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text:yomeiuji:uji136

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text:yomeiuji:uji136 [2017/09/09 19:23]
Satoshi Nakagawa [第136話(巻11・第12話)出家功徳の事]
text:yomeiuji:uji136 [2019/08/12 12:57] (現在)
Satoshi Nakagawa [校訂本文]
ライン 6: ライン 6:
 **出家功徳の事** **出家功徳の事**
  
-これも今はむかし、筑紫に「たうさかのさへ」と申、斉の神まします。そのほこらに修行しける僧のやどりて、ねたりける夜、「夜中斗にはなりぬらん」とおもふ程に、馬のあしをとあまたして、人の過るときく程に、「斉はましますか」ととふこゑす。このやどりたる僧、「あやし」ときくほどに、此ほこらの内より、「侍り」とこたふなり。+===== 校訂本文 =====
  
-、「まし」ときけば「明日、武蔵寺にやいり給ふ」ととふなれば、「さも侍らず何事侍ぞ」とたふ。あす武蔵寺新仏いで給べて、梵天帝尺、諸天龍神あつま給ふと給は」となれば「さ事もえうけたはらざりけり。うれくつけ給へるかな。いかでかいらでは侍べらん。ならずまいらんずる」といへば、「さらばあす巳時ばかり事な。かならずまいたまへ。まち申さん」とて過ぬ+これも今は昔筑紫にたうかのさへ」と申す斉の神((道祖神))します祠(ほら)修行ける僧の宿りて、寝たりける夜「夜中ばかりぬらん」とほどに馬の足音あまたして、人の過ぐと聞くほどに「斉はましまか」と問ふ声す。この宿りたる僧、「あやし」と聞くほどに内よ、「侍り」と答ふなり
  
-この僧、これをききて、「希有の事をもききつるかな。すは物へゆかん思つれどもこの事みてこそいづちもゆかめ」と思てあくやをそきむさし寺にまてみども、さるけしきも例より、中々しづに人もみえ、「あるやうあらん」と思て、仏の御前に候て巳時をまちゐたる程に、今ししあらば、になりなず。+また、「あさまし」聞けば「明日武蔵寺にや参り給ふ」と問ふなれば「さも侍らず。何事の侍ぞ」答ふ。「明日、武蔵寺に新仏出で給ふべしとて、梵天・帝釈((帝釈天))・諸天・龍神集まり給ふとは知り給はぬか」と言ふなさることも、え承らざりり。嬉く告げ給へるかな。いかでか参らで侍らん。なららんずる」と言へ、「さらば、明日の巳ばかのことり。必参り給へ。待ち申さん」とて過ぎぬ
  
-かなる事にと思ゐたる程に年七十斗余斗なる翁の、はげて白きとてもおろおろある頭にろの烏帽子をひてもちいさきが、いとどこかがまりたるが、杖にすがりてあゆむに尼たてり。ちいさく黒き桶になにあるらん、物入て引さげたり。御堂にまいりて、男は仏の御前にて、ぬか二三度斗つきてもくれんずの念珠の大きにながきをもみて候へば、尼そのもたる小桶を翁のかたはらをきて「御房よびたてまつら」とていぬ+この僧、これを聞きて、希有のことをも聞きつるかな。『明日はものへ行ん』と思ひつれどもこと見てこそいづち行かめ」思ひて、るや遅と武蔵寺に参り見れど、さる気色し。例よかなか静か、人も見えず、「あるやうあらん」と思ひて、仏の御前に候ひて、巳時を待ちゐたるほどにばしあらば、午時なりな
  
-しばしばりあれば、六十斗なる僧まいりて、仏拝奉て、「なせむに、よび給ぞ」ととへば、「けふあすともしらぬ身罷成にたればしらのすこしのこりたるを剃て御弟子ならんと思也」といへば、僧、目をしすりて、「いとたうとき事な。さとくとく」と、小桶なつるは湯なりけり、て頭あらひて、て、戒さづけつまた仏おがて、まかりいでぬ。其後又こと事なし。さは、この翁の、法師なるを随喜して、天衆もあつまり給て新仏のいでさせたまふはあるにこそありけれ+「いかなることか」と思ひゐたるほどに、年七十余りかりなる翁の髪もはげて白きおろおろある頭に、烏帽子を引き入れて、もとも小さきが、いとど腰かりたるにすりて歩む。尻に尼立てり。小さく黒き桶にある物入れ引き下げた。御堂に参男は仏御前にて、額(ぬか)二三度ばかりつきて、木欒子(もくんず)の念珠の大きに長き押しもみて候へば持たる小桶を翁の傍ら置きて、「御房呼び奉らん」て往ぬ
  
