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text:yomeiuji:uji192

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text:yomeiuji:uji192 [2014/10/13 13:46]
Satoshi Nakagawa
text:yomeiuji:uji192 [2019/12/04 15:56] (現在)
Satoshi Nakagawa [校訂本文]
ライン 6: ライン 6:
 **伊良縁世恒、毘沙門の御下文を給はる事** **伊良縁世恒、毘沙門の御下文を給はる事**
  
-いまはむかし、越前国に伊良縁の世恒といふ物有けり。とりわきてつかふまつる毘沙門に、物もくはで物のほしかりければ、「助給へ」と申ける程に、「かどにいとほしげなる女の『家あるじに物いはん』との給ふ」といひければ、「誰にかあらん」とて出あひたれば、かはらけに物をひともり、「これくひ給へ。物ほしとありつるに」とてとらせたれば、悦てとりて入て、ただすこし食たれば、やがて飽みちたる心ちして、二三日は物もほしからねば、これををきて、物のほしきおりごとにすこしづつくらひてありける程に、月比過て此物もうせにけり。+===== 校訂本文 =====
  
-かがせんずる」とて、又念じたてまつりければ、又ありやう人のつげければ、、まど出てみれば、し女房の給やう、「これくだぶみたてまつらん。こより北の谷峰百町を越て、中に高き峰あ。それに立『なりた』とよばば、ものいでなん。それにのふみみせて、たてまつらんをうけよ」ひていぬ。このくだし文をみれば「米二斗わたすべし」とあり。+今は昔、越前国に伊良縁(らえ)の世恒(よつね)(([[:​text:​k_konjaku:​k_konjaku17-47|『今昔物語集』17ー47]]は「生江の世経、[[:​text:​kohon:​kohon061|『古本説話集』61]]は本文「伊曽へ野世恒」・目録「伊良縁野世恒」。))いふ者ありけり。とりわきつかうまつる毘沙門((毘沙門天))に、物も食はで、物の欲しかりければ、「助け給へ」と申けるほど、「門(かど)に、いとをかしなる女の、『家主(いへあるじ)にもの言はん』とのたまふ」と言ひければ、「誰かあん」と出で会れば、土器(かはらけに)物を一盛り、「これ食ひ給へ。物欲とありるに」とて取せた悦びて、りてて、だ少し食ひたれば、やがて飽満ちたる心地して、二・三日は物も欲しからねば、置きて、物の欲しき折ごに、少しづつ食ひてありけるほどに、月ごろ過ぎて、この物も失せにけり。
  
-がてそのま行て見ければ、実に高き峰あり。それにて、「なりた」とよべばおそろげなるゑにていらへて、たる物あり。は額角おひ目一ある物あかきたうさぎしる物出来て、ひざまづきてゐたりれ御下なり。此米えさせよ」といへば、「さる事候」とて下文をみて、「是は二斗と候へども一斗をたてまつれとなん候つる也」とて、一斗をぞとらせたける+「いかせんずる」とた念じ奉りければ、また、ありしやうに人の告げけば、始めならひて、まどひ出でて見れば、あし女房、のまふやう「これ下文(ぶみ)奉らん。れより北の谷、峰百町を越えて、中に高あり。れに立ちて、『なり』と呼ばば、ものなんそれに(ふみ)を見て、奉らんものを受けよ」と言ひ去ぬ。この文を見れば、「二斗渡すべし」とり。
  
-そのままに請取て、その入たる米をつかふに、一つきざりり。千万石とれども、只おじやうにて、一斗はうりけ+やがて、そのまま行きて見ければ、まことに高き峰あり。それにて、「なりた」と呼べば、恐しげなる声にいらへて、出で来たるあり。見れば額に角生ひて目一つあるもの、赤褌(たふさぎ)したるもの出で来て、ひまづきてゐた。「これ御下し文なり。この米得させよ」言へば、「さること候ふ」とて、下文を見て、「こは二斗と候へども、一斗を奉れとん候ひつるなり」とて、一斗をぞ取らりけ
  
-これを国守きて、此よつねして、「させよ」とひければ、国のうちにある身なれば、えいなびずして、「米百石のぶんたてまつるといひてとらせたり一斗とれ又いきいきしければ、「いみき物まうけたりと思ひてもたりける程に百石とりはてたれば、米うせにけり+そのままに請け取りて帰りて、その入りたる袋の米を使ふに、一斗尽きせざりけり。千万石取れども、ただ同じやうにて、一斗は失せざりけり。 
 + 
 +これを国守きて、この世恒して、「その、われさせよ」とひければ、国のにある身なれば、えいなびずして、「米百石の分(ぶん)、奉る」と言ひて取らせり。一斗取れば、また出で来出で来しければ、「いみじき物まうけたり」と思ひ、持(も)たりけるほどに、百石取り果てたれば、米失せにけり。袋ばかりになりぬれば、本意(ほい)なくて、返し取らせたり。世恒がもとにては、また米一斗出で来にけり。 
 + 
 +かくて、えもいはぬ長者にてぞありける。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  いまはむかし越前国に伊良縁の世恒といふ物有けりとりわきて/下103ウy460 
 + 
 +  つかふまつる毘沙門に物もくはて物のほしかりけれは助給へと申 
 +  ける程にかとにいとおかしけなる女の家あるしに物いはんとの給ふ 
 +  ​といひけれは誰にかあらんとて出あひたれはかはらけに物をひともり 
 +  これくひ給へ物ほしとありつるにとてとらせたれは悦てとて入 
 +  てたたすこし食たれはやかて飽みちたる心ちして二三日は物もほし 
 +  からねはこれををきて物のほしきおりことにすこしつつくひてあり 
 +  ける程に月比過て此物もうせにけりいかかせんするとて又念し 
 +  たてまつりけれは又ありしやうに人のつけけれは始にならひてまとひ出て 
 +  みれはありし女房の給やうこれくたしふみたてまつらんこれより北 
 +  の谷峰百町を越て中に高き峰ありそれに立てなりたと 
 +  よははものいてきなんそれにこのふみをみせてたてまつらん物をうけよと 
 +  いひていぬこのくたし文をみれは米二斗わたすへしとありやかて 
 +  そのまま行て見けれは実に高き峰ありそれにてなりたとよへはおそ/下104オy461 
 + 
 +  ろしけなるこゑにていらへて出きたる物ありみれは額に角おひて 
 +  目ある物あかきたうさきしたる物出来てひさまつきてゐたりこれ 
 +  御下文なり此米えさせよといへはさる事候とて下文をみて是は 
 +  二斗と候へとも一斗をたてまつとなん候つる也とて一斗をそとらせ 
 +  たりけるそのままに請取て帰てその入たる袋の米をつかふに 
 +  一斗つきせさりけり千万石とれとも只おなしやうにて一斗はうせさり 
 +  けりこれを国守ききて此よつねをめして其袋我にえさせよと 
 +  いひけれは国のうちにある身なれはえいなひすして米百石のふんたて 
 +  まつるといひてとらせたり一斗とれは又いきいきしけれいみき物 
 +  ​まうけたりと思ひてもたりける程に百石とりはてたれ米うせにけり 
 +  袋斗に成ぬれはほいなくて返しとらせたり世恒かもとにては又米一斗 
 +  出きにけりかくてえもいはぬ長者にてそありける/下104ウy462
  
-袋斗に成ぬればほいなくて、返しとらせたり。世恒がもとにては、又米一斗出きにけり。かくてえもいはぬ長者にてぞありける。 


text/yomeiuji/uji192.1413175573.txt.gz · 最終更新: 2014/10/13 13:46 by Satoshi Nakagawa