text:yomeiuji:uji158
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text:yomeiuji:uji158 [2014/10/12 02:17] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji158 [2019/10/26 00:00] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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**陽成院の妖物の事** | **陽成院の妖物の事** | ||
- | 今はむかし、陽成院おり居させ給ての御所は、宮よりは北、西洞院よりはにし、油小路よりは東にてなんありける。そこは物すむ所にてなんありける。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | 大なる池のありける釣殿に、番のものねたりければ、夜中斗に、ほそぼそとある手にて、此男のかほを、そとそとなでけり。「けむつかし」と思て、太刀をぬきて、かたてにてつかみたりければ、浅黄の上下きたる叟の、事のほかに物わびしげなるがいふ様、「我はこれ、昔住しぬしなり。浦島の子がおとと也。いにしへより、此所にすみて、千二百余年になる也。ねがはくはゆるし給へ。ここに社を造て、いはひ給へ。さらば、いかにもまもりたてまつりらん」といひけるを、「我心ひとつにては、かなはじ。このよしを院へ申てこそは」といひければ、「にくき男のいひ事かな」とて三たび上ざまへけあげけあげして、なへなへくたくたとなして、おつる所を、口をあきてくひたりけり。 | + | 今は昔、陽成院((陽成天皇))おりゐさせ給ひての御所は、宮よりは北、西洞院よりは西、油小路よりは東にてなんありける。そこはもの住む所にてなんありける。 |
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+ | 大きなる池のありける釣殿に、番の者寝たりければ、夜中ばかりに、細々とある手にて、この男の顔を、そとそとなでけり。「けむつかし」と思ひて、太刀を抜きて、片手にてつかみたりければ、浅黄(あさぎ)の上下(かみしも)着たる翁の、ことのほかに物わびしげなるが言ふやう、「われはこれ、昔住みし主(ぬし)なり。浦島の子が弟(おとと)なり。いにしへより、この所に住みて、千二百余年になるなり。願はくは許し給へ。ここに社を造りて、いはひ給へ。さらば、いかにも守り奉らん」と言ひけるを、「わが心一つにてはかなはじ。このよしを院へ申してこそは」と言ひければ、「憎き男の言ひごとかな」とて、三度(みたび)上ざまへ蹴上げ蹴上げして、なへなへくたくたとなして、落つる所を口を開きて食ひたりけり。なべての人ほどなる男と見るほどに、おびたたしく大きになりて、この男をただ一口に食ひてけり。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 今はむかし陽成院おり居させ給ての御所は宮よりは北西洞院 | ||
+ | よりはにし油小路よりは東にてなんありけるそこは物すむ所にて | ||
+ | なんありける大なる池のありける釣殿に番のものねたりけれは | ||
+ | 夜中斗にほそほそとある手にて此男のかほをそとそとなてけり | ||
+ | けむつかしと思て太刀をぬきてかたてにてつかみたりけれは浅 | ||
+ | 黄の上下きたる叟の事のほかに物わひしけなるかいふ様我は | ||
+ | これ昔住しぬしなり浦島の子かおとと也いにしへより此所に | ||
+ | すみて千二百余年になる也ねかはくはゆるし給へここに社を | ||
+ | 造ていはひ給へさらはいかにもまもりたてまつらんといひけるを | ||
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+ | 程なる男とみる程におひたたしく大に成てこの男をたた一口に食てけり/下65ウy384 | ||
- | なべての人、程なる男とみる程に、おびただしく大に成て、この男を、ただ一口に食てけり。 |
text/yomeiuji/uji158.1413047842.txt.gz · 最終更新: 2014/10/12 02:17 by Satoshi Nakagawa