[[index.html|古今著聞集]] 和歌第六 ====== 150 嘉保三年正月三十日殿上人船岡にて花を見けるに斎院選子より柳の枝を賜はせけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 嘉保三年正月三十日、殿上人、船岡にて花を見けるに、斎院選子((村上天皇皇女選子内親王。ただし、嘉保三年の斎院は白河天皇皇女令子内親王。))より柳の枝を賜はせけり。人々、これを見ければ、「いとのしたには」と書かれたりけり。 他人その心を知らざりけるに、雅通((源雅通))、たまたま古歌の一句を悟りて、返事を奉りけるにこそ、人々の色直りにけれ。紙のなかりければ、直衣(なほし)を破(や)り書き侍りける。   散りぬべき花をのみこそ尋ねつれ思ひもよらず青柳の糸 その夜のことにや、殿上人、斎院へ参りたりける、御用意なからんことをはかり奉りけるにや。さるほどに、寝殿より打衣(うちぎぬ)着たる女房歩み出でて、笙を持ちて、殿上人に賜はせけり。雪にて管を作り、垂氷(たるひ)にて竹を作りたりけり。すなはち内裏へ持ちて参りて、御覧ぜさせければ、ことに叡感ありて、大宮へ奉らせ給ひけり。 人々、後朝(きぬぎぬ)に斎院へ帰り参りたりければ、酒肴(しゆかう)をぞまうけられたりける。用意ありけることにや。 ===== 翻刻 ===== 嘉保三年正月卅日殿上人船岡にて花を見けるに 斎院選子より柳の枝をたまはせけり人々これをみ けれはいとのしたにはとかかれたりけり他人その心をしら さりけるに雅通たまたま古哥の一句をさとりて返事を/s115r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/115 たてまつりけるにこそ人々の色なをりにけれ紙のな かりけれは直衣をやり書侍りける  ちりぬへき花をのみこそ尋つれ思もよらす青柳の糸 其夜の事にや殿上人斎院へまいりたりける御用意 なからんことをはかりたてまつりけるにやさる程に寝殿 より打衣きたる女房あゆみいてて笙をもちて殿上人に たまはせけり雪にて管をつくりたるひにて竹を作たり けりすなはち内裏へもちてまいりて御覧せさせけれは ことに叡感ありて大宮へたてまつらせ給けり人々後 朝に斎院へ帰りまいりたりけれは酒肴をそまうけ られたりける用意ありける事にや/s116r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/116