[[index.html|古今著聞集]] 釈教第二 ====== 45 承平元年の夏ごろ貞崇法師東寺の坊にて経を読みけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 承平元年の夏ごろ、貞崇法師、東寺の坊にて経を読みけるに、大きなる亀出で来て見えけり。非常の物と思ひて見ず。心を専らにして経を読みけるに、しばしありて雷電して、この亀、天に入りけり。 次の日、火雷神、形を現じ給ひて、貞崇にのたまひけるは、「われ、昨日物語せんと思ひしに、われを見ざりし、本意を背(そむ)けり」。貞崇、答へ申していはく、「昨日、ただ大きなる亀を見る。崇神とは知り奉らず。ただし怪しむ所は、雷天にのぼることを」。神のたまはく、「われ、もとの悪心によりて苦を受く。なんぢ、わが形を見るべし」とて、すなはち現じ給ひけり。 貞崇、見奉るに、上の体雷公の図に似たり。腰より下(しも)は、みな鮭のごとし。また神ののたまはく、「腰の下(しも)、常に火燃ゆるがごとし。六月にまた内裏へ参らんと思ふなり」とのたまひて、すなはち見え給はず。 ===== 翻刻 ===== 承平元年の夏比貞崇法師東寺の坊にて経を 読けるに大なる亀出来て見えけり非常の物と思 てみす心を専にして経をよみけるにしはし有て雷 電してこの亀天に入けり次日火雷神形を現し 給て貞崇にの給けるは我昨日物語せんと思しに 我を見さりし本意を背けり貞崇こたへ申て云 昨日たた大なる亀をみる崇神とはしりたてまつら すたたしあやしむ所は雷天に冲ことを神の給は くわれもとの悪心によりて苦をうく汝我か形をみるへし とて即現し給けり貞崇みたてまつるに上の体 雷工の図に似たり腰よりしもはみな鮭のことし又神/s41l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/41 のの給はく腰のしも常に火もゆるかことし六月に又 内裏へまいらんと思ふなりとの給て則見え給はす/s42r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/42