text:yomeiuji:uji194
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text:yomeiuji:uji194 [2019/12/07 15:15] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji194 [2019/12/07 15:46] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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さて、年ごろ過ぎて、ある冬、雪降りける日、暮れ方に、上人、郡司が家に来ぬ。郡司、喜びて、例のことなれば、食物、下人どもにも営ませず、夫婦手づから、みづからして召させけり。湯など浴みて臥しぬ。暁はまた、郡司夫妻とく起きて、食物種々に営むに、上人の臥し給へる方、香ばしきことかぎりなし。匂ひ一家に宛まり((「宛まり」底本ママ。))、「これは名香など焼き給ふなめり」と思ふ。「暁はとく出でん」とのたまひつれども、夜明くるまで起き給はず。郡司、「御粥出で来たり。このよし申せ」と御弟子に言へば、「腹悪しくおはする上人なり。悪しく申して打たれ申さん。今起き給ひなん」と言ひてゐたり。 | さて、年ごろ過ぎて、ある冬、雪降りける日、暮れ方に、上人、郡司が家に来ぬ。郡司、喜びて、例のことなれば、食物、下人どもにも営ませず、夫婦手づから、みづからして召させけり。湯など浴みて臥しぬ。暁はまた、郡司夫妻とく起きて、食物種々に営むに、上人の臥し給へる方、香ばしきことかぎりなし。匂ひ一家に宛まり((「宛まり」底本ママ。))、「これは名香など焼き給ふなめり」と思ふ。「暁はとく出でん」とのたまひつれども、夜明くるまで起き給はず。郡司、「御粥出で来たり。このよし申せ」と御弟子に言へば、「腹悪しくおはする上人なり。悪しく申して打たれ申さん。今起き給ひなん」と言ひてゐたり。 | ||
- | さるほどに、日も出でぬれば、「例は、かやうに久しくは寝給はぬに、あやし」と思ひて、寄りておとなひけれど、音なし。引き開けて見れば、西に向ひ、端座合掌して、はや死に給へり。あさましきことかぎりなし。郡司夫婦、御弟子どもなど、悲しみ泣きみ、かつは貴み拝みけり。「暁、香ばしかりつるは、極楽の迎へなりけり」と思ひ合はす。 | + | さるほどに、日も出でぬれば、「例は、かやうに久しくは寝給はぬに、あやし」と思ひて、寄りておとなひけれど、音なし。引き開けて見れば、西に向ひ、端座合掌して、はや死に給へり。あさましきことかぎりなし。郡司夫婦、御弟子どもなど、悲しみ泣きみ、かつは貴み拝みけり。「暁、香ばしかりつるは、極楽の迎へなりけり」と思ひ合はす。「『終りに会ひ申さん』と申ししかば、ここに来給ひてけるにこそ」と、郡司、泣く泣く葬送のこともとり沙汰しけるとなん。 |
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text/yomeiuji/uji194.txt · 最終更新: 2019/12/07 15:46 by Satoshi Nakagawa