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text:yomeiuji:uji110 [2015/05/24 17:39] – [第110話(巻9・第5話)つねまさが郎等、仏供養の事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji110 [2019/01/17 22:08] (現在) Satoshi Nakagawa
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 **つねまさが郎等、仏供養の事** **つねまさが郎等、仏供養の事**
  
-昔、ひゃうどうだいぶつねまさといふ物ありき。それは、筑前国、やまがの庄よいひし所にすみし。又、そこにあからさまにゐたる人ありけり。+===== 校訂本文 =====
  
-つねまさが郎等に、まさゆきありしをのこの、「仏つくりたてまつりて供養し奉んとす」ときわたりてつねゐたるかたに、物くひ、さけみ、ののしるを、「こは、なに事するぞ」といはすれば、「まさゆきといふものの『仏供養たてまつらん』とて、しうのもとかうつかまつりたるを、かたへの郎等どものたべののる也けふ、饗百膳斗ぞつかつる。あす、そこの御まへの御れうつねまやがてぐしているべくさぶらふなる」といへば、仏供養してまつる人は、かならずかくやはする。「ゐ中のものは、『仏くやうしたてまつらん』とて、かねて四五日よりかかる事どもをしたてまつる也。昨日、一昨日はおのがわたくしに、里隣の私のものどもよびつめてさぶらひつる」といへば、「おかしかりけることかな」といひて、「あすを待べきなめ」といひてやみぬ+昔、ひゃうどうだいぶつねまさといふ者ありき。それは筑前国山鹿(やまが)とい住みし。ま、そこに、あからさまに居たる人ありけり。
  
-けぬれば、「いつ」と待ゐるほどに、つねまさいできにり。「さなめり」と思ふほどに、「いづら、れにまいらせよ」といふ。「さればよ」させるこはなけれどく大きにもりたるどももてきつつ、すゆめり。「さぶらひのれう」とてあしくもあらぬ一二ぜんばかりすへつ。雑色女どものれうにいたる、かずおほもてきたり。「講師御試」とて、こだいな物すへたり。講師にはのたび人のぐしたる僧をせんとしける也けり。+つねまさが郎等に、まさゆきとてりし男(をのこ)の、「仏作り奉りて、供養奉らんとす」と聞きわりて、つねまさが居る方(かた)、物食ひ、酒飲み、ののしるを、「こは、何ごとするぞ」と言はすれば、「まさゆき者の『仏供養し奉らん』とて主(しう)のも、かうつかまつりたるを、かたへの郎等どもの食べののしるなり。今日、饗百膳ばかりかまつる明日そこ御前の御料(れう)は、つねさやがて具して参るべくさぶらふなる」と言へば、「仏、供養し奉る人は、かならやはする」。「田舎者は、『仏、供養し奉らん』とて、かねて四・五日より、かかるとどもをし奉り。昨日一昨日(をととひ)はおが私(わくし)に、里隣の私の者ども呼集めてさぶらひつ言へば、「をかかりけることかな」と言ひて、「明日を待つべきなめ」と言ひてやみぬ
  
-くて物くひ酒のみどするほどに、この講師請ぜられんずる僧のいやうは「あすの講師とはれど仏を供養せんずるぞこそえうけたまは仏をくやうしてまつにかあらん。仏はあまたおはします也。うけ給て読経をもせばや」といへば、つねまさききて、「さ事な」とて「まさゆきや候」といへば、此仏供養したてまつらんとするおなるけたかく、をせくみたるもの、あかひげにて、とし五十ばかなる、太刀はき、ももぬきはきていできたり。+明けぬれば、「いつし」と待ち居たるほどにつねまさ出で来にたり。「さめり」と思ふほどに、「いづら、こせよ」と言ふ。「さばよ」と思させることはけれど、高く大