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text:yomeiuji:uji161 [2014/10/12 02:19]
Satoshi Nakagawa
text:yomeiuji:uji161 [2019/11/06 21:55] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **上緒の主、金を得る事** **上緒の主、金を得る事**
  
-今はむかし、兵衛佐なる人ありけり。冠のあげおの長かりければ、世の人「あげをのぬし」となんつけたりける。+===== 校訂本文 =====
  
-西の八条と京極との畠の中に、あやしの小家、一あり。前を行程に、夕立ければ、家に馬よりおりて入。みれば、女ひりあり。馬を引入て、夕立をすぐすとて、ひらる小辛櫃のやうなる石のあるに、尻をうちかてゐたり。+今は昔兵衛佐なる人りけり。上緒(あげお)長かりければ、人「上緒の主(し)」となん付けたりける
  
-小石をもちて、こ石を手まさぐりにたたきゐたれば、うたれてくぼみたる所をみれば、金色になりぬ。「希有の事かな」思て、はげたる所に土をぬりかくして、女にふやう、「此石はなにぞ石ぞ」女いふう、「なにの石にか侍らん。むかよりかくて侍也。昔長者の家なん侍ける。この屋は、蔵どもの跡にて候也」と。まことにみれば、大なる石ずゑの石どもあり。「さて、その尻かけさせ給へる石は、其蔵のあと、畠につるとて、うねるあひだに、より掘いだされ侍也それがかく屋の内に侍れば、かきのけんと思侍ればど、女は力よはしのくべきやうもなけにくむにくむ、かくてきて侍也」いひければ、「我、この石とりてん。ちに目くせある物もぞ、みつくる」と思て、女いふやう「此石、我とりてんよ」といひければ、「よき事に侍り」といひければ、その辺にしりたる下人の、むな車をかりにやり、つみていでんとする程に、わきぬをぬぎて、ただにとらんが罪えがましければ、此女にとらせつ。心もえで、さはぎまどふ+西八条京極との中に、あやしの一つあり。そのくほに、夕立しければ、この家に馬より下り入りぬれば、女一人あり馬を引夕立過ぐす平(ひら)なる小辛櫃(からびつ)やうなる石のあるに、うち
  
-石は、女こそよしなし物と思たれども、家にもてきてつかふべきうのあるなり。されば、ただにらんがつみえがましければ、かく衣をらする」とへば、「思かけぬなり。ふようの石のかはりに、いみじきたからの御ぞのわたのいみじきはらんとは。あなおそろし」とひて、さほのあるにかけておがむ。+小石をもちて、この石を手まさぐりに叩きゐたれば、打たれて窪みたる所を見れば、金色になりぬ。希有のことかな」と思ひて、剥げたる所に土を塗り隠して、女に問ふやう、「この石はなぞの石ぞ」。女の言ふやう、「何の石にか侍らん。昔よりかくて侍るなり。昔、長者の家なん侍りける。この屋は蔵どもの跡にて候ふなり」と。まことにみれば、大きなる礎(いしずゑ)の石どもあり。「さて、その尻かけさせ給へる石は、その蔵の跡を畠に作るとて、畝(うね)掘る間に、土の下より掘り出だされて侍るなり。それが、かく屋の内に侍れば、かきのけんと思ひ侍ればど、女は力弱し。かきのくべきやうもなければ、憎む憎む、かくて置きて侍るなり」と言ひければ、「われ、この石取りてん。のちに目くせある者もぞ見付くる」と思ひて、女に言ふやう、「この石、われ取りてんよ」と言ひければ、「よきことに侍り」と言ひければ、その辺に知りたる下人の、むな車を借りにやりて、積みて出でんとするほどに、綿衣(わたぎぬ)を脱ぎて、ただに取らんが罪得がましければ、この女に取らせつ。心も得で、騒ぎまどふ。「この石は、女どもこそよしなし物と思たれども、わが家にもてきて、使ふべき用(よ)のあるなり。されば、ただにらんが罪得がましければ、かく衣をらするなり」とへば、「思かけぬことなり。不用の石のりに、いみじきの御衣(おん)綿のいみじき、賜はらんものとは。あなし」とひて、竿のあるにかけてむ。
  
