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text:yomeiuji:uji193 [2017/10/07 21:50]
Satoshi Nakagawa [第193話(巻15・第8話)相応和尚、都卒天に上る事(付、染殿后・・・]
text:yomeiuji:uji193 [2019/12/05 11:33] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **相応和尚、都卒天に上る事(付、染殿后祈り奉る事)** **相応和尚、都卒天に上る事(付、染殿后祈り奉る事)**
  
-今はむかし、叡山無動寺に相応和尚と云人おはしけり。比良山の西に、葛川の三滝といふ所にも通て行給けり。其滝にて、不動尊に申給はく、「我を負て、都卒の内、院弥勒菩薩の御許にいて行給へ」とあながちに申ければ、「極てかたき事なれども、しゐて申事なればいてゆくべし。其尻を洗へ」と仰ければ、滝の尻にて、水あみ、尻よく洗て、明王の頸に乗て、都卒天にのぼり給ふ。+===== 校訂本文 =====
  
-内院門の額に、「妙法蓮華」書れたり。明王給はく、「へ参入の者は、此経誦し入。誦せざればいらず」とたまへばはるか見上、相応のはく、「此経読はよみ奉る。誦る事、いまだ叶はず」。明王「さては口惜事也。其議ば、参入叶からず帰て法花経誦してのち参給へ」とて掻負給て、葛川へ帰給ければ、泣悲し給事限なし。さて、本尊御前にて経を誦し給てのち本意を遂けりとなん。其不動尊は、いまに無動寺におはします。等身の像にてぞましましける+今はむかし、叡山無動寺((比叡山延暦寺東塔の寺。南山とも。))相応和尚といふ人おはしけり。比良山西に、葛川(かつらがは)の三滝いふ所にも通ひて行ひ給ひけり。その滝にて、不動尊((不動明王))に申し給はく、「れを負ひて、都卒((都率天・兜率天))内院弥勒菩薩の御許行きへ」と、あながちに申しければ、「きはめてかたきことなれどもしひて申となば、率て行くその尻へ」と仰せければ、滝の尻にて、水浴、尻よく洗ひて、明王頸(くび)乗りて、都率天に上り
  
-其和尚かやう奇特効験おはしれば、染殿物気なやみ給けるを或人申けるは、「慈覚大師の御弟子に無動寺相応和尚と申、いみじ行者に侍れ」とければ、につかはす。+ここに内院の門の額、「妙法蓮華」と書かれたり。明王たまく、「これへ参入の者は、この経を誦て入る。誦せざれば入らず」とたまへば遥か見上げて相応のたま、「われ経読みは読み奉る。誦する、いまだかなはず」と。明王「さては口惜しことなり。その議ならば、参入かなふべからず。帰り法華経を誦して後、参り給へ」とて、かき負ひ給ひて、葛川へ帰り給ひければ、泣き悲み給ふことぎりなし。さて、本尊の御前にて、経を誦し給ひてのち、本意を遂げ給ひけりとなん。その不動尊、いまに無動寺におはしま、等身の像にてぞましましける
  
-則御使につれて参りて中門たてり。人々みれば、長高き僧の、ごとくなが、信濃布衣にき椙の平足駄をきて、大木槵子念珠を持り。其体、召あぐべき物にあらず。「下種法師にこそ」とて「ただ、簀子の辺立ながら、加持申べし」とおのおのて、「御階の東の腋の高欄のもとにて、立ながら候へ」と仰下しければ、御階の東の腋の高欄立ながら、押かりて、祈たてまつる+その和尚かやう奇特(きどく)の効験おはしければ、染殿后((藤原明子))物怪(ものけ)に悩み給ひけるを、ある人申しけるは、「慈覚師((円仁))の御弟子動寺相応和尚と申すこそ、いみじき行者て侍れ」と申しければ、召しはす
  
-寝殿の母屋伏給とくるしげなる御こゑ時々御簾にきこゆ和尚纔に其声をききて、高声に加持しまつる。其声明王現じ給ぬと、御前に人々毛もよだちておぼゆ+すなち御使連れて参りて、中門に立てり人々見れば、長(たけ)高き僧の、鬼のごとくなる信濃布(しなぬの)を衣着、椙(すぎ)の平足駄を履て、大木槵子(だいもくれんじ)の念珠を持てり「その体、御前に召し上ぐべ者にあらず。無下の下種法師にこそ」とて、「ただ、簀子(すのこ)の辺立ちながら、加持申すべし」と、おのおの申して、「御階(みはし)の高欄(かうらん)のもとにて立ちながらへ」と仰せ下しければ御階東の脇の高欄に立ながら、押しかかり祈り奉る
  
-しばしあれば、、紅御衣二斗つつまれて、鞠のごとく簾中よりころび出させて、和尚の前の簀子に投置たてまつる人々さはぎて、「いと見ぐる。内へ入たてまつりて和尚も候へ」といへども、和尚、かるかたい身に候へばでかまかりのぼるべき」とて更のぼらず。はめ召あげられざりしを、すからずいきどをり思て、ただ簀子て宮を四五尺あげて打奉る。人々しわびて御几帳どをさしおしてたてかくし中門をさしてをはらへどもきはめ顕露なり。四五度斗打奉て、投入投入祈ければ、もとのごとく内へ投入つ+は寝殿母屋し給。いとげなる御声時々簾(みす)の外(ほか)聞こゆ。和尚、わづにそ御声を聞きて、高声(じやう)加持し奉る。その声明王現じ給ひぬと御前に候ふ身の毛よだち覚ゆ
  
