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text:yomeiuji:uji120 [2014/04/15 03:30] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji120 [2019/03/21 19:00] (現在) Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第120話(巻10・第7話)豊前王の事 ====== ====== 第120話(巻10・第7話)豊前王の事 ======
  
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 **豊前王の事** **豊前王の事**
  
-今はむかし、柏原の御門の御子の五の御子にて、とよさきの大きみといふ人ありけり。四位にて、司は刑部卿、大和守にてなん有ける。+===== 校訂本文 =====
  
-世の事をよくしり心ばえすなをにて、大やけの御政をもよきあしきよくしりて、除目あらんとても、先、国あまたあきたる、ぞむ人あるをも、国のほどつつ「その人はその国の守にぞなならむ」、「その人は道理たてて望とも、えならじ」など、国毎にいひゐたりける事を人きて、除目の朝に、この大君のをしはかり事にいふ事は露たがはねば、「この大君のをしはかり除目、かしこし」といひて、ぢもくのさきには、此おほきみの家にいきつどひてなん「なりぬべし」といふ人は、手をすりてよろこび「えならじ」といふ云をききつる人々は、「なに事いひたるふる君ぞ。さえの神まつりてくるふこそあめれ」など、つぶやきてなんける。+今は昔柏原の御門((桓武天皇))御子御子にて、豊前(とよさき)の大君といふ人けり。四位にて、刑部卿、大和守にてなんありける。
  
-「かくなるべし」といふ人のならで、不慮にことなりたるをば、しくなされたりとなん、世にはそしりける。されば、大やけも「とよさきの大君は、いかが除目をばひける」となん、したしく候人は「行てへ」となん仰られける。+世のことをよく知り、心ばえ素直にて、大やけの御政(まつりごと)をも、良き悪しき、よく知りて、除目(ぢもく)のあらんとても、まづ、国のあまた空きたる、望む人あるをも、国のほどに当てつつ、「その人は、その国の守にぞなさならむ」、「その人は道理立てて望むとも、えならじ」など、国ごとに言ひゐたりけることを、人聞きて、除目の朝(あした)に、この大君の推し量りごとに言ふことは、つゆ違(たが)はねば、「この大君の推し量り除目、かしこし」と言ひて、除目の前(さき)には、この大君の家に行き集ひてなん、「なりぬべし」と言ふ人は、手をすりて喜び、「えならじ」と言ふを聞きつる人々は、「何事言ひたる古(ふる)大君ぞ。斎(さへ)の神祭りて狂ふにこそあめれ」など、つぶやきてなん帰りける。 
 + 
 +「かくなるべし」といふ人のならで、不慮に異人(ことびと)なりたるをば、「悪しくなされたりとなん、世にはそしりける。されば、大やけも「豊前の大君は、いかが除目をばひける」となん、しく候「行へ」となん仰られける。 
 + 
 +これは、田村((文徳天皇))、水の尾((清和天皇))などの御時になんありけるにや。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし柏原の御門の御子の五の御子にてとよさきの大 
 +  きみといふ人ありけり四位にて司は刑部卿大和守にてなん有 
 +  ける世の事をよくしり心はえすなをにて大やけの御政をもよき 
 +  あしきよくしりて除目のあらんとても先国のあまたあきたるの 
 +  そむ人あるをも国のほとにあてつつその人はその国の守にそなさ 
 +  ならむその人は道理たてて望ともえならしなと国毎にいひ 
 +  ゐたりける事を人ききて除目の朝にこの大君のをしはかり 
 +  事にいふ事は露たかはねはこの大君のをしはかり除目かし 
 +  こしといひてちもくのさきには此おほきみの家にいきつとひて 
 +  なんなりぬへしといふ人は手をすりてよろこひえならしと云を 
 +  ききつる人々はなに事いひたるふる大君そさえの神まつりてくるふ 
 +  にこそあめれなとつふやきてなん帰けるかくなるへしといふ人/下30オy313 
 + 
 +  のならて不慮にこと人なりたるをはあしくなされたりとなん 
 +  世にはそしりけるされは大やけもとよさきの大君はいかか除目 
 +  をはいひけるとなんしたしく候人には行てとへとなん仰られ 
 +  けるこれは田村水のおなとの御時になんありけるにや/下30ウy314
  
-これは、田村、水のおなどの御時になんありけるにや。 
text/yomeiuji/uji120.txt · 最終更新: 2019/03/21 19:00 by Satoshi Nakagawa