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text:yomeiuji:uji124

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text:yomeiuji:uji124 [2014/10/11 01:41]
Satoshi Nakagawa
text:yomeiuji:uji124 [2019/04/29 15:06] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **青常の事** **青常の事**
  
-今は昔、村上の御時、ふるき宮の御子にて、左京大夫なる人おはしけり。+===== 校訂本文 =====
  
-すこしほそかにて、いみじうあてやかなる姿はしたれども、やうだいなどもこなりけり。かたくなはしきさまぞしたりける。頭の、あぶみがしらなりければ、ゑいはせなかにもかず、はなれてぞられける。色は花をりたるやうに青しろにて、まかぶらくぼく、鼻あざやかにたかく赤し。くちびるうすくて色もなく、めば歯がちなるの、歯肉あかくて、ひげあかくて長かりけり。こゑはな声にてたかくて、物いへばうちひびきてぞこえける。あゆめば身をり、尻をりてぞありきける。色のせめて青かりければ、「あをつねの君」とぞ、殿上の公達はけてわらひける。+今は昔、村上((村上天皇))の御時、古き宮の御子((重明親王))にて、左京大夫なる人((源邦正))おはしけり。細高(ほそ)にて、いみじうあてやかなる姿はしたれども、様体(やうだい)などもこなりけり。かたくなはしきさまぞしたりける。頭の、鐙頭(あぶみがしら)なりければ、纓(ゑい)背中にもかず、れてぞられける。色は花をりたるやうに青にて、まかぶらくぼく、鼻かにく赤し。唇薄くて色もなく、めば歯がちなるものの、歯肉(はじし)赤くて、くて長かりけり。声にてくて、もの言へばひとうちきてぞこえける。めば身をり、尻をりてぞ歩(あり)きける。色のせめて青かりければ、「青常(あをつね)の君(([[:​text:​k_konjaku:​k_konjaku28-21|『今昔物語集』28-21]]では「青経」))」とぞ、殿上の公達はけてひける。
  
-若き人たちの立につけて、やすからずわらひののしりければ、御門こししあまりて、「此おのこどもの、これをかくわらふ、びんなき事也。父の御子、きて制せずとて、を恨ざらんや」など仰られて、まめやかにさいなみ給へば、殿上の人々、したなきをして、みなわらふまじきよしへりけり。+若き人ち居につけて、やすからずひののしりければ、御門、聞こししあまりて、「この男(をのこ)どもの、これをふ、便(びん)なきことなり。父の御子、『聞きて制せずとて、われを恨ざらんや」など仰られて、まめやかにさいなみ給へば、殿上の人々、舌鳴きをして、みなふまじきよしへりけり。
  
-さて、へるやう、「かくさいなめば、いまよりながく起請す。もし、かく起請してのちあをつねの君』とびたらんものをば、酒、くだ物などださせてあかひせん」とひかためて、起請して後、いくばくもなくて、堀川殿の殿上人にておはしけるが、あぶなくちて行うして忘て、「あの青つね丸はいづ行ぞ」とのてけり。殿上人ども、「かく起請をやぶりつるは、いとびんなき事也」とて、さだめたるやうに、すみやかに酒、くだりにやりて、この事あかへ」とあつまりて、めののしければ、あらがひて「せじ」とすまひ給けれども、まめやかにまめやかにめければ、「さらば、あさてばかり、あをつねの君のあらがひせん。殿上人蔵人、その日あつまり給へ」とひて、出たまひぬ。+さて、へるやう、「かくさいなめば、よりく起請(きしやう)す。もし、かく起請して後、青常の君』とびたらんをば、酒、物などださせて、贖(あか)ひせん」とひかためて、起請して後、いくばくもなくて、堀川殿((藤原兼通))の殿上人にておはしけるが、あぶなくちて行く後て、「あの青丸はいづぞ」とのたまひてけり。殿上人ども、「かく起請をりつるは、いと便なきことなり」とて、「言めたるやうに、すみやかに酒・果りにやりて、このこと贖へ」とまりて、めののしければ、あらがひて「せじ」とすまひ給けれども、まめやかにまめやかにめければ、「さらば、明後日(あさて)ばかり、青常の君のひせん。殿上人蔵人、その日り給へ」とひて、出で給ひぬ。
  
-その日になりて、「堀川中将の青つねの君のあかひをすべし」とて、まいらぬ人なし。殿上人ゐならびて待ほどに、堀川中将、直衣すがたにて、かたちは光やうなる人の、香はえもいはずかうばしくて、あいぎこぼれにこぼれて参り給へり。直衣のながやかにめでたきすそより、青き打たるいだしして、指貫も青色のさしぬきたり。随身三人に、青き狩衣、はかまきせて、ひとりには、あをく色りたるおしきに、あをじのさらこくわをりてささげたり。今一人は、竹の枝に山鳩を四五斗つけてたせたり。またひとりには、あをじのかめに酒を入て、青きうすやうにて口をつつみたり。殿上人の前に持つづ、きて出たれば、殿上人どもて、もろごゑわらひとよむびただし。+その日になりて、「堀川中将の青の君のひをすべし」とて、らぬ人なし。殿上人、居並びて待ほどに、堀川中将、直衣姿にて、は光やうなる人の、香はえもいはずばしくて、愛敬(あいぎ)こぼれにこぼれて参り給へり。直衣のやかにめでたき裾(すそ)より、青き打たる出衵(いだしあこめ)して、指貫も青色の指貫たり。随身三人に、青き狩衣・袴着せて、一人にはく色りたる折敷(おしき)に、青磁(あをじ)小桑(こくわ)りてささげたり。今一人は、竹の枝に山鳩を四五ばかり付けてたせたり。また一人には、青磁瓶(かめ)に酒を入て、青き薄様にて口をみたり。殿上人の前に持ち続きて出たれば、殿上人どもて、もろひとよむことびただし。
  
