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text:yomeiuji:uji140 [2017/09/09 22:51]
Satoshi Nakagawa [第140話(巻12・第4話)内記上人、法師陰陽師の紙冠を破る事]
text:yomeiuji:uji140 [2019/08/12 17:03] (現在)
Satoshi Nakagawa
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 **内記上人、法師陰陽師の紙冠を破る事** **内記上人、法師陰陽師の紙冠を破る事**
  
-内記上人、寂心といふ人ありけり。道心堅固の人也。堂を造り、塔をたつる。最上の善根也とて、勧進せられけり。材木をば、播磨国に行てとられけり。+===== 校訂本文 =====
  
-ここに法師陰陽師、紙冠をきて祓するをみつけて、はてて馬よて走よて、「なにわざし給、御房ぞ」ととへば、「祓し候也」といふ。「なにしに紙冠ば、したぞ」ととへば「祓戸神達は法師をば忌給へば、祓する程、しばらくして侍也」といふに、上人声をあげて大に泣て、陰陽師に取懸れば、陰陽師、心えず仰天して、祓をしさして、「是はいか」と云。祓せさする人も、あきれて居たり。+内記上人寂心((慶滋保胤))といふ人あり。道心堅固の人なり。「造り塔を建つる、最上善根なり」とて、勧進せらけり。材木を播磨国て取らり。
  
-上人、冠を取て、引破て、泣事限なし。「いかにりて御房は仏弟子とて、『祓戸の神達にくみ給』とひて、如来の忌給を破て、しばしも無間地獄の業をばつくり給ぞ。かなしき事也。ただ寂心を殺せ」とひて、取付て泣おびたし。陰陽師のいはく、「仰らるる道理。世の過がたければ、さりとてはとて、かくのごとく仕也。しからず、何わざをしてかは妻子はやしなひ、命をも続侍らん。道心なければ、上人にもならず。法師のかたちに侍れど、俗人のごとくなれば、後世のいかがと、かなしく侍れど、世のならひにて侍れば、かやうに侍なり」とふ。上人のやう「それはさもあれ、いかが三世如来の御首に冠をば着給。不幸にへずして、かし給はば、堂作らん料に、勧進しあつめたる物共を汝に与ん一人菩提勧れば、堂寺造に勝れたる功徳也といひて弟子共をつかはして材木とらんとて勧進しあつめたる物をみなはこよせて此陰陽師にとらせつ+ここに法師陰陽師、紙冠(かみかうぶり)を着て祓(はら)ひするを見付けて、慌てて馬より下りて、走り寄りて、「なにわざし給ふ、御房ぞ」と問へば、「祓ひし候ふなり」と言ふ。「何しに紙冠をばしたるぞ」と問へば、「祓戸(はらひど)の神たちは、法師をば忌み給へば、祓ひするほど、しばらくして侍るなり」と言ふに、上人、声を上げておほきに泣きて、陰陽師に取りかかれば、陰陽師、心得ず仰天して、祓ひをしさして、「これはいかに」と言ふ。祓ひせさする人も、あきれて居たり。 
 + 
 +上人、冠を取て、引て、泣くことかぎりなし。「いかにりて御房は仏弟子となりて、『祓戸の神たち憎み給』とひて、如来の忌ふことを破て、しばしも無間地獄の業をばり給ぞ。まことしきことなり。ただ寂心を殺せ」とひて、取て泣くことおびたし。 
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 +陰陽師のいはく、「仰らるることもつとも道理なり。世の過がたければ、さりとてはとて、かくのごとくつかまつるなり。しからず、何わざをしてかは妻子はひ、わが命をも続侍らん。道心なければ、上人にもならず。法師のに侍れど、俗人のごとくなれば、後世のこといかがと、しく侍れど、世のひにて侍れば、かやうに侍なり」とふ。上人の言ふやう「それはさもあれ、いかが三世如来の御首に冠をば着給。不幸にへずして、かやうことし給はば、堂作らん料に勧進し集めたるものどもをなんぢに与へん。一人菩提勧むれば、堂寺造るにすぐれたる功徳なり」と言ひて、弟子どもをつかはして、材木とらんとて勧進し集めたる物を、みな運び寄せて、この陰陽師に取らせつ。 
 + 
 +さて、わが身は京に上り給ひにけり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  内記上人寂心といふ人ありけり道心堅固の人也堂を造り 
 +  塔をたつる最上の善根也とて勧進せられけり材木をは播磨国 
 +  に行てとられけりここに法師陰陽師紙冠をきて祓するをみつけて/下52ウy358 
 + 
 +  あはてて馬よりおりて走よりてなにわさし給御房そととへは 
 +  祓し候也といふなにしに紙冠をはしたるそととへは祓戸の神達は 
 +  法師をは忌給へは祓する程しはらくして侍也といふに上人声を 
 +  あけて大に泣て陰陽師に取懸れは陰陽師心えす仰天して 
 +  祓をしさして是はいかにと云祓せさする人もあきれて居たり 
 +  上人冠を取て引破て泣事限なしいかにしりて御房は仏弟 
 +  子と成て祓戸の神達にくみ給といひて如来の忌給事を破 
 +  てしはしも無間地獄の業をはつくり給そ誠にかなしき事也たた寂 
 +  心を殺せといひて取付て泣事おひたたし陰陽師のいはく仰らるる 
 +  事尤道理也世の過かたけれはさりとてはとてかくのことく仕也 
 +  しからすは何わさをしてかは妻子はやしなひ我命をも続 
 +  侍らん道心なけれは上人にもならす法師のかたちに侍れと俗人の 
 +  ことくなれは後世の事いかかとかなしく侍れと世のならひにて侍/下53オy359 
 + 
 +  れはかやうに侍なりといふ上人の云やうそれはさもあれいかか三 
 +  世如来の御首に冠をは着給不幸にたへすしてか様の事 
 +  し給はは堂作らん料に勧進しあつめたる物共を汝に与ん 
 +  ​一人菩提勧れ堂寺造に勝れたる功徳也といひて弟子共 
 +  ​をつかはして材木とらんとて勧進しあつめたる物をみなはこひ 
 +  ​よせて此陰陽師にとらせつさて我身は京に上給にけり/下53ウy360
  
-さて、我身は京に上給にけり。 


text/yomeiuji/uji140.1504965101.txt.gz · 最終更新: 2017/09/09 22:51 by Satoshi Nakagawa