-さて、車にかきせて、家に帰て、うちきうちかく売て、物どもを買に、米綾など、あまたにて、びただしき徳人にぬれば、西の四条よりは北、皇嘉門よりは西、人もまぬうきのゆふゆふとしたる一町ばかりなるうきあり。そこは買ともあたいもせじと思て、ただすこしに買つ。ぬしは、「ふようのうきなれば、畠もつくらるまじ。家もえつまじ。やくなき所」とおもふに、あたいすこしにてもはんとふ人を、いみじきすきと思てりつ。+さて、車にかきせて、家に帰て、うちきうち欠きて、物どもを買に、米綾など、あまたにて、びただしき徳人(とくん)になりぬれば、西の四条よりは北、皇嘉門よりは西、人もまぬうきのゆふゆふとしたる一町ばかりなるうきあり。そこは買とも、価(あたい)もせじと思て、ただしに買つ。は、「不用のうきなれば、畠もらるまじ。家もえつまじ。益(やく)なき所」とふに、「価少しにてもはんふ人を、いみじき数寄者(すきもの)」と思りつ。
  
-おのぬし此うきをかいとりて津の国に行ぬ舟四五艘斗して難波わたりにいぬ粥など、おほくまうけて又おほうまうけたり行かふ人をまねきあつめて、「此酒かゆまいれといひて、「そのかはりに此蘆刈てすこしつえさせよといひければ、悦てあつまりつつ四五そく十そく二三十束な刈てとらすかくのとく三四日からすれば、山のとく刈つ十艘斗に積て京への酒おほくまうけたれば、るままにこの下人もに、「にいかんよりはこの縄手ひけといひければ、此酒をのみつつ縄手を引ていととく賀茂川尻に引つけつそれより車借に物をとらせつつその蘆にて此うきにしきてしも人もをやとひてそのうへに土はねかけて家を思ままに作てり+上緒の主、このうきを買ひ取りて、津の国に行きぬ。舟四・五艘ばかり具して、難波わたりに往ぬ。酒・粥など、多くまうけて、鎌、また多うまうけたり。行き交ふ人を招き集めて、「この酒・粥参れ」と言ひて、「その代りに、この蘆(し)刈りて、少しづつ得させよ」と言ひければ、悦びて集まりつつ、四・五束(そく)、十束、二・三十束など刈りて取らす。 
 + 
 +かくのごとく、三・四日刈らすれば、山のごとく刈りつ。舟、十艘ばかりに積みて、京へ上る。酒多くまうけたれば、上るままに、この下人どもに、「ただに行かんよりは、この縄手引け」と言ひければ、この酒を飲みつつ、縄手を引きて、いととく賀茂川尻に引き付けつ。それより車借(くるまがし)に物を取らせつつ、その蘆にて、このうきに敷きて、下人(しもうど)どもを雇ひて、その上に土はねかけて、家を思ふままに作てけり。 
 + 
 +南の町は、大納言源の貞((源貞))といひける人の家、北の町はこの上緒の主の埋めて作れる家なり。それを、この貞の大納言の買ひ取りて、二町にはなしたるなりけり。それ、いはゆる、このごろの西の宮なり。かくいふ女の家なりける、金の石を取りて、それを本体として作りたる家なり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし兵衛佐なる人ありけり冠のあけの長かりけれは 
 +  世の人あけをのぬしとなんつけたりける西の八条と京極との 
 +  畠の中にあやしの小家一ありその前を行程に夕立のしけれは 
 +  この家に馬よりおりて入ぬみれは女ひとりあり馬を引入て 
 +  夕立をすくすとてひらなる小辛櫃のやうなる石のあるに尻を 
 +  うちかけてゐたり小石をもちてこの石を手まさくりにたたき/下66オy385 
 + 
 +  ゐたれはうたれてくほみたる所をみれは金色になりぬ希有の 
 +  事かなと思てはけたる所に土をぬりかくして女にとふやう此石は 
