしわざにあらず」とて、叡感のあまりに禄を賜ひけるとなむ。 ===== 翻刻 ===== 一院鳥羽殿にわたらせおはしましける比みさこ日こと にいてきて池の魚を取けり或日これを射させんと おほしめして武者所に誰か候と御尋ありけるに折節 むつる候けり召にしたかひてまいりたりけるに此池に みさこのつきておほくの魚をとる射ととむへし但射 ころさん事は無慚なり鳥もころさす魚をもこ ろさしと思食すなりあひはからひてつかうまつ るへしと勅定ありけれはいなみ申へき事な/s256r くて即罷立て弓矢を取て参たりけり矢は 狩股にてそありける池の汀の辺に候てみさこを あひ待ところにあんのことく来て鯉を取てあかり けるをよく引ていたりけれはみさこはいられなから 猶飛行けり鯉は池に落て腹白さてうきたりけり 則とりあけて叡覧にそなへけれはみさこの魚を つかみたる足をいきりたりけり鳥は足はきれたれ ともたたちにしなす魚もみさこの爪たちなから しなす魚も鳥も殺さぬやうに勅定ありけれは かくつかふまつりたりけり凡夫のしわさにあらす とて叡感のあまりに禄を給けるとなむ/s256l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/256