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text:yomeiuji:uji164 [2014/10/12 02:19] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji164 [2019/11/09 17:39] (現在) – [第164話(巻13・第4話)亀を買て放つ事] Satoshi Nakagawa
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 宇治拾遺物語 宇治拾遺物語
-====== 第164話(巻13・第4話)亀を買て放つ事 ======+====== 第164話(巻13・第4話)亀を買て放つ事 ======
  
 **亀ヲ買テ放事** **亀ヲ買テ放事**
  
-**亀を買て放つ事**+**亀を買て放つ事**
  
-昔、天竺の人、宝を買んために、銭五十貫を子にもたせてやる。+===== 校訂本文 =====
  
-大きなる川のはたを行に、舟にりたる人あり。舟のかたを見れば、舟より亀、くびをさし出したり。銭持たる人、立まりて、「その亀をば、なにのれうぞ」とへば、「殺して物にせんずる」と。「その亀はん」とへば、この舟の人いはく、「いみじき大切のありて、まうけたる亀なれば、いみじきあたひなりとも、るまじき」よしをへば、なあながちに、手をすりて、五十貫の銭にて亀を買取て、はなちつ。+昔、天竺の人、宝を買はんために、銭五十貫を子に持たせてやる。大きなる川の端(はた)を行に、舟にりたる人あり。舟のを見れば、舟より亀、をさし出したり。銭持たる人、立ち止まりて、「その亀をば、なにの料(れう)ぞ」とへば、「殺して物にせんずる」と言ふ。「その亀はん」とへば、この舟の人いはく、「いみじき大切のことありて、まうけたる亀なれば、いみじき価(あたひ)なりとも、るまじき」よしをへば、なあながちに、手をすりて、この五十貫の銭にて亀を買て、ちつ。
  
-心におもふやう、「親の宝買に、隣の国へやりつる銭を、亀にかへてやみぬれば、おやはいかに腹立給はんずらむ」。さりとて、親のもとへかであるべきにあらねば、帰行に、道に人ひてふやう、「ここに亀売つる人は、この下の渡にて、舟うち返して死ぬ」となんかたるをきて、親の家に帰行て、銭は亀にかへつるよし、かたらんと思に、おやふやう、「なにとて、この銭をば返しこせたるぞ」とへば、子のふ、「さるなし。その銭にては、しかじか亀にかへてゆるしつれば、そのよしを申さんとて、まいりつるなり」とへば、親のふやう、「くろき衣たる人、おなじやうなる五人、おのおの十貫づつ持てたりつる。これなり」とてせければ、この銭、いまだれながらあり。+心にふやう、「親の宝買に、隣の国へやりつる銭を、亀にかへてやみぬれば、はいかに腹立給はんずらむ」。さりとて、また親のもとへかであるべきにあらねば、親のもとへに、道に人ひてふやう、「ここに亀売つる人は、この下の渡にて、舟うち返して死ぬ」となんるをきて、親の家に帰て、銭は亀にかへつるよし、らんと思ふほどに、ふやう、「とて、この銭をば返しこせたるぞ」とへば、子のふ、「さることなし。その銭にては、しかじか亀にかへてしつれば、そのよしを申さんとて、りつるなり」とへば、親のふやう、「き衣たる人、じやうなる五人、おのおの十貫づつたりつる。これ、そなり」とてせければ、この銭、いまだれながらあり。 
 + 
 +はや、買ひて放しつる亀の、その銭、川に落ち入るを見て、取り持ちて、親のもとに子の帰らぬ先にやりけるなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  昔天竺の人宝を買んために銭五十貫を子にもたせてやる 
 +  大きなる川のはたを行に舟にのりたる人あり舟のかたを見やれは 
 +  舟より亀くひをさし出したり銭持たる人立とまりてその 
 +  亀をはなにのれうそととへは殺して物にせんすると云その亀 
 +  かはんといへはこの舟の人いはくいみしき大切の事ありてまうけたる 
 +  亀なれはいみしきあたひなりともうるましきよしをいへはなを/下69ウy392 
 + 
 +  あなかちに手をすりて此五十貫の銭にて亀を買取ては 
 +  なちつ心におもふやう親の宝買に隣の国へやりつる銭を 
 +  亀にかへてやみぬれはおやはいかに腹立給はんすらむさりとて又親 
 +  のもとへいかてあるへきにあらねは親のもとへ帰行に道に人あひていふ 
 +  やうここに亀売つる人はこの下の渡にて舟うち返して死ぬ 
 +  となんかたるをききて親の家に帰行て銭は亀にかへつるよし 
 +  かたらんと思程におやのいふやうなにとてこの銭をは返しをこせ 
 +  たるそととへは子のいふさる事なしその銭にてはしかしか亀に 
 +  かへてゆるしつれはそのよしを申さんとてまいりつるなりといへは親の 
 +  いふやうくろき衣きたる人おなしやうなるか五人おのおの十貫つつ 
 +  持てきたりつるこれそなりとてみせけれはこの銭いまたぬれなから 
 +  ありはや買て放しつる亀のその銭川に落入をみてとり 
 +  もちて親のもとに子の帰らぬさきにやりける也/下70オy393
  
-はや、買て放しつる亀の、その銭、川に落入をみて、とりもちて、親のもとに子の帰らぬさきにやりける也。 
text/yomeiuji/uji164.1413047987.txt.gz · 最終更新: 2014/10/12 02:19 by Satoshi Nakagawa