 +  なその石そ女のいふやうなにの石にか侍らんむかしよりかくて侍也 
 +  昔長者の家なん侍けるこの屋は蔵ともの跡にて候也とまことに 
 +  みれは大なる石すゑの石ともありさてその尻かけさせ給へる石は 
 +  其蔵のあとを畠につくるとてうねほるあひたに土の下より掘いた 
 +  されて侍也それかかく屋の内に侍れはかきのけんと思侍れと女は 
 +  力よはしかきのくへきやうもなけれはにくむにくむかくてをきて侍也 
 +  といひけれは我この石とりてんのちに目くせある物もそみつ 
 +  くると思て女にいふやう此石我とりてんよといひけれはよき事に 
 +  侍りといひけれはその辺にしりたる下人のむな車をかりにやりて 
 +  つみていてんとする程にわたきぬをぬきてたたにとらんか罪えかまし 
 +  けれは此女にとらせつ心もえてさはきまとふ此石は女共こそよしなし物と/下66ウy386 
 + 
 +  思たれとも我家にもていきてつかふへきやうのあるなりされは 
 +  たたにとらんかつみえかましけれはかく衣をとらする也といへは思 
 +  かけぬ事なりふようの石のかはりにいみしきたからの御そのわた 
 +  のいみしき給はらん物とはあなおそろしといひてさほのある 
 +  にかけておかむさて車にかきのせて家に帰てうちかきうちかき売 
 +  て物ともを買に米銭綾なとあまたにうりえてをひたたしき徳人に 
 +  成ぬれは西の四条よりは北皇嘉門よりは西人もすまぬうきのゆふ 
 +  ゆふとしたる一町はかりなるうきありそこは買ともあたいもせしと 
 +  思てたたすこしに買つぬしはふようのうきなれは畠もつく 
 +  らるまし家もえたつましやくなき所とおもふにあたいすこし 
 +  にてもかはんといふ人をいみしきすき物と思てうりつあけおの 
 +  ぬし此うきをかいとりて津の国に行ぬ舟四五艘斗して 
 +  ​難波わたりにいぬ酒粥なおほくまうけて鎌又おほうまう/下67オy387 
 + 
 +  ​けたり行かふ人をまねきあつめて此酒かゆまいれといひて 
 +  ​そのかはりに此蘆刈てすこしつえさせよといひけれ悦て 
 +  ​あつまりつつ四五そく十そく二三十束な刈てとらすかくの 
 +  ことく三四日からすれ山のとく刈つ舟十艘斗に積て京へ 
 +  ​る酒おほくまうけたれるままにこの下人もにた 
 +  ​いかんよりはこの縄手ひけといひけれ此酒をのみつつ縄手を引 
 +  ​ていととく賀茂川尻に引つけつそれより車借に物をとらせ 
 +  ​つつその蘆にて此うきにしきてしも人もをやとひてそのうへに 
 +  ​土はねかけて家を思ままに作て南の町は大納言源の 
 +  さたといひける人の家北の町は此あけをのぬしのうめて作れる 
 +  家なりそれを此さたの大納言の買とりて二町にはなしたる也けり 
 +  それいはゆるこの比の西の宮なりかくいふ女の家なりける金の石 
 +  をとりてそれを本たいとしてつくりたる家なり/下67ウy388
  
-南の町は、大納言源のさだといひける人の家、北の町は此あげをのぬしのうめて作れる家なり。それを此さだの大納言の買とりて、二町にはなしたる也けり。それ、いはゆる、この比の西の宮なり。かくいふ女の家なりける、金の石をとりて、それを本たいとしてつくりたる家なり。 


text/yomeiuji/uji161.txt · 最終更新: 2019/11/06 21:55 by Satoshi Nakagawa