text:yomeiuji:uji111
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text:yomeiuji:uji111 [2015/05/24 17:44] – [第111話(巻9・第6話)哥読て罪を免さるる事] Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji111 [2019/01/17 22:27] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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宇治拾遺物語 | 宇治拾遺物語 | ||
- | ====== 第111話(巻9・第6話)哥読て罪を免さるる事 ====== | + | ====== 第111話(巻9・第6話)歌読みて罪を免さるる事 ====== |
**哥読テ被免罪事** | **哥読テ被免罪事** | ||
- | **哥読て罪を免さるる事** | + | **歌読みて罪を免さるる事** |
- | いまは昔、大隅守なる人、国の政をしたためおこなひ給あいだ、郡司のしどけなかりければ、「召にやりていましめん」といひて、先々の様にしどけなき事ありけるには、罪にまかせて、重く軽くいましむる事ありければ、一度にあらず、たびたびしどけなき事あれば、「をもくいましめん」とて、めすなりけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | 「ここにめしていて参たり」と人の申しければ、さきざきするやうにしふせて、しりかしらにのぼりゐたる人、しもとをまうけて、打べきひとまうけて、さきに人ふたりひきはりて出きたるをみれば、頭は黒髪もまじらず、いと白くとし老たり。 | + | 今は昔、大隅守なる人、国の政(まつりごと)をしたため行ひ給ふ間、郡司のしどけなかりければ、「召しにやりていましめん」と言ひて、先々の様に、しどけなきことありけるには、罪にまかせて、重く軽くいましむることありければ、一度にあらず、たびたびしどけなきことあれば、「重くいましめん」とて、召すなりけり。 |
- | みるに打せん事いとおしくおぼえければ、「何事につけてかこれをゆるさん」と思ふに、事つくべき事なし。あやまちどもをかたはしよりとふに、ただ老をかうけにていらへおる。「いかにしてこれをゆるさん」と思て、「をのれはいみじき盗人かな。哥はよみてんや」といへば、「はかばかしからず候ども、よみ候なん」と申ければ、「さらば、つかまつれ」といはれて、程もなくわななきこゑにてうちいだす。 | + | 「ここに召して率て参りたり」と人の申しければ、先々するやうにし伏せて、尻頭(しりかしら)に上り居たる人、笞(しもと)をまうけて、打つべき人まうけて、先に人二人引き張りて出で来たるを見れば、頭は黒髪もまじらず、いと白く、年老いたり。 |
- | としをへてかしらの雪はつもれどもしもとみるにぞ身はひえにけり | + | 見るに、打せんこといとほしく思えければ、「何ごとにつけてか、これを許さん」と思ふに、ことつくべきことなし。過(あやま)ちどもを片端より問ふに、ただ、老をかうけにていらへをる。 |
- | と、いひければ、いみじうあはれがりて、感じてゆるしけり。 | + | 「いかにして、これを許さん」と思ひて、「おのれはいみじき盗人かな。歌は詠みてんや」と言へば、「はかばかしからず候へども、詠み候ひなん」と申しければ、「さらば、つかまつれ」と言はれて、ほどもなく、わななき声にてうち出だす。 |
+ | |||
+ | 年を経て頭(かしら)の雪は積もれどもしもと見るにぞ身は冷えにけり | ||
+ | |||
+ | と言ひければ、いみじうあはれがりて、感じて許しけり。 | ||
+ | |||
+ | 人は、いかにも情けはあるべし。 | ||
+ | |||
+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | いまは昔大隅守なる人国の政をしたためおこなひ給あいた郡 | ||
+ | 司のしとけなかりけれは召にやりていましめんといひて先々の/下18オy289 | ||
+ | |||
+ | 様にしとけなき事ありけるには罪にまかせて重く軽くいま | ||
+ | しむる事ありけれは一度にあらす度々しとけなき事あれ | ||
+ | はをもくいましめんとてめすなりけりここにめしていて参たり | ||
+ | と人の申しけれはさきさきするやうにしふせてしりかしらにのほり | ||
+ | ゐたる人しもとをまうけて打へきひとまうけてさきに人ふたり | ||
+ | ひきはりて出きたるをみれは頭は黒髪もましらすいと白くとし | ||
+ | 老たりみるに打せん事いとおしくおほえけれは何事につけ | ||
+ | てかこれをゆるさんと思ふに事つくへき事なしあやまちとも | ||
+ | をかたはしよりとふにたた老をかうけにていらへおるいかにしてこれ | ||
+ | をゆるさんと思てをのれはいみしき盗人かな哥はよみてんやと | ||
+ | いへははかはかしからす候ともよみ候なんと申けれはさらはつかま | ||
+ | つれといはれて程もなくわななきこゑにてうちいたす | ||
+ | としをへてかしらの雪はつもれともしもとみるにそ身はひえにけり/下18ウy290 | ||
+ | |||
+ | といひけれはいみしうあはれかりて感してゆるしけり人は | ||
+ | いかにもなさけはあるへし/下19オy291 | ||
- | 人はいかにもなさけはあるべし。 |
text/yomeiuji/uji111.txt · 最終更新: 2019/01/17 22:27 by Satoshi Nakagawa