text:yomeiuji:uji197
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text:yomeiuji:uji197 [2014/04/22 14:38] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji197 [2014/10/13 15:02] – Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第197話(巻15・第12話)盗跖と孔子、問答の事 ====== | ====== 第197話(巻15・第12話)盗跖と孔子、問答の事 ====== | ||
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**盗跖と孔子、問答の事** | **盗跖と孔子、問答の事** | ||
- | これも今はむかし、もろこしにりうかくゑ((柳下恵))いといふ人ありき。世のかしこき物にして、人にをもくせらる。そのおととに、盗跖と云者あり。一の山ふところに住て、もろもろのあしき物をまねき集て、をのが伴侶として、人の物をば我物とす。ありく時は、このあしき物どもをぐする事、二三千人也。 | + | これも今はむかし、もろこしにりうかくゑい((柳下恵))といふ人ありき。世のかしこき物にして、人にをもくせらる。そのおととに、盗跖と云者あり。一の山ふところに住て、もろもろのあしき物をまねき集て、をのが伴侶として、人の物をば我物とす。ありく時は、このあしき物どもをぐする事、二三千人也。 |
道にあふ人をほろぼし、恥をみせ、よからぬ事のかぎりを好みて過すに、りうかくゑい、道を行時に、孔子に逢ぬ。「いづくへおはするぞ。みづから対面してきこえんとおもふ事のあるに、かしこく逢給へり」といふ。りうかくゑい、「いかなる事ぞ」ととふ。「教訓しきこえんと思事は、そこの舎弟、もろもろのあしき事のかぎりを好みて、おほくの人をなげかする。など制し給はぬぞ」。りうかくゑい答云、「おのれが申さん事を、あへて用べきにあらず。されば、なげきながら年月をふるなり」といふ。孔子の云、「そこをしへ給はずは、我行てをしへん。いかがあるべき」。りうかくゑい云、「さらにおはすべからず。いみじきこと葉をつくしてをしへ給とも、なびくべき物にあらず。かへりてあしき事いできなん。あるべき事にあらず」。孔子云「あしけれど、人の身をえたる物は、おのづからよき事をいふに、つく事もあるなり。それに『あしかりなん。よもきかじ』といふ事は、ひが事也。よし、み給へ。をしへてみせ申さん」と、こと葉をはなちて、盗跖がもとへおはしぬ。 | 道にあふ人をほろぼし、恥をみせ、よからぬ事のかぎりを好みて過すに、りうかくゑい、道を行時に、孔子に逢ぬ。「いづくへおはするぞ。みづから対面してきこえんとおもふ事のあるに、かしこく逢給へり」といふ。りうかくゑい、「いかなる事ぞ」ととふ。「教訓しきこえんと思事は、そこの舎弟、もろもろのあしき事のかぎりを好みて、おほくの人をなげかする。など制し給はぬぞ」。りうかくゑい答云、「おのれが申さん事を、あへて用べきにあらず。されば、なげきながら年月をふるなり」といふ。孔子の云、「そこをしへ給はずは、我行てをしへん。いかがあるべき」。りうかくゑい云、「さらにおはすべからず。いみじきこと葉をつくしてをしへ給とも、なびくべき物にあらず。かへりてあしき事いできなん。あるべき事にあらず」。孔子云「あしけれど、人の身をえたる物は、おのづからよき事をいふに、つく事もあるなり。それに『あしかりなん。よもきかじ』といふ事は、ひが事也。よし、み給へ。をしへてみせ申さん」と、こと葉をはなちて、盗跖がもとへおはしぬ。 |
text/yomeiuji/uji197.txt · 最終更新: 2019/12/08 15:58 by Satoshi Nakagawa