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text:yomeiuji:uji130

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text:yomeiuji:uji130 [2014/10/11 01:43]
Satoshi Nakagawa
text:yomeiuji:uji130 [2019/06/02 18:11] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **蔵人得業、猿沢池の竜の事** **蔵人得業、猿沢池の竜の事**
  
-これも今はむかし、奈良に蔵人得業恵印と云僧有けり。鼻大きにて赤かりければ、「大鼻の蔵人得業」といひけるを、後ざまには「事ながし」とて、「鼻蔵人」とぞいひける。猶、のちのちには「鼻くら」「鼻くら」とのみいひけり。+===== 校訂本文 =====
  
-若かりける時に、猿沢の池のはたに、「月のその日、此池より竜ののぼらんずるなり」といふ簡をたてたりけるを、ゆききの物、若き老たる、さるべき人々、「ゆかき事かな」とささめきあひたり。此鼻蔵人、「おかしき事かな。我した事を人々さはぎあひたりおこの事哉」と心中おかし思へども「すかしふせん」とて、そらしらずして過行程に、そ月にな+も今は昔奈良に蔵人得業恵印といふ僧ありけり。鼻大き赤かりければ、「大鼻蔵人得業」と言ひけるを、後ざまには、「言(こと)長し」とて、「鼻蔵人」とぞ言ひける。なほ後々は「鼻蔵(はなら)鼻蔵」とのみ言ひけり。
  
-かた、大和、河内和泉、摂津国物まで、ききへてつどひあひたり。恵印、「くはあつまる何かあらんやうのあそ。やしき事かな」と思へども、さりげなくて過行ほどに、すでにそのになりぬれば、道もさりあへず、ひしめきあつまる+それが若りける時に、猿沢の池の端(は)に「その月のその日池より竜の登らんずるなり」といふ簡(ふだ)を立てたりけるを来者、若老いさるべき人々、「ゆかしきことかな」と、ささめきあひたり。この鼻蔵人、「しきことわがしたることを、人々騒ぎひたり。をこのことかな」と、心中にをかしく思へども、「すかしふせん」とて、そら知らずして過ほどに、そのになりぬ。
  
-時になりて、恵印おもふやう、「ただ事あらじ。我したる事なれども、やうのあるにこそ」と思ければ「此事もあらんずらん。てみん」と思て、頭つつみてゆ。大かたちかうよりつくべきもあらず。興福寺南大門の壇の上のぼたちて「今や竜の登る今や竜の登る」とまちたれども、なにののぼらんぞ、日も入ぬ+おほかた、大和・河内・和泉・摂津国者まで聞き伝へて、集ひ会ひたり。恵印、「いかかくは集まる。何か、あらやうのあるにこそ。あやしきことかな」と思へども、さりげなくて過ぎ行くほどにすでぬればさりあへずひしめき集まる
  
-くらぐらになりて、さりとては、かくてあるべきならねば、帰ける道に、ひとつ橋に目くらがわたひたりけるを、恵印、「あな、あぶなの目くらや」とひたりけるを、くら、とりもあへず「あらじ、鼻くらななり」とひける。+その時になりて、この恵印、思ふやう、「ただごとにもあらじ。わがしたることなれども、やうのあるにこそ」と思ひければ、「このこと、さもあらんずらん。行きて見ん」と思ひて、頭包みて行く。おほかた、近う寄り付くべきにもあらず。興福寺の南大門の壇の上に登り立ちて、「今や竜の登る、今や竜の登る」と待ちたれども、何の登らんぞ、日も入りぬ。 
 + 
 +暗々(くらぐら)になりて、さりとては、かくてあるべきならねば、帰ける道に、つ橋に目くらがひたりけるを、この恵印、「あな、あぶなの目くらや」とひたりけるを、くら、とりもあへず「あらじ、鼻くらななり」とひける。 
 + 
 +この恵印を「鼻蔵」と言ふとも知らざりけれども、「目くら」と言ふにつきて、「あらじ、鼻くらななり」と言ひたるが、「鼻蔵」に言ひあはせたるが、をかしきことの一つなりとか。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし奈良に蔵人得業恵印と云僧有けり 
 +  鼻大きにて赤かりけれは大鼻の蔵人得業といひけるを 
 +  後さまには事なかしとて鼻蔵人とそいひける猶のちのちには 
 +  鼻くら鼻くらとのみいひけりそれか若かりける時に猿沢の池 
 +  のはたにその月のその日此池より竜ののほらんするなりと 
 +  いふ簡をたてたりけるをゆききの物若き老たるさるへき人 
 +  々ゆかしき事かなとささめきあひたり此鼻蔵人おかしき事 
 +  かな我したる事を人々さはきあひたりおこの事哉と心中に 
 +  おかしく思へともすかしふせんとてそらしらすして過行/下42オy337 
 + 
 +  程にその月になりぬ大かた大和河内和泉摂津国の物まて 
 +  ききつたへてつとひあひたり恵印いかにかくはあつまる何かあらん 
 +  やうのあるにこそあやしき事かなと思へともさりけなくて過行 
 +  ほとにすてにその日になりぬれは道もさりあへすひしめき 
 +  あつまるその時になりて此恵印おもふやうたた事にもあらし 
 +  我したる事なれともやうのあるにこそと思けれは此事さも 
 +  あらんすらん行てみんと思て頭つつみてゆく大かたちかうより 
 +  つくへきにもあらす興福寺の南大門の壇の上にのほりたち 
 +  て今や竜の登る今や竜の登るとまちたれともなにののほらんそ日も 
 +  入ぬくらくらになりてさりとてはかくてあるへきならねは帰ける 
 +  道にひとつ橋に目くらかわたりあひたりけるを此恵印あな 
 +  あふなの目くらやといひたりけるをめくらとりもあへすあらし 
 +  鼻くらななりといひけるこの恵印をはなくらと云共しらさり/下42ウy338 
 + 
 +  けれとも目くらといふにつきてあらしはなくらななりといひ 
 +  たるか鼻くらにいひあはせたるかおかしき事の一なりとか/下43オy339
  
-この恵印を「はなくら」と云共しらざりけれども、目くらといふにつきて、「あらじ、はなくらななり」といひたるが、「鼻くら」にいひあはせたるが、おかしき事の一なりとか。 


text/yomeiuji/uji130.txt · 最終更新: 2019/06/02 18:11 by Satoshi Nakagawa