-御門、かせ給て「何事ぞ。殿上におびただしくこゆるは」とはせ給へば、女房、「兼通が青つねよびてさぶらへば、そのによりてをのこどもにめられて、その罪あかひ候を、笑候なり」と申ければ、「いかやうにあかふぞ」とて、ひのおましに出させ給て、こじとみよりのぞかせ給ければ、よりはじめて、ひたあをなる装束にて、あをひ物どもをたせてあかひければ、「これをわらふなり」と御覧じて、え腹たせ給はで、いみじうわらはせけり+御門、かせ給て「何事ぞ。殿上におびただしくこゆるは」とはせ給へば、女房、「兼通が青常呼びてさぶらへば、そのことによりて、男(をのこ)どもにめられて、その罪ひ候を、笑なり」と申ければ、「いかやうにふぞ」とて、昼()のおましに出させ給て、小蔀(こじとみ)よりのぞかせ給ければ、われよりはじめて、ひたなる装束にて、ひ物どもをたせてひければ、「これをふなり」と御覧じて、え腹たせ給はで、いみじう笑はせけり。 
 + 
 +その後は、まめやかにさいなむ人もなかりければ、いよいよなん笑ひ嘲(あざけ)りける。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔村上の御時ふるき宮の御子にて左京大夫なる人おはし/下35ウy324 
 + 
 +  けり長すこしほそたかにていみしうあてやかなる姿はし 
 +  たれともやうたいなともおこなりけりかたくなはしきさまそしたり 
 +  ける頭のあふみかしらなりけれはゑいはせなかにもつかすはなれてそ 
 +  ふられける色は花をぬりたるやうに青しろにてまかふらくほく鼻 
 +  あさやかにたかく赤しくちひるうすくて色もなくえめは歯かち 
 +  なる物の歯肉あかくてひけもあかくて長かりけりこゑははな 
 +  声にてたかくて物いへは一うちひひきてそきこえけるあゆめは身 
 +  をふり尻をふりてそありきける色のせめて青かりけれはあを 
 +  つねの君とそ殿上の公達はつけてわらひける若き人たちの立ゐに 
 +  つけてやすからすわらひののしりけれ御門きこしめしあまりて 
 +  此おのことものこれをかくわらふひんなき事也父の御子ききて 
 +  制すとて我を恨さらんやなと仰られてまめやかにさいなみ 
 +  給へは殿上の人々したなきをしてみなわらふましきよし/下36オy325 
 + 
 +  いひあへりけりさていひあへるやうかくさいなめはいまよりなかく 
 +  起請すもしかく起請してのちあをつねの君とよひたらん 
 +  ものをは酒くた物なととりいたさせてあかひせんといひかためて 
 +  起請して後いくはくもなくて堀川殿の殿上人にておはしける 
 +  かあふなくたちて行うしろてをみて忘てあの青つね丸はいつち 
 +  行そとの給てけり殿上人ともかく起請をやふりつるはいと 
 +  ひんなき事也とていひさためたるやうにすみやかに酒くた物 
 +  とりにやりてこの事あかへとあつまりてせめののしりけれはあらかひ 
 +  てせしとすまひ給けれともまめやかにまめやかにせめけれはさらはあさ 
 +  てはかりあをつねの君のあかひせん殿上人蔵人その日あつまり 
 +  給へといひて出たまひぬその日になりて堀川中将の青つね 
 +  の君のあかひをすへしとてまいらぬ人なし殿上人ゐならひて待 
 +  ほとに堀川中将直衣すかたにてかたちは光やうなる人の香は/下36ウy326 
 + 
 +  えもいはすかうはしくてあいきやうこほれにこほれて参り 
 +  給へり直衣のなかやかにめてたきすそより青き打たるいたし 
 +  衵して指貫も青色のさしぬきをきたり随身三人に青き 
 +  狩衣はかまきせてひとりにはあをく色とりたるおしきにあを 
 +  しのさらにこくわをもりてささけたり今一人は竹の枝に山鳩を 
 +  四五斗つけてもたせたりまたひとりにはあをしのかめに酒を 
 +  入て青きうすやうにて口をつつみたり殿上人の前に持つつ 
 +  きて出たれは殿上人ともみてもろこゑにわらひとよむ事をひ 
 +  たたし御門きかせ給て何事そ殿上におひたたしくきこゆるはと 
 +  とはせ給へは女房兼通か青つねよひてさふらへはその事によりて 
 +  をのこともにせめられてその罪あかひ候を笑候なりと申 
 +  けれはいかやうにあかふそとてひのおましに出させ給てこし 
 +  とみよりのそかせ給けれは我よりはしめてひたあをなる/下37オy327 
 + 
 +  装束にてあをきくひ物ともをもたせてあかひけれは 
 +  これをわらふなりと御覧してえ腹たたせ給はていみしうわら 
 +  はせけりそののちはまめやかにさいなむ人もなかりけれはいよ 
 +  いよなん笑あさけりける/下37ウy328
  
-そののちは、まめやかにさいなむ人もなかりければ、いよいよなん笑あざけりける。 


text/yomeiuji/uji124.txt · 最終更新: 2019/04/29 15:06 by Satoshi Nakagawa