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text:yomeiuji:uji171

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text:yomeiuji:uji171 [2014/10/13 13:34]
Satoshi Nakagawa
text:yomeiuji:uji171 [2019/11/23 18:18] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **渡天の僧、穴に入る事** **渡天の僧、穴に入る事**
  
-いまはむかし、唐にありける僧の天竺にわたりて、他事にあらず、ただ物のゆかしければ、物見にしありきければ、所々みゆきけり。+===== 校訂本文 =====
  
-あるかた山、大なる穴あり。牛のありける此穴入けるをみて、ゆかしくおぼえければ、牛の行て僧も入り。はるかに行てあかきへ出ぬ。まはせば、あらぬ世界とおぼえて、見もしらぬ花の色いみじがさきみだれたり。牛、此花を食けり。+今は昔、唐(もろこし)にありける僧の天竺渡りて、他事にあらず、ただもののゆかしければ、物見し飽歩(あり)きければ、所きけり。
  
-此花を一房とりて食たりければうま事、天甘露もかくやらんとおぼえて、目出かりけるままにおほく食たりければ、ただ肥こへふとりけり。心えずおそろしく思ありつる穴かたへ帰行に、はじめはやすくとほりる穴身のふとくなりて、せばくおぼえて、やうやうとして穴口までは出たれども、えでずして、たへがたき事限なし+あるかた山に、なる穴あり。牛のありけるこの穴りけるを見てゆかしく思えければの行につきて僧も入けり。遥かに行きて、明かき所へ出でぬ。見回せば、あらぬ世界と思えて、見も知らぬ花みじき咲き乱れり。牛、この花を食けり
  
-まへる人に、「これ、たすけよ」と、よばはりけれど、耳に聞るる人もなし。たすくる人もなかりけり。人の目にも、なにとみえけるやらんふし日比かさなりて死ぬ後は石になりて穴の口に頭をさしいしたるやうにてなんありける+試みに、この花を一房取りて、食ひたりければ、うきこと、「天の甘露もかくやあらん」と思えて、めでたかりけるままに多く食ひたりければ、ただ肥えに肥え太りけり。 
 + 
 +心得ず、恐しく思ひて、ありつる穴の方帰り行くに、初めはやすく通りつる穴、身の太くなりて、狭(せば)く覚えて、やうやうして穴の口までは出でたれども、え出でずして、耐へがたきことかぎりなし。 
 + 
 +前を通る人に、「これ、けよ」とばはりけれど、耳に聞き入るる人もなし。くる人もなかりけり。人の目にも、何と見えけるやらん、不思議り。 
 + 
 +日ごろ重なりて死ぬ。後は石なりて、穴の口に頭をさし出だしたるやうにてなんありける。 
 + 
 +玄奘三蔵、天竺に渡り給ひたりける日記((『大唐西域記』を指すか。ただし、『大唐西域記』にこの記事なし。))に、このよし記されけり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  いまはむかし唐にありける僧の天竺にわたりて他事にあらすたた 
 +  物のゆかしけれは物見にしありきけれは所々みゆきけりある 
 +  かた山に大なる穴あり牛のありけるか此穴に入けるをみてゆかしく 
 +  おほえけれは牛の行につきて僧も入けりはるかに行てあかき 
 +  所へ出ぬ見まはせはあらぬ世界おほえて見もしらぬ花の色い/下78ウy410 
 + 
 +  しきかさきみたれたり牛此花を食けり試に此花を一 
 +  房とりて食たりけれはうまき事天の甘露もかくやあらん 
 +  とおほて目出かりけるままにおほく食たりけれはたた肥にこへ 
 +  ふとりけり心えすおそろしく思てありつる穴のかたへ帰行にはし 
 +  めはやすくとほりつる穴身のふとくなりてせはくおほえてやう 
 +  やうとして穴の口まては出たれともえいてすしてたへかたき事 
 +  限なしまへをとほる人にこれたすけよとよははりけれと耳に聞 
 +  いるる人もなしたすくる人もなかりけり人の目にもなにとみえける 
 +  ​やらんふし也日比かさなりて死ぬ後は石になりて穴の口に頭 
 +  ​をさしいしたるやうにてなんありける玄奘三蔵天竺にわたり 
 +  給たりける日記に此よししるされけり/下79オy711
  
-玄奘三蔵、天竺にわたり給たりける日記に、此よししるされけり。 


text/yomeiuji/uji171.1413174849.txt.gz · 最終更新: 2014/10/13 13:34 by Satoshi Nakagawa