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text:yomeiuji:uji154 [2014/10/12 02:16] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji154 [2019/10/23 22:37] (現在) Satoshi Nakagawa
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 **貧しき俗、仏性を観じて富める事** **貧しき俗、仏性を観じて富める事**
  
-今は昔、もろこしのへんしうに、一人の男あり。家貧しくして、宝なし。妻子をやしなふに力なし。もとむれども、うる事なし。+===== 校訂本文 =====
  
-かくて、年月をふ。思わびて、ある僧にひて、宝をべき事をとふ。智恵ある僧にて、こたふるやう、「たからんと思はば、ただまことの心をこすべし。さらば、宝もゆたかに、後世はき所に生れなん」とふ。この人、「実の心とはいかが」とへば、僧の、「実の心をこすとふは、たのにあらず。仏法を信ずる」とふに、又とひて、「それはいかに、たしかにけ給りて、心をえてたのみ思て二なく信をなしたのみ申さんうけたまはるといへば、僧のいはく、「我心はこれ仏也我心をはなれては仏なしとしかれば、我心のゆへに仏はいますなりといへば、手をすりて泣々おみてそれより此事を心にかけてよるひる思ければ、梵尺諸天きたりてまもり給ければ、はからるに宝出きて家の内ゆたかになりぬ+今は昔、唐土(もろこし)の辺州(へんしう)に一人の男あり。家貧しくして宝なし。妻子を養ふに力なし。求むれども、得ることなし。 
 + 
 +かくて、年月を経()。思わびて、ある僧にひて、宝をべきを問ふ。智恵ある僧にて、ふるやう、「なんぢんと思はば、ただ実(まこと)の心をこすべし。さらば、宝もかに、後世はき所に生れなん」とふ。この人、「実の心とはいかが」とへば、僧のいはく、「実の心をこすとふは、他()ことにあらず。仏法を信ずるなり」とふに、また問ひていはく、「それはいかに、たしかに承りて、心を得て頼み思ひて、二つなく信をなし、頼み申さん。承るべし」と言へば、僧のいはく、「我心はこれ仏なり。我心を離れては仏なしと。しかれば、我心のゆゑに仏はいますなり」と言へば、手をすりて泣く泣く拝みて、それよりこのことを心にかて、夜昼(よるひる)思ひければ、梵((梵天))・釈((帝釈天))・諸天来たりて、守りひければ、はからざるに宝出できて、家の内豊かになぬ。 
 + 
 +命終るに、いよいよ心、仏を念じ入れて、浄土にすみやかに参りてけり。このことを聞き見る人、貴みあはれみけるとなん。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔もろこしのへんしうに一人の男あり家貧しくして宝 
 +  なし妻子をやしなふに力なしもとむれともうる事なしかくて 
 +  年月をふ思わひてある僧にあひて宝をうへき事をとふ 
 +  智恵ある僧にてこたふるやう汝たからをえんと思ははたたまこ 
 +  との心をおこすへしさらは宝もゆたかに後世はよき所に生れ 
 +  なんといふこの人実の心とはいかかととへは僧の云実の心をおこ 
 +  すといふはたの事にあらす仏法を信する也といふに又とひて 
 +  云それはいかにたしかにうけ給りて心をえてたのみ思て二なく信を 
 +  なしたのみ申さんうけたまはるしといへ僧のいはく我心はこれ仏也/下60オy373 
 + 
 +  我心をはなれては仏なしとしかれ我心のゆへに仏はいます 
 +  なりといへ手をすりて泣々おみてそれより此事を心にかけて 
 +  よるひる思けれ梵尺諸天きたりてまもり給けれはからるに 
 +  宝出きて家の内ゆたかになりぬ命おはるにいよいよ心仏を念し 
 +  入て浄土にすみやかにまいりてけりこの事をききみる人たう 
 +  とみあはれみけるとなん/下60ウy374
  
-命おはるに、いよいよ心、仏を念じ入て、浄土にすみやかにまいりてけり。この事をききみる人、たうとみ、あはれみけるとなん。 
text/yomeiuji/uji154.txt · 最終更新: 2019/10/23 22:37 by Satoshi Nakagawa