text:yomeiuji:uji189
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text:yomeiuji:uji189 [2014/10/13 13:43] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji189 [2017/10/06 22:47] – [第189話(巻15・第4話)門部府生、海賊射返す事] Satoshi Nakagawa | ||
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よき相撲ども、おほく催出ぬ。又、かずしらず物まうけてのぼりけるに、かばね島といふ所は海賊のあつまる所なり、過行程に、ぐしたるもののいふやう、「あれ御覧候へ。あの舟共は海賊の舟どもにこそ候めれ。こはいかがせさせ給べき」といへば、此かどべの府生いふやう、「おのこ、なさはぎそ。千万人の海賊ありとも、今みよ」といひて、皮子より、賭弓の時きたりける装束とりいでて、うるはしくしやうぞきて、冠、老懸など、あるべき定にしければ、従者ども、「こは物にくるはせ給か。叶はぬまでも、楯つきなどし給へかし」といりめきあひたり。 | よき相撲ども、おほく催出ぬ。又、かずしらず物まうけてのぼりけるに、かばね島といふ所は海賊のあつまる所なり、過行程に、ぐしたるもののいふやう、「あれ御覧候へ。あの舟共は海賊の舟どもにこそ候めれ。こはいかがせさせ給べき」といへば、此かどべの府生いふやう、「おのこ、なさはぎそ。千万人の海賊ありとも、今みよ」といひて、皮子より、賭弓の時きたりける装束とりいでて、うるはしくしやうぞきて、冠、老懸など、あるべき定にしければ、従者ども、「こは物にくるはせ給か。叶はぬまでも、楯つきなどし給へかし」といりめきあひたり。 | ||
- | うるはしくとりつけて、かたぬぎて、めてうしろみまはして、屋形のうへに立て、「いまは四十六ぶによりきにたるか」といへば、従者共、「大かたとかく申に及ばず」とて黄水をつきあひたり。「いかに、かくよりきにたる」といへば、「四十六ぶにちかづきさぶらひぬらん」と云時に、うは屋かたへでて、あるべきやうにゆだちして、弓をさしかざして、しばしありて、うちあげたれば、海賊が宗とのもの、くろばみたる物きて、あかき扇してみやれば、この矢、目にもみえずして、宗との海賊がゐたる所へ入ぬ。はやく左の目に、此いたづきたちにけり。海ぞく「や」といひて、扇をなげすてて、のけざまにたをれぬ。矢をぬきてみるに、うるはしく、戦などする時のやうにもあらず。ちり斗の物なり。これを此海賊どもみて、「やや、これはうちある矢にもあらざりけり。神矢なりけり」といひて、「とくとく、をのをのこぎもどりね」とて逃にけり。 | + | うるはしくとりつけて、かたぬぎて、めてうしろみまはして、屋形のうへに立て、「いまは四十六ぶによりきにたるか」といへば、従者共、「大かたとかく申に及ばず」とて黄水をつきあひたり。「いかに、かくよりきにたる」といへば、「四十六ぶにちかづきさぶらひぬらん」と云時に、うは屋かたへでて、あるべきやうにゆだちして、弓をさしかざして、しばしありて、うちあげたれば、海賊が宗とのもの、くろばみたる物きて、あかき扇をひらきつかひて、「とくとくこぎよせて、乗うつりて、うつしとれ」といへども、この府生、さはがずして、引かためて、とろとろとはなちて、弓たをししてみやれば、この矢、目にもみえずして、宗との海賊がゐたる所へ入ぬ。はやく左の目に、此いたづきたちにけり。海ぞく「や」といひて、扇をなげすてて、のけざまにたをれぬ。矢をぬきてみるに、うるはしく、戦などする時のやうにもあらず。ちり斗の物なり。これを此海賊どもみて、「やや、これはうちある矢にもあらざりけり。神箭なりけり」といひて、「とくとく、をのをのこぎもどりね」とて逃にけり。 |
その時、門部府生、うすわらひて、「なにがしらがまへには、あぶなくたつやつ原かな」といひて、袖うちおろして、こつばきはきてゐたりけり。海賊、さはぎ逃ける程に、袋一など、少々物共おとしたりける、海にうかびたりければ、此府生、とりて笑てゐたりけるとか。 | その時、門部府生、うすわらひて、「なにがしらがまへには、あぶなくたつやつ原かな」といひて、袖うちおろして、こつばきはきてゐたりけり。海賊、さはぎ逃ける程に、袋一など、少々物共おとしたりける、海にうかびたりければ、此府生、とりて笑てゐたりけるとか。 | ||
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text/yomeiuji/uji189.txt · 最終更新: 2019/12/03 22:45 by Satoshi Nakagawa