ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:yomeiuji:uji156

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
次のリビジョン
前のリビジョン
text:yomeiuji:uji156 [2014/10/12 02:16] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji156 [2019/10/24 22:40] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
行 1: 行 1:
 宇治拾遺物語 宇治拾遺物語
-====== 第156話(巻12・第20話)遣唐使の子、虎に食るる事 ======+====== 第156話(巻12・第20話)遣唐使の子、虎に食るる事 ======
  
 **遣唐使子被食虎事** **遣唐使子被食虎事**
  
-**遣唐使の子、虎に食るる事**+**遣唐使の子、虎に食るる事**
  
-今はむかし、遣唐使にてもろこしにわたりける人の、十ばかりなる子を、えみであるまじかりければ、ぐしてわたりぬ。+===== 校訂本文 =====
  
-さて、ぐしけるに、雪のたかりたりける日、ありきもせでゐたりけるに、この児のあそびにでていぬるが、をそく帰ければ、あやしと思て、でてれば、あし、うしろのかたからみて行たるにひて、大犬の足かたありて、それより児の足かたみえず。+今は昔、遣唐使にて唐土(もろこし)に渡りける人の、十ばかりなる子を、え見であるまじかりければ、具して渡りぬ。さて、ぐしけるほどに、雪のりたりける日、歩(あり)きもせでゐたりけるに、この児のびにでていぬるが、く帰ければ、あやしと思て、でてれば、足形(あし)後ろのからみて行たるに沿ひて、大きなる犬の足ありて、それよりこの児の足形見えず。
  
-山ざまに行たるをれば、「これは虎のひてきけるなめり」と思に、せんかたなくかなしくて、太刀をきて、足かたを尋て山のかたに行てれば、岩屋のくちに、児を食殺して、腹をねぶりてせり。+山ざまに行たるをれば、「これは虎のひてきけるなめり」と思に、せんかたなくしくて、太刀をきて、足を尋て山のに行れば、岩屋のに、この児を食殺して、腹をねぶりてせり。
  
-太刀を持て走れば、えげてもかで、かひかがまりてゐたるを、太刀にて頭をうてば、鯉のかしらわるやうにわれぬ又そばざまにくはんとて走よるせなかをうてば、ねをうちきりてくたくたとなしつ+太刀を持て走り寄れば、えげてもかで、かひかがまりてゐたるを、太刀にて頭(かしら)打てば、鯉の頭割るやに割れぬ。次に、またそばざまに食はんとて、走り寄る背中を打てば、背骨をうち切りて、くたくたとなしつ。 
 + 
 +さて、子をば、死にたれども、脇にかひはさみて、家に帰りたれば、その国の人々見て、怖ぢあさむことかぎりなし。唐土の人は虎に会ひては、逃ぐることだにかたきに、かく虎をばうち殺して、子を取り返して来たれば、唐土の人はいみじきことに言ひて、「なほ日本の国には、兵(つはもの)の方(かた)は並びなき国なり」と、めでけれども、子死にければ、何にかはせむ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし遣唐使にてもろこしにわたりける人の十はかりなる 
 +  子をえみてあるましかりけれはくしてわたりぬさてすくし 
 +  ける程に雪のたかくふりたりける日ありきもせてゐたりけるに/下62ウy378 
 + 
 +  この児のあそひにいてていぬるかをそく帰けれはあやしと思て 
 +  いててみれはあしかたうしろのかたからふみて行たるにそひて大成 
 +  犬の足かたありてそれより此児の足かたみえす山さまに行 
 +  たるをみれはこれは虎のくひていきけるなめりと思にせんかたなく 
 +  かなしくて太刀をぬきて足かたを尋て山のかたに行てみれは岩屋 
 +  のくちに此児を食殺して腹をねふりてふせり太刀を持て 
 +  走よれはえにけてもいかてかひかかまりてゐたるを太刀にて頭を 
 +  うては鯉のかしらわるやうにわれぬつに又そはさまにくはんとて 
 +  走よるせなかをうてねをうちきりてくたくたとなしつさて 
 +  子をは死たれとも脇にかひはさみて家に帰たれはその国の人々 
 +  みてをちあさむ事かきりなしもろこしの人は虎にあひては逃 
 +  る事たにかたきにかく虎をはうちころして子をとり返し 
 +  てきたれはもろこしの人はいみしき事にいひて猶日本の国/下63オy379 
 + 
 +  には兵のかたはならひなき国なりとめてけれとも子死けれは 
 +  なににかはせむ/下63ウy380
  
-さて、子をば死たれども、脇にかひはさみて、家に帰たれば、その国の人々みて、をぢあさむ事かぎりなし。もろこしの人は、虎にあひては、逃る事だにかたきに、かく虎をばうちころして、子をとり返してきたれば、もろこしの人は、いみじき事にいひて、「猶日本の国には、兵のかたは、ならびなき国なり」とめでけれども、子死ければなににかはせむ。 
text/yomeiuji/uji156.txt · 最終更新: 2019/10/24 22:40 by Satoshi Nakagawa