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text:yomeiuji:uji191

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text:yomeiuji:uji191 [2014/10/13 13:45]
Satoshi Nakagawa
text:yomeiuji:uji191 [2019/12/04 11:36] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **極楽寺の僧、仁王経の験を施す事** **極楽寺の僧、仁王経の験を施す事**
  
-これも今はむかし、堀川太政大臣((傍注「兼通公」))申人、世心地大事にわづらひ給ふ。御祈ども、さまざまにせらる。世にある僧どものまいらぬはなし。参つどひて、御祈どもす。殿中さはぐ事かぎりなし。+===== 校訂本文 =====
  
-爰に極楽寺殿の造給へる寺也。「其寺住ける僧ども、御祈せよ」といふ仰なかりければ人もめず。此時、或僧の思けは、「此寺にやすく住事は、殿の御とくにてこそあれ殿うせ給なば、世にあるべきやうなし。めさずともまいらん」とて、仁王経をちたてまつりて、殿にまいりて物さはがしかりければ、中門の北の廊のすみにかがまりゐて、つゆめもみかくる人もきに、仁王経を他念なくよみたてまつる+これも今昔、堀川太政大臣((藤原基経ただし、底本兼通公」と傍注。))申す人、世心地(よごこち)大事わづらひ給ふ。御祈りども、さまざませらる。世にある僧どもの参らぬはなし。参り集ひて、御祈りどす。殿騒ぐことりな
  
-二時斗ありて殿仰らるるやう極楽寺の僧、にがし大とこやこれ」と尋給に、或人、「中門の脇の廊に候」とければ、「それ此方へよべ」と仰らるるに、人々やしと。そばくのやんごとなき僧をめさずしてかくまいりたをだによしなしと見ゐたるをしも、めしあればえず思へども、行てめすよをいへまいる。高僧どものつきならびたるうしろゑんかがまりゐたり+ここに、極楽寺は殿造り給へる寺り。そ住みけ僧ども、「御祈せよ」といふ仰せもなかりければ、人も召さず。この時に、ある僧のひけるは、「この寺にすく住むこは、殿の御徳にてこそあれ。殿失せ給ひなば、世にあべきやうなし。召さずとも参らん」とて仁王経を持ち奉りて、殿に参りて、もの騒がかりければ、中門の北廊の隅にかがまりゐて、つゆ目も見かくる人もなきに、仁王経を他念なく読み奉る
  
