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世継物語

第43話 殿の御前御堂にて人々しばし出で給へ心のどかに念仏せんと・・・

校訂本文

今は昔、殿の御前、御堂にて「人々、しばし出で給へ。心のどかに念仏せん」とのたまはせければ、殿ばらもまとへ渡らせ給ひぬ。念仏せさせ給ふ。

そのほど、礼盤(らいばん)に僧一人侍りて、経誦み奉る。かかる程に、入相(いりあひ)の鐘、おどろおどろしければ、交野(かたの)の尼公、

  今日暮れて明日もありとな頼みそとつき驚かす鐘の声かな

この御堂、初めより花を持ちて参る尼ありけり。あはれがらせ給ひて、殿の御前へよろづを知らせ給ひけり。みやびかなる様したりけり。例の花、持ちて参りたれば、御前なる阿闍梨(あざり)、花籠(はなこ)なからそうじ1)召して取らするおりに、この尼、

  朝まだき急ぎ置きつる花なれど我より先に露ぞ置きける

「返しせよ」と仰せらるれば、阿闍梨

  君がためつとめて花を折れとてや同じ心に露置きつらん

翻刻

今は昔殿の御まへ御堂にて人々しはし出給へ心の
とかに念仏せんとの給はせけれは殿はらもまとへわ
たらせ給ぬ念仏せさせ給その程らいはんに僧一人侍
て経よみ奉るかかる程に入あひのかねおとろおとろしけ/23オ
れはかた野の尼公
  けふ暮てあすもありとなたのみそとつき驚す鐘の声哉
此御堂初より花をもちてまいるあま有けりあはれか
らせ給て殿の御まへへよろつをしらせ給けりみやひか
なるさましたりけりれいの花もちてまいりたれは御ま
へなるあさり花こなからそうし(承仕)めしてとらするおり
にこのあま
  あさまたきいそきをきつる花なれと我より先に露そ置ける
返しせよとおほせらるれはあさり
  君か為つとめて花をおれとてやおなし心に露をきつらん/23ウ
1)
底本傍注「承仕」。雑務をする僧侶のこと。
text/yotsugi/yotsugi043.txt · 最終更新: 2014/09/25 02:38 by Satoshi Nakagawa
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