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text:yomeiuji:uji175 [2017/09/30 12:53]
Satoshi Nakagawa [第175話(巻14・第1話)海雲比丘の弟子の童の事]
text:yomeiuji:uji175 [2019/11/24 19:10] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **海雲比丘の弟子の童の事** **海雲比丘の弟子の童の事**
  
-いまはむかし、海雲比丘、道を行給に、十余歳斗なる童子、道に逢ぬ。比丘、童に問て云、「何のれうの童ぞ」との給。+===== 校訂本文 =====
  
-童答「ただ、道にまかるにて候」と。比丘、「は法経はみたりや」とへば、童、「法経と申候はんこそ、いまだ名をだにも聞候はね」と申。比丘又云、「さらば房にして行て、法をしへん」とのへば、童、「仰にしたがふべし」と申して、比丘の御に行。五山の房に行て、法経を教給。+今は昔、海雲比丘、道を行き給ふに、十余歳ばかりなる子、道に逢ひぬ。比丘、童に問ひていはく、「何の料(れう)の童ぞ」とのたまふ。童、へていはく、「ただ、道にまかるにて候」と言ふ。比丘いはく、「なんぢは法経はみたりや」とへば、童いはく、「法経と申候はんものこそ、いまだ名をだにも聞候はね」と申。比丘またいはく、「さらば、わが房にして行て、法へん」とのたまへば、童、「仰ふべし」と申して、比丘の御に行。五山の房に行き着きて、法経を教
  
-経をならに、小憎、常に来て物語を申。誰人とらず。比丘のの、「つねたる小大徳をば、童はりたりや」と。童、「らず」と申。比丘の、「こそ、山に住給文殊よ。に物語しに来給」と。かやうに教へ給へども、童は文殊といふらず候。されば、何とも思たてまつらず。+経をほどに、小憎、常に来たりて物語を申。誰人とらず。比丘ののたまふ、「たる小大徳をば、童はりたりや」と。童、「らず」と申。比丘のいはく、「これこそ、この山に住ふ文殊((文殊菩薩))よ。われに物語しに来給ふなり」と。かやうに教へ給へども、童は文殊といふことらず候ふなり。されば、何とも思ひ奉らず。
  
-比丘、童にの、「、ゆめゆめ女人に近付なかれ。あたりをはらひて、るるなかれ」と。童、へ行に、あし毛なる馬に乗たる女人の、いみじくけしやうして、うつくしきが、道にひぬ。女の、「この馬の口引てたべ。道のゆゆしくしくて、落ぬべくおぼゆるに」とひけれども、童、耳にも聞入ずして行に、馬あらだちて、女さかさまにちぬ。+比丘、童にのたまふ、「なんぢ、ゆめゆめ女人に近付くことなかれ。あたりをひて、るることなかれ」と。童、ものへ行くほどに、毛なる馬に乗たる女人の、いみじく化粧してしきが、道にひぬ。この女のいはく、「われ、この馬の口引てたべ。道のゆゆしくしくて、落ぬべくゆるに」とひけれども、童、耳にも聞ずして行に、この馬あらだちて、女さまにちぬ。恨みていはく、「われを助けよ。すでに死ぬべく覚ゆるなり」と言ひけれども、なほ耳に聞き入れず。「わが師の、『女人の傍らへ寄ることなかれ』とのたまひしに」と思ひて、五台山へ帰りて、女のありつるやうを比丘に語り申して、「されども、耳にも聞き入れずして、帰り候ひぬ」と申しければ、「いみじくしたり。その女は、文殊の化(け)して、なんぢが心を見給ふにこそあるなれ」とて讃め給ひけり
  
-うらて云、「助よすで死ぬべくおぼゆるなり」といひけれども猶耳聞入ず。「師の『女人のたはらへよる事かれ』との給しに」とて、五臺山へ帰て、女のあつるやうを、比丘に語、「されども耳も聞入ずして」と申ければ「いみじたり。其女は、文殊の化して、汝が心をみ給こそあるな」とてほめり。+さるほどに、童は法華経一部読終へにけり。その時、比丘のたまはく、「なんぢ、法華経ば読み果てぬ今は法師になりて、受戒すべし」と法師なされぬ。「受戒をば、われは授くべからず。東京((洛陽))の禅定寺にいまする倫法と申す人、こごろ、おほやけの宣旨を蒙りて受戒行ふなり。そ人のもとへ行きて受くべきなり。だし、今はなんぢを見るまじきことのあるなり」とて、泣き給ふことかぎなし。童の、「受戒つかまつりては、すなはち帰り参り候ふべし。いか思し召して、かくは仰せふぞ」と。また、「いかなれば、か泣かせ給ふぞ」と申せば、「だ悲しきことのあるな」とて泣き給ふ童に「戒師のもと行きたらんに『いづ方より来た人ぞ』と問はば、『清冷山((清涼山。五台山のこと。))の海雲比丘のもとより』とす申べき」と教へひて、泣く泣く見送給ひぬ
  
-さる程に童は法花経一部よみ終けり。其時比丘の給はく、「汝、法花経をばよみはてぬ。今は法師にて、受戒すべし」とて、法師になさぬ。「受戒をば、我はさづくるべからず。東京禅定寺にいまする、倫法師申人、この比おほやけの宣旨を蒙て受戒行人なり。其人のもとへ行て受べき也。但今は汝をみるまじき事のあるなり」とて、泣給事かぎりなし。童の申、「受戒仕ては則帰まいり候べし。いかにおぼしめして、かくは仰候ぞ」と。又「いかなれば、かくなかせぞ」とば、「ただかなし事のあるなり」とて、なき給。さて、に、「戒師もとに行たらに『いづかたよりきたる人ぞ』ととはば『清冷山の海雲比丘のもとより』と申べき也」とをしへ給て、なくなく見をくり給ぬ+仰せ従ひて法師のもと行きて、受戒すべきよ申しければ、、「いづ方よ来たる人ぞ」と問ひ給ひければ、教へひつるやうしければ、倫法師て、「貴きことなり」とて、礼拝しいはく「五台山文殊限り住み給ふ所なり。なぢ沙弥は、海雲比丘の善知識にあひて、文殊をく拝み奉けるにこそありけれ」とて、貴ぶことかぎり
  