-て「いりたるか」とはせ給へば、南の簀子に候よし申せば、「内へび入よ」とて、臥給へる所へし入らる。むげも仰られず、をもくおはしつるに、この僧すほどの御気色のこよなくよろしくえければ、人々あやしく思けるに、のやう、「たりつる夢に、おそろしげなる鬼どもの、身をとりどりに打うじつるに、びんづらひたる童子の、はえ持たるが、中門のかたより入て、ずはえして鬼どもを打はらへば、鬼どもみな逃りぬ。『何ぞの童のかくはするぞ』とひしかば、『極楽寺のそれがしが、かくわづらはせ給、いみじう歎申て、年来よみたてまつる仁王経を今朝より中門のわきにさらひて他念なくよみ奉て祈申侍るその経の護法のかくやませたてまつる悪鬼もを追払侍る也と申とみて夢さめてより心ちのかいのふやうによければ、その悦いはんとてつる也とて手をすりておませ給て棹にかかりたる御衣をしてかけ給。「寺に帰て猶々御祈よく申せと仰らるれば、悦てまかりいる程に僧俗の見思へるけしきやんとなし中門の腋に日めもすにかみゐたりつるおえなかりしにことの外びびしくて罷出にける+二時ばかりあり、殿、仰せらるるやう、極楽寺の僧、なにがしの大徳(だとこ)やこれにある」と尋ね給ふに、ある人、「中門の脇の廊に候ふ」と申しければ、「それ、こなたへ呼べ」と仰せらるるに、人々、「怪し」と思ふ。そこばくのやんごとなき僧をば召さずして、かく参りたるをだによしなしと見ゐたるをしも、召しあれば、心も得ず思へども、行きて、召すよしを言へば参る。高僧どものつき並びたる、後ろの縁(えん)に、かがまりゐたり。 
 + 
 +さて、「参りたるか」とはせ給へば、南の簀子(すのこ)に候よし申せば、「内へび入よ」とて、臥給へる所へし入らる。無下ものも仰られず、くおはしつるに、この僧すほどの御気色のこよなくよろしくえければ、人々しく思けるに、のたまふやう、「たりつる夢に、しげなる鬼どもの、わが身をとりどりに打ち凌(りよ)じつるに、びんづらひたる童子の、楚(すはえ)たるが、中門のより入り来て、してこの鬼どもを打ち払へば、鬼どもみな逃げ散りぬ。『何ぞの童のかくはするぞ』とひしかば、『極楽寺のそれがしが、かくわづらはせ給ふこと、いみじう歎て、年来読み奉る仁王経を、今朝り中門の脇に候ひて、他念なく読奉りて祈り申し侍る。その経の護法の、かく病ませ奉る悪鬼どもを追ひ払ひ侍るなり』と申すと見て、夢覚めてより、心地のかいのごふやうによければ、『その悦び言はん』とて呼びつるなり」とて、手をすりて拝ませ給ひて、棹(さを)にかかりる御衣(おんぞ)を召して、かづけ給ふ。「寺に帰りて、なほなほ御祈りよく申せ」と仰せらるれば、悦びてまかり出づるほどに、僧俗の見思へる気色、やんごとなし。中門の脇に、ひめもすにかがみゐたりつる、覚えなかりしに、ことのほか美々しくてぞまかり出でにける。 
 + 
 +されば、人の祈りは、僧の浄不浄にはよらぬことなり。ただ、心に入りたるが験あるものなり。「母の尼して祈りをばすべし」と、昔より言ひ伝へたるも、この心なり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし堀川太政大臣(兼通公)申人世心地大事にわつらひ 
 +  給ふ御祈ともさまさまにせらる世にある僧とものまいらぬはなし 
 +  参つとひて御祈ともす殿中さはく事かきりなし爰に極楽 
 +  寺は殿の造給へる寺也其寺に住ける僧とも御祈せよといふ 
 +  仰もなかりけれは人もめさす此時に或僧の思けるは此寺にやすく 
 +  住事は殿の御とくにてこそあれ殿うせ給なは世にあるへきやうなしめ 
 +  さすともまいらんとて仁王経をもちたてまつりて殿にまいりて 
 +  物さはかしかりけれは中門の北の廊のすみにかかまりゐてつゆ/下102ウy458 
 + 
 +  めもみかくる人もなきに仁王経を他念なくよみたてまつる二時 
 +  斗ありて殿仰らるるやう極楽寺の僧なにかしの大とこやこれに 
 +  あると尋給に或人中門の脇の廊に候と申けれはそれ此方へ 
 +  よへと仰らるるに人々あやしと思そこはくのやんことなき僧をは 
 +  めさすしてかくまいりたるをたによしなしと見ゐたるをしもめしあれは 
 +  心もえす思へとも行てめすよしをいへはまいる高僧とものつきならひ 
 +  たるうしろのゑんにかかまりゐたりさてまいりたるかととはせ給へは 
 +  南の簀子に候よし申せは内へよひ入よとて臥給へる所へめし 
 +  入らるむけに物も仰られすをもくおはしつるにこの僧めすほとの 
 +  御気色のこよなくよろしくみえけれは人々あやしく思けるに 
 +  の給やうねたりつる夢におそろしけなる鬼ともの我身をとり 
 +  とりに打れうしつるにひんつらゆひたる童子のすはえ持たるか 
 +  中門のかたより入きてすはえして此鬼ともを打はらへは鬼ともみな/下103オy459 
 + 
 +  逃ちりぬ何その童のかくはするそといひしかは極楽寺のそれかし 
 +  かかくわつらはせ給事いみしう歎申て年来よみたてまつる仁王経 
 +  を今朝より中門のわきにさらひて他念なくよみ奉て祈申 
 +  ​侍るその経の護法のかくやませたてまつる悪鬼もを追払 
 +  ​侍る也と申とみて夢さめてより心ちのかいのふやうによけれは 
 +  ​その悦いはんとてよつる也とて手をすりておませ給て棹 
 +  ​にかかりたる御衣をしてかけ給寺に帰て猶々御祈よく申 
 +  ​せと仰らるれ悦てまかりいる程に僧俗の見思へるけしきやん 
 +  ことなし中門の腋に日めもすにかみゐたりつるおえなかりしに 
 +  ​ことの外ひひしくて罷出にけるされは人の祈は僧の浄不 
 +  浄にはよらぬ事也只心に入たるか験あるもの也母の尼して祈 
 +  をはすへしとむかしよりいひつたへたるもこの心なり/下103ウy460
  
-されば、人の祈は僧の浄不浄にはよらぬ事也。只、心に入たるが験あるもの也。「母の尼して祈をばすべし」と、むかしよりいひつたへたるもこの心なり。 


text/yomeiuji/uji191.txt · 最終更新: 2019/12/04 11:36 by Satoshi Nakagawa