text:yomeiuji:uji166
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text:yomeiuji:uji166 [2014/04/18 21:19] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji166 [2017/09/21 20:24] – [第166話(巻13・第6話)大井光遠の妹、強力の事] Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第166話(巻13・第6話)大井光遠の妹、強力の事 ====== | ====== 第166話(巻13・第6話)大井光遠の妹、強力の事 ====== | ||
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「いみじからんせうとのぬしかな。槌をもちて打くだくともかくはあらじ。ゆゆしかりける力かな。このやうにては、ただ今のまに、我はとりてくだかれぬべし。むやくなり。逃なん」と思て、人めをはかりて、とび出てにげはしれる時に、すゑに人ども走あひてとらへつ。はかりて光遠がもとへぐして行ぬ。 | 「いみじからんせうとのぬしかな。槌をもちて打くだくともかくはあらじ。ゆゆしかりける力かな。このやうにては、ただ今のまに、我はとりてくだかれぬべし。むやくなり。逃なん」と思て、人めをはかりて、とび出てにげはしれる時に、すゑに人ども走あひてとらへつ。はかりて光遠がもとへぐして行ぬ。 | ||
- | 光遠、「いかにおもひて逃つるぞ」ととへば、申すやう「大なる矢箆のふしを、朽木なんどのやうにをしくだき給つるを、『あさまし』と思て、おそろしさに逃候つるなり」と申せば、光遠うち笑て、「いかなりとも、その御もとは、よもつかれじ。つかんとせん手をとりて、かひねぢて、かみざまへつかば、肩の骨はかみざまへいでてねぢられなまし。かしこくをのれがかひなぬかれまじ。宿世ありて、御もとはねぢざりけるなり。光遠だにも、おれをばてごろしにころしてん。かひなをばねぢて、腹むねをふまんに、をのれはいきてんや。それに、かの御もの力は光遠二人ばかりあはせたる力にておはする物を。さこそほそやかに、女めかしくおはすれども、光遠が手たはぶれするに、とらへたるうでをとらへられぬれば、手ひろごりてゆるしつべき物を。あはれ、おのこ子にてあらましかば、あふかたきもなくてぞあらまし。口惜く女にてある」といふをきくに、この盗人、死ぬべき心ちす。女と思て、「いみじき質を取たる」と思てあれども、その儀はなし。 | + | 光遠、「いかにおもひて逃つるぞ」ととへば、申すやう「大なる矢箆のふしを、朽木なんどのやうにをしくだき給つるを、『あさまし』と思て、おそろしさに逃候つるなり」と申せば、光遠うち笑て、「いかなりとも、その御もとは、よもつかれじ。つかんとせん手をとりて、かひねぢて、かみざまへつかば、肩の骨はかみざまへいでてねぢられなまし。かしこくをのれがかひなぬかれまじ。宿世ありて、御もとはねぢざりけるなり。光遠だにも、おれをばてごろしにころしてん。かひなをばねぢて、腹むねをふまんに、をのれはいきてんや。それに、かの御もとの力は光遠二人ばかりあはせたる力にておはする物を。さこそほそやかに、女めかしくおはすれども、光遠が手たはぶれするに、とらへたるうでをとらへられぬれば、手ひろごりてゆるしつべき物を。あはれ、おのこ子にてあらましかば、あふかたきもなくてぞあらまし。口惜く女にてある」といふをきくに、この盗人、死ぬべき心ちす。女と思て、「いみじき質を取たる」と思てあれども、その儀はなし。 |
「おれをば、ころすべけれども、御もとのしぬべくばこそ殺さめ。おれしぬべかりけるに、かしこうとく逃てのきたるよ。大なる鹿の角をば、膝にあててちいさきから木のほそきなんどを折やうにおる物を」とて、追放てやりけり。 | 「おれをば、ころすべけれども、御もとのしぬべくばこそ殺さめ。おれしぬべかりけるに、かしこうとく逃てのきたるよ。大なる鹿の角をば、膝にあててちいさきから木のほそきなんどを折やうにおる物を」とて、追放てやりけり。 | ||
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text/yomeiuji/uji166.txt · 最終更新: 2019/11/10 13:06 by Satoshi Nakagawa