text:yomeiuji:uji147
宇治拾遺物語
第147話(巻12・第11話)樵夫の小童、隠し題の歌読む事
樵夫小童隠題哥読事
樵夫の小童、隠し題の歌読む事
校訂本文
今は昔、隠し題をいみじく興ぜさせ給ひける御門の、「篳篥(ひちりき)」を詠ませられけるに、人々悪(わろ)く詠みたりけるに、木樵(こ)る童の、暁、山へ行くとて、言ひける、「このごろ篳篥を詠ませ給ふなるを、人のえ詠み給はざんなる。童こそ詠みたれ」と言ひければ、具して行く童部、「あな、おほけな。かかることな言ひそ。さまにも似ず。いまいまし」と言ひければ、「などか必ずさまに似ることか」とて、
めぐり来る春々ごとに桜花(さくらばな)いくたびちりき人に問はばや
と言ひたりける。さまにも似ず、思ひがけずぞ。
翻刻
今はむかしかくし題をいみしく興せさせ給ける御門のひちりきを よませられけるに人々わろくよみたりけるに木こる童の暁山へ 行とていひけるこの比篳篥をよませ給なるを人のえよみ 給はさんなる童こそよみたれといひけれはくして行童部あなおほ けなかかる事ないひそさまにもにすいまいましといひけれはなとか かならすさまににる事かとて めくりくる春々ことにさくら花いくたひちりき人にとははや といひたりけるさまにもにすおもひかけすそ/下57ウy368
text/yomeiuji/uji147.txt · 最終更新: 2019/10/04 23:55 by Satoshi Nakagawa