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text:yomeiuji:uji143 [2014/04/17 16:05] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji143 [2017/09/13 03:04] – [第143話(巻12・第7話)増賀上人、三条宮に参り振舞の事] Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第143話(巻12・第7話)増賀上人、三条宮に参り振舞の事 ====== ====== 第143話(巻12・第7話)増賀上人、三条宮に参り振舞の事 ======
  
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 さて、御前に召いれて、御几帳のもとに参て、出家の作法して、めでたく長き御髪をかき出して、此上人にはさませらる。御簾中に、女房達見て泣事限なし。 さて、御前に召いれて、御几帳のもとに参て、出家の作法して、めでたく長き御髪をかき出して、此上人にはさませらる。御簾中に、女房達見て泣事限なし。
  
-はさみはてて出なんとする時、上人高声にいふやう、「僧賀をしもあながちにめすは何事ぞ。心えられ候はず。もし、きたなき物を大なりときこしめしたるか。人のよりは大に候へども、今は練きぬのやうにくたくたと成たる物を」と云に、簾の内近く候女房たち、外には公卿、殿上人、僧たち、これを聞に、あさましく、目口はだかりておぼゆ。宮の御心ちもさらなり。貴さもみなうせて、をのをの身より汗あへて、我にもあらぬ心ちす。+はさみはてて出なんとする時、上人高声にいふやう、「僧賀をしもあながちにめすは何事ぞ。心えられ候はず。もし、きたなき物を大なりときこしめしたるか。人のよりは大に候へども、今は練きぬのやうにくたくたと成たる物を」と云に、簾の内近く候女房たち、外には公卿、殿上人、僧たち、これを聞に、あさましく、目口はだかりておぼゆ。宮の御心ちもさらなり。貴さもみなうせて、をのをの身より汗あへて、我にもあらぬ心ちす。
  
-さて、上人、「まかり出なん」とて、袖かきあはせて「年罷よりて、風をもく成て、今はただ痢病のみ仕れば、まいるまじく候つるを、わざとめし候つれば、相構て候つる。堪がたくなりて候へば、いそぎまかりいで候なり」とて、出ざまに、西台の簀子についゐて尻をかかげて、楾の口より水をいだすやうに、ひりちらす。音高く臰((の異体字))事限なし。御前まできこゆ。わかき殿上人、笑ののしる事おびただし。僧たちは、「かかる物狂をめしたる事」と謗申けり。+さて、上人、「まかり出なん」とて、袖かきあはせて「年罷よりて、風をもく成て、今はただ痢病のみ仕れば、まいるまじく候つるを、わざとめし候つれば、相構て候つる。堪がたくなりて候へば、いそぎまかりいで候なり」とて、出ざまに、西台の簀子についゐて尻をかかげて、楾の口より水をいだすやうに、ひりちらす。音高く臭事限なし。御前まできこゆ。わかき殿上人、笑ののしる事おびただし。僧たちは、「かかる物狂をめしたる事」と謗申けり。
  
 か様に事にふれて、物狂に態とふるまひけれども、それにつけても貴き覚は弥まさりけり。 か様に事にふれて、物狂に態とふるまひけれども、それにつけても貴き覚は弥まさりけり。
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text/yomeiuji/uji143.txt · 最終更新: 2021/02/16 22:58 by Satoshi Nakagawa