-仰にたがひて、倫法師のもとに行て、受戒すべきよし申ければ、あんのとく、「いづかきた人ぞ」と問給ければ、しへ給つるやう申ければ、倫法師驚、「うとき事り」て、礼拝して云、「五臺には、文殊のかぎ住給所なり。汝沙弥は、海雲比丘の善知識にあひて、文殊をよくおがみたてまつけるにこそ有けれ」とて、たうとぶ事限なし。+さて受戒して、五台山へ帰りて、ろゐたり房のあり所れば、すべ人の住みる気色し。泣く泣くひと山を尋ね歩(あ)けどもつひにありなし。
  
-さて受戒五臺山へ帰て日来ゐたつる房の有所をみすべて人の住たしきなし。泣々ひと山を尋あけどもつゐ在所なし+これは優婆崛多の弟子の僧、かこけれども心弱く女に近付きけ(([[uji174|174話]]参照。))。こいとけなけれども、心強く、女に近付かず。かがゆゑに、文殊、これをかれば、教化て仏道に入らしめ給ふな。されば世の人、戒をば破るべからず
  
-これは優婆崛多の弟子の僧かしこけれ心よはく女にちかきけりこれはいとけなけれ心つよくて女人にちかず。かるゆへに文殊これをかしこき物なれば、教化して仏道に入しめ給也されば、世の人戒をからず。+===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  いまはむかし海雲比丘道を行給に十余歳斗なる童子道に 
 +  逢ぬ比丘童に問て云何のれうの童そとの給童答云たた道にまかる 
 +  物にて候と云比丘云汝は法花経はよみたりやととへは童云法花経 
 +  と申候はん物こそいまた名をたにも聞候はねと申比丘又云さらは 
 +  我房にくして行て法花経をしへんとの給へは童仰にしたかふ 
 +  へしと申して比丘の御共に行五臺山の房に行付て法花経を 
 +  教給経をならふ程に小憎常に来て物語を申誰人とし 
 +  らす比丘のの給つねにきたる小大徳をは童はしりたりやと 
 +  童しらすと申比丘の云是こそ此山に住給文殊よ我に物語し 
 +  に来給也とかやうに教へ給へとも童は文殊といふ事もしらす候也/下82オy417 
 + 
 +  されは何とも思たてまつらす比丘童にの給汝ゆめゆめ女人に近 
 +  付事なかれあたりをはらひてなるる事なかれと童物へ行程に 
 +  あし毛なる馬に乗たる女人のいみしくけしやうしてうつくしきか 
 +  道にあひぬ此女の云我この馬の口引てたへ道のゆゆしくあし 
 +  くて落ぬへくおほゆるにといひけれとも童耳にも聞入すして 
 +  行に此馬あらたちて女さかさまにおちぬうらみて云我を助 
 +  よすてに死ぬへくおほゆるなりといひけれとも猶耳に聞入す我 
 +  師の女人のかたはらへよる事なかれとの給しにと思て五臺山へ帰 
 +  て女のありつるやうを比丘に語申てされとも耳にも聞入すして 
 +  帰候ぬと申けれはいみしくしたり其女は文殊の化して汝か心を 
 +  み給にこそあるなれとてほめ給けりさる程に童は法花経一部 
 +  よみ終にけり其時比丘の給はく汝法花経をはよみはてぬ今は 
 +  法師に成て受戒すへしとて法師になされぬ受戒をは我は/下82ウy418 
 + 
 +  さつくへからす東京の禅定寺にいまする倫法師と申人この比 
 +  おほやけの宣旨を蒙て受戒行人なり其人のもとへ行 
 +  て受へき也但今は汝をみるましき事のあるなりとて泣給 
 +  事かきりなし童の申受戒仕ては則帰まいり候へしいかに 
 +  おほしめしてかくは仰候そと又いかなれはかくなかせ給そと申せは 
 +  たたかなしき事のあるなりとてなき給さて童に戒師のもとに 
 +  行たらんにいつかたよりきたる人そととはは清冷山の海雲比 
 +  丘のもとよりと申へき也とをしへ給てなくなく見をくり給ぬ童 
 +  仰にしたかひて倫法師のもとに行て受戒すへきよし申けれ 
 +  はあんのことくいつかたよりきたる人そと問給けれはをしへ給つる 
 +  やう申けれは倫法師驚てたうとき事なりとて礼拝して 
 +  云五臺山には文殊のかきり住給所なり汝沙弥は海雲比丘 
 +  の善知識にあひて文殊をよくおかみたてまつりけるにこそ有けれとて/下83オy419 
 + 
 +  たうとふ事限なしさて受戒して五臺山へ帰て日来ゐたり 
 +  つる房の有所をみれはすへて人の住たるけしきなし泣々ひと 
 +  山を尋ありけともつゐに在所なしこれは優婆崛多の弟子の 
 +  ​僧かしこけれも心よはく女にちかきけりこれはいとけなけれ 
 +  ​心つよくて女人にちかかるゆへに文殊これをかしこき物なれは 
 +  ​教化して仏道に入しめ給也され世の人戒をからす/下83ウy420
  


text/yomeiuji/uji175.1506743625.txt.gz · 最終更新: 2017/09/30 12:53 by Satoshi Nakagawa