-出家随分の功徳とは、今にはじめたるにはあらねども、まして、わかくさかりならん人のよく道心おこして随分にせんものの功徳これにていよいよをしはかれたり+しばしばかりあれば、六十ばかりなる僧参りて、仏拝奉りて、「何せむに呼び給ふぞ」と問へば、「今日明日とも知らぬ身にまかりなりにたれば、この白髪の少し残りたるを剃りて、御弟子にならんと思ふなり」と言へば、僧、目押しすりて、「いと尊きことかな。さらば、とくとく」とて、小桶なりつるは湯なりけり、その湯にて頭洗ひて、剃りて、戒授けつれば、また仏拝み奉りて、まかり出でぬ。その後、また異事(ことごと)なし。さは、この翁の法師になるを随喜して、天衆も集り給ひて、「新仏の出でさせ給ふ」とはあるにこそありけれ。 
 + 
 +出家随分の功徳とは、今にめたることにはあらねども、まして、若く盛りならん人の、よく道心起こして、随分にせん者の功徳、これにていよいよ推し量られたり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし筑紫にたうさかのさへと申斉の神まします 
 +  そのほこらに修行しける僧のやとりてねたりける夜夜中 
 +  斗にはなりぬらんとおもふ程に馬のあしをとあまたして人 
 +  の過るときく程に、斉はましますかととふこゑすこの 
 +  やとりたる僧あやしときくほとに此ほこらの内より侍り 
 +  とこたふなり又あさましときけは明日武蔵寺にやま 
 +  いり給ふととふなれはさも侍らす何事の侍るそとこたふ 
 +  あす武蔵寺に新仏いて給へしとて梵天帝尺諸天 
 +  龍神あつまり給ふとはしり給はぬかといふなれはさる事も 
 +  えうけたまはらさりけりうれしくつけ給へるかないかてかま 
 +  いらては侍へらんかならすまいらんするといへはさらはあすの 
 +  巳時はかりの事なりかならすまいりたまへまち申/下49ウy352 
 + 
 +  さんとて過ぬこの僧これをききて希有の事をも 
 +  ききつるかなあすは物へゆかんと思つれともこの事みて 
 +  こそいつちもゆかめと思てあくるやをそきとむさし寺 
 +  にまいりてみれともさるけしきもなし例よりは中々しつ 
 +  かに人もみえすあるやうあらんと思て仏の御前に候て巳時 
 +  をまちゐたる程に今しはしあらは午時になりなんすいか 
 +  なる事にかと思ゐたる程に年七十余斗なる翁の髪も 
 +  はけて白きとてもおろおろある頭にふくろの烏帽子を 
 +  ひき入てもともちいさきかいととこしかかまりたるか杖に 
 +  すかりてあゆむしりに尼たてりちいさく黒き桶に 
 +  なにかあるらん物入て引さけたり御堂にまいりて男は 
 +  仏の御前にてぬか二三度斗つきてもくれんすの念珠 
 +  の大きになかきをしもみて候へは尼そのもたる小桶を/下50オy353 
 + 
 +  翁のかたはらにをきて御房よひたてまつらんとていぬし 
 +  はしはかりあれは六十斗なる僧まいりて仏拝奉て 
 +  なにせむによひ給そととへはけふあすともしらぬ身に罷 
 +  成にたれはこのしらかのすこしのこりたるを剃て御弟子に 
 +  ならんと思也といへは僧目をしすりていとたうとき事 
 +  かなさらはとくとくとて小桶なりつるは湯なりけりその 
 +  湯にて頭あらひて剃て戒さつけつれはまた仏おかみ奉て 
 +  まかりいてぬ其後又こと事なしさはこの翁の法師に 
 +  なるを随喜して天衆もあつまり給て新仏のいてさせ 
 +  たまふとはあるにこそありけれ出家随分の功徳とは今に 
 +  はしめたる事にはあらねともましてわかくさかりならん 
 +  ​人のよく道心おこして随分にせんものの功徳これ 
 +  ​にていよいよをしはかれたり/下50ウy354
  


text/yomeiuji/uji136.1504952596.txt.gz · 最終更新: 2017/09/09 19:23 by Satoshi Nakagawa