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text:yomeiuji:uji181 [2014/10/13 13:40] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji181 [2019/11/30 17:27] (現在) Satoshi Nakagawa
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 **北面の女雑使、六の事** **北面の女雑使、六の事**
  
-これも今はむかし、白川院の御時、北おもてのざうしに、うるせき女ありけり。名をば六とぞいひける。殿上人ども、もてなしけうじけるに、雨うちそぼふりて、つれづれなりける日、ある人、「六よびて、つれづれなぐさめん」とて、使をやりて、「六よびてこ」といひけるに、程もなく、「六めしてまいりて候」といひければ、「あなたより、内のでいのかたへぐしてこ」といひければ、さぶらひいできて、「こなたへまいりたまへ」といへば、「びんなく候」などいへば、侍帰きて、「めし候へば、『びんなくさぶらふ』と申て、恐申候なり」といへば、「つきみていふにこそ」とおもひて、「などかくはいふぞ。ただこといへ」といへども、「ひが事にてこそ候らめ。さきざきも内御でいなどへ、まいる事も候はにに」といひければ、このおほくゐたる人々、「ただまいり給へ。やうぞあるらん」とせめければ、「ずちなき恐に候へども、めしにて候へば」とてまいる。+===== 校訂本文 =====
  
-このあるじ、みや刑部禄といふ庁官、びんひげに白髪まじたるが、とくさのかぎぬに、あを袴きるがいとことうるは、さやさやとなりて、扇を笏にて、すこつふうずまりゐたり大かた、いかべしともおぼえず、物もいはれば、この庁官いよいよ恐かしこまつぶたり+れも今は昔、白河院((白河天皇))御時、北面(きたおもて)の雑仕(ざふし)に、うるせき女りけり。名をば六とぞいひけ。殿上人ども、もてなし興けるに雨うちそぼ降て、つづれなりける日ある人「六呼て、つれづれなぐさめ」とて、使をや「六呼びて来(こ)」言ひけるに、ほどもな、「六召して参て候ふ」と言ひければより内の出居(でゐ)の方へ具て来」と言ひければ侍(ぶらひ)出で来て、「こなたへ参り給へ」言へば、「便(びん)く候ふ」など言へば、侍帰て、「召し候へば、『便なく候ふ』申して、恐れ申候ふなり」と言へば、「きみて言にこそ」と思ひ、「などかは言ふぞだ来(こ)』と言へ」と言へども「僻事(ひがごと)てこそ候らめ。先々も内・御出居などへ参ることもぬに」と言ひければ、この多くゐたる人々「ただ参給へ。やぞあるらん」と責めければ、「ずちなき恐れに候へども、召にて候へば」とて参る
  
-あるじ、さてあるべきならねば「やや、庁には、又なに物か候」とへば、「それがしかれがし」とふ。いと、げにげにしくもおぼえずして、庁官うしろざまへすべり行。このあるじ、「かう宮仕をするこそ神妙なれ。見参には必れんずるぞ。とうまかりね」とてこそやりてけれ。+この主(あるじ)、見やりたれば、刑部禄(ぎやうぶのろく)といふ庁官、鬢(びん)・髭(ひげ)に白髪まじりたるが、木賊(とくさ)の狩衣に、襖袴(あをばかま)着たるが、いとことうるはしく、さやさやと鳴りて、扇を笏に取りて、少しうつぶして、うずくまりゐたり。おほかた、いかに言ふべしとも思えず、ものも言はれねば、この庁官、いよいよ恐れかしこまりて、うつぶしたり。 
 + 
 +、さてあるべきならねば「やや、庁にはまた何者か候」とへば、「それがしかれがし」とふ。いと、げにげにしくもえずして、庁官、後ろざまへすべり行。この、「かう宮仕をするこそ神妙(しんべう)なれ。見参には必ず入れんずるぞ。とうまかりね」とてこそやりてけれ。 
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 +この六、後に聞きて笑ひけりとか。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし白川院の御時北おもてのさうしにうるせき 
 +  女ありけり名をは六とそいひける殿上人とももてなしけうし 
 +  けるに雨うちそほふりてつれつれなりける日ある人六よひて 
 +  つれつれなくさめんとて使をやりて六よひてこといひけるに程も 
 +  なく六めしてまいりて候といひけれはあなたより内のていのかたへ 
 +  くしてこといひけれはさふらひいてきてこなたへまいりたまへと 
 +  いへはひんなく候なといへは侍帰きてめし候へはひんなくさふらふと/下91オy435 
 + 
 +  申て恐申候なりといへはつきみていふにこそとおもひてなとかくは 
 +  いふそたたこといへといへともひか事にてこそ候らめさきさきも 
 +  内御ていなとへまいる事も候はぬにといひけれはこのおほくゐたる人 
 +  々たたまいり給へやうそあるらんとせめけれはすちなき恐に 
 +  候へともめしにて候へはとてまいるこのあるしみやりたれは刑部禄といふ 
 +  庁官ひんひけに白髪ましりたるかとくさのかりきぬにあを 
 +  袴きたるかいとことうるはしくさやさやとなりて扇を笏にとりて 
 +  すこしうつふしてうすくまりゐたり大かたいかにいふへしともおほ 
 +  えす物もいはれねはこの庁官いよいよ恐かしこまりてうつふしたり 
 +  あるしさてあるへきならねはやや庁には又なに物か候といへはそれ 
 +  かしかれかしといふいとけにけにしくもおほえすして庁官うし 
 +  ろさまへすへり行このあるしかう宮仕をするこそ神妙なれ見参 
 +  には必いれんするそとうまかりねとてこそやりてけれ此六のちに/下91ウy436 
 + 
 +  ききてわらひけりとか/下92オy437
  
-此六、のちにききてわらひけりとか。 
text/yomeiuji/uji181.txt · 最終更新: 2019/11/30 17:27 by Satoshi Nakagawa