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text:yomeiuji:uji169

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text:yomeiuji:uji169 [2014/10/12 02:21]
Satoshi Nakagawa
text:yomeiuji:uji169 [2019/11/21 19:18] (現在)
Satoshi Nakagawa
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 **念仏僧、魔往生の事** **念仏僧、魔往生の事**
  
-むかし、美濃国伊吹山に久く行ひたる聖有けり。阿弥陀仏よりほかの事しらず。他事なく念仏申てぞ、年へにける。+===== 校訂本文 =====
  
-夜深く仏の御前念仏申てゐたに、空に声ありて告て云、「汝、念比に我をたのめり。今は念のかずおほくつもたれば、あす未の時に、かならずかならずきたりて迎べし。ゆめゆめ念仏おたるべからず」といふ。その声をききてかぎりなくねん比に念仏申て、水をあみ、香をたき花をちらして、弟子ども念仏もろともに申させて、西にむかひてゐたり+美濃国伊吹山、久しく行ひけありり。阿弥陀のこと知らず、他事なく念仏申してぞ年経ける
  
-やうやうひらめやうり。手をすりて、念仏を申ば、仏の御身より、金色光を放てさし入たり。秋の月の雲間よりあはれ出たるごく、さまざまの花をらし、百毫の光、聖をてらす。此時聖、尻をさかさまして拝入。すずのれぬべし。観音蓮台あげて、聖の前より給、紫雲あつく棚引。聖、はひよりて蓮台にのりぬ。さて、西のかたへ去給ぬ。さ、坊にのこれる弟子共、なくなくうとがりて、聖の後世をとぶらひけり。+夜深、仏の御前念仏申してゐたに、空に声ありて、告げいはく、「なんぢ、ねんごろにわを頼めり。今は念仏の数多く積もたれば明日未の時に必ず必ず来たりて迎ふべしゆめゆめ念仏怠るべかず」。そ聞きて、限りなくねんごろ念仏申して、水浴(あ)み、香を薫き、散らして、弟子ども念仏もろともて、西に向ひたり。
  
-て、七日八日過て後、坊の下法師原、「念仏の僧に湯わかして、あむせたてまつらん」とて、木こりに奥山に入たりけるには((「」脱字か))かなる滝に、さしおひたる椙木ありその木梢に、さけぶ声けり。あやしくあげた法師裸になしてしばりつ木のぼよくする法師のぼりてみれば極楽迎られし我師の聖をかづらてしば置たり。+やうやうひらめやうにる物あり。手をすり念仏を申して見れば仏の御身より、金色の光を放ちて、さしたり。秋の月の雲間より現れ出でたごとく、さまざまの花を降ら、白毫(びやくがう)光、聖の身を照らす聖、尻を逆まになして入る。数珠(ずず)の緒も切ぬべし。観音((観世音菩薩))蓮台上げ、聖の前給ふに、紫雲あなびく聖、這ひ寄蓮台に乗ぬ。さて、西の方去りひぬ。さて残れる弟子ども、泣く泣く貴がりて、聖の後世をとぶらひけり。
  
-法師、「いかに師はかかる目をば御らんずるぞ」とて、よりて縄をきければ、「いまむかへんずるぞ。『その、しばしかくてゐたれ』とて、仏のおはしまししをば、なにしにかくきゆるすぞ」とひけれども、りてきければ、「阿弥陀仏、ころす人ありをうをう」とぞさけびける。されども法師、あまたのぼりて、おろして、坊へして行たれば、弟子ども、「心なり」と歎きまどひけり。聖は人心もなくて、二三日ありて死けり。+かくて、七日・八日過ぎて後、坊の下種(げす)法師ばら、「念仏の僧に、湯わかして、浴(あ)むせ奉らん」とて、木こりに奥山に入りたりけるに、はるかなる((「はるかなる」は底本「はかなる」。諸本により訂正。))滝に、さし生ひたる杉の木あり。その木の梢に、叫ぶ声しけり。怪しくて見上げたれば、法師を裸になして梢に縛り付けたり。木登りよくする法師、登りて見れば、極楽へ迎へられ給ひしわが師の聖を、葛(かづら)にて縛り付けて置きたり。 
 + 
 +この法師、「いかにわが師はかかる目をば御ずるぞ」とてりて縄をきければ、「今迎へんずるぞ。『そのほど、しばしかくてゐたれ』とて、仏のおはしまししをば、しにかくきゆるすぞ」とひけれども、りてきければ、「阿弥陀仏、われす人ありをうをう」とぞびける。されども法師ばら、あまたりて、して、坊へして行たれば、弟子ども、「心ことなり」と歎きまどひけり。聖は人心(ひとごころ)もなくて、二三日ばかりありて死けり。 
 + 
 +智恵なき聖は、かく天狗に欺かれけるなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  むかし美濃国伊吹山に久く行ひける聖有けり阿弥陀仏より 
 +  ほかの事しらす他事なく念仏申てそ年へにける夜深く仏の 
 +  御前に念仏申てゐたるに空に声ありて告て云汝念比に我 
 +  をたのめり今は念仏のかすおほくつもりたれはあすの未の時に 
 +  かならすかならすきたりて迎へしゆめゆめ念仏おこたるへからすといふその 
 +  声をききてかきりなくねん比に念仏申て水をあみ香をたき 
 +  花をちらして弟子ともに念仏もろともに申させて西にむかひて/下75ウy404 
 + 
 +  ゐたりやうやうひらめくやうにする物あり手をすり念仏を 
 +  申てみれは仏の御身より金色の光を放てさし入たり秋 
 +  の月の雲間よりあらはれ出たることくさまさまの花をふらし白 
 +  毫の光聖の身をてらす此時聖尻をさかさまになして 
 +  拝入すすのをもきれぬへし観音蓮台をさしあけて聖の 
 +  前により給に紫雲あつく棚引聖はひよりて蓮台にのりぬ 
 +  さて西のかたへ去給ぬさて坊にのこれる弟子共なくなくたうとかりて 
 +  聖の後世をとふらひけりかくて七日八日過て後坊の下す法師 
 +  原念仏の僧に湯わかしてあむせたてまつらんとて木こりに奥 
 +  山に入たりけるにはかなる滝にさしおひたる椙の木ありその木の 
 +  梢にさけふ声しけりあやしくてみあけたれは法師を裸になして 
 +  杪にしはりつけたり木のほりよくする法師のほりてみれは極楽へ 
 +  迎られ給し我師の聖をかつらにてしはり付て置たり此法師/下76オy405 
 + 
 +  いかに我師はかかる目をは御らんするそとてよりて縄をときけれは 
 +  いまむかへんするそその程しはしかくてゐたれとて仏のおはしまししを 
 +  はなにしにかくときゆるすそといひけれともよりてときけれは阿 
 +  弥陀仏我をころす人ありをうをうとそさけひけるされとも法師原 
 +  あまたのほりてときおろして坊へくして行たれは弟子とも心うき 
 +  事なりと歎まとひけり聖は人心もなくて二三日斗ありて 
 +  死けり智恵なき聖はかく天狗にあさむかれけるなり/下76ウy406
  
-智恵なき聖は、かく天狗にあざむかれけるなり。 


text/yomeiuji/uji169.txt · 最終更新: 2019/11/21 19:18 by Satoshi Nakagawa