-其後和尚まかりで、「しばし候へ」と留れども、久く立て、「腰い候」とて、もきき入して出ぬ宮は投入られて後御物気さめて、御心ちさはやかになり給ぬ。「験徳あたな」とて、僧都任べきよし宣下せられども「かやうのかいは何条僧綱に成べき」とて、し奉+しばしあれば宮、紅の御衣(おんぞ)二つばかりに押し包まれて、鞠(まり)のごとく簾中(れんちゆう)よりころび出させ給ひて、和尚の前の簀子に投げ置き奉る。人々騒ぎて、「いと見苦。内へ入れ奉りて、和尚も御前に候へ」と言へども、和尚、「かかるかゐの身にてへば、いかでかまかり上るべき」とて、さら上らず。始め召し上げられざりしを、やからず憤思ひて、ただ簀子宮を四・五尺あげて打ち奉。人々しわびて御几帳(みきちやう)どもをさし出だしてたて隠し中門をさて、人を払へども、きはめて顕露(けんろ)なり。四五度ばかり打ちて、投げ入れ投げ入れ祈りければ、もとのごとく内へ投げ入れつ
  
-後も召されども、「京は人を賤うす所なり」とてまいらざりけるとぞ。+その後、和尚まかり出で、「しばし候へ」ととどむれども、「久しく立ちて、腰痛く候ふ」とて、耳にも聞き入れずして出でぬ。宮は、投げ入られて後、御物怪さめて、御心地さはやかになり給ひぬ。「験徳(げんとく)あらたなり」とて、僧都に任ずべきよし、宣下せらるれども、「かやうのかたゐは、なんでふ僧綱になるべき」とて、返し奉る。 
 + 
 +その後も召されども、「京は人を賤うす所なり」とて、さららざりけるとぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし叡山無動寺に相応和尚と云人おはしけり比良山の/下104ウy462 
 + 
 +  西に葛川の三滝といふ所にも通て行給けり其滝にて 
 +  不動尊に申給はく我を負て都卒の内院弥勒菩薩の御 
 +  許にいて行給へとあなかちに申けれは極てかたき事なれともしゐて申 
 +  事なれはいてゆくへし其尻を洗へと仰けれは滝の尻にて水あみ 
 +  尻よく洗て明王の頸に乗て都卒天にのほり給ふ爰に内院 
 +  の門の額に妙法蓮花と書れたり明王の給はくこれへ参入の者は 
 +  此経を誦して入誦せされはいらすとのたまへははるかに見上て相 
 +  応の給はく我此経読はよみ奉る誦する事いまた叶はすと明 
 +  王さては口惜事也其議ならは参入叶へからす帰て法花経を 
 +  誦してのち参給へとて掻負給て葛川へ帰給けれは泣悲しみ 
 +  給事限なしさて本尊の御前にて経を誦し給てのち本 
 +  意を遂給けりとなん其不動尊はいまに無動寺におはします 
 +  等身の像にてそましましける其和尚かやうに奇特の効験/下105オy463 
 + 
 +  おはしけれは染殿の后物気になやみ給けるを或人申けるは慈覚 
 +  大師の御弟子に無動寺の相応和尚と申こそいみしき行者にて 
 +  侍れと申けれはめしにつかはす則御使につれて参りて中門にた 
 +  てり人々みれは長高き僧の鬼のことくなるか信濃布を衣に 
 +  き椙の平足駄をはきて大木槵子の念珠を持り其体御前 
 +  に召あくへき物にあらす無下の下種法師にこそとてたた簀子 
 +  の辺に立なから加持申へしとおのおの申て御階の高欄のもとにて 
 +  立なから候へと仰下しけれは御階の東の腋の高欄に立なから 
 +  押かかりて祈たてまつる宮は寝殿の母屋に伏給いとくるしけなる 
 +  御こゑ時々御簾の外にきこゆ和尚纔に其御声をききて 
 +  高声に加持したてまつる其声明王も現し給ぬと御前に候人々 
 +  身の毛よたちておほゆしはしあれは宮紅の御衣二斗にをし 
 +  つつまれて鞠のことく簾中よりころひ出させ給て和尚の前の/下105ウy464 
 + 
 +  簀子に投置たてまつる人々さはきていと見くるし内へ入たて 
 +  まつりて和尚も御前に候へといへとも和尚かかるかたいの身にて候へは 
 +  いかてかまかりのほるへきとて更のほらすはしめ召あけられさりし 
 +  をやすからすいきとをり思てたた簀子にて宮を四五尺あけて 
 +  打奉る人々しわひて御几帳ともをさし出してたてかくし中門 
 +  をさして人をはらへともきはめて顕露なり四五度斗打奉 
 +  て投入投入祈けれはもとのことく内へ投入つ其後和尚まかりいて 
 +  しはし候へと留れとも久く立て腰いたく候とて耳にもきき入 
 +  すして出ぬ宮は投入られて後御物気さめて御心ちさはやかに 
 +  なり給ぬ験徳あらたなりとて僧都に任へきよし宣下せらる 
 +  れともかやうのかたいは何条僧綱に成へきとて返し奉る其後も 
 +  召れとも京は人を賤うす所なりとて更にまいらさりけるとそ/下106オy465
  


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