[[index.html|古今著聞集]] 文学第五
====== 115 後徳大寺左大臣前の大納言にておはしける時人々をともなひて・・・ ======
===== 校訂本文 =====
後徳大寺左大臣((藤原実定))、前(さき)の大納言にておはしける時、人々をともなひて、嘉応二年九月十三夜、宝荘厳院にて、当座の詩歌合(しいかあは)せありけるに、式部大輔永範卿((藤原永範))、月の影に立ち出でて、抄物を見て、
楼台月映素輝冷 楼台月映りて素輝冷やかなり
七十秋闌紅涙余 七十の秋闌(たけなは)なりて紅涙余れり
といふ秀句を作りたりける。
昔は懐(ふところ)に抄物など持つ、苦しからぬことなりけり。近代は不覚のことに思ひて、持たぬこととなり果てにけり。
===== 翻刻 =====
後徳大寺左大臣前大納言にておはしける時人々を
ともなひて嘉応二年九月十三夜宝荘厳院にて
当座の詩哥合ありけるに式部大輔永範卿月の
かけに立いてて抄物をみて楼臺月映素輝冷七十
秋闌紅涙餘といふ秀句を作たりけるむかしはふとこ
ろに抄物なともつくるしからぬ事なりけり近代は不覚の
事におもひてもたぬ事となりはてにけり/s91r
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/91