[[index.html|古今著聞集]] 和歌第六 ====== 179 昔夫婦あひ思ひて住みけり男戦に従ひて遠く行くに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 昔、夫婦あひ思ひて住みけり。男、戦(いくさ)に従ひて遠く行くに、その妻、幼き子を具して、武昌の北の山まて送る。男の行くを見て、悲しみ立てり。 男、帰らずなりぬ。女、その子を負ひて、立ちながら死ぬるに、化して石となれり。その形、人の子を負ひて立てるがごとし。これによりて、この山を望夫山と名付け、その石を望夫石((「望夫石」は底本「望夫山」。諸本により訂正。))といへり。くはしくは『幽明録』に見えたり。 『しらら』といふ物語に、「しららの姫公、夫(をとこ)の少将の、迎へに((底本「に」なし。諸本により補う。))来んと契りて、遅かりしを待つとて詠める」とあるは、この心なり。   頼めつつ来がたき人を待つほどに石にわが身ぞなり果てぬべき ===== 翻刻 ===== 昔夫婦あひ思て住けり男いくさにしたかひて遠くゆくに 其妻をさなき子をくして武昌の北の山まてをくる男 の行をみてかなしみたてり男帰らすなりぬ女その子を負 て立なから死ぬるに化して石となれり其かたち人の子/s134r をおひてたてるかことしこれによりて此山を望夫山と なつけ其石を望夫山といへりくはしくは幽明録に見 えたりしららといふ物語にしららの姫公おとこの少将のむ かへこんと契て遅かりしをまつとてよめるとあるは此心なり  たのめつつきかたき人を待ほとに石に我身そ成はてぬへき/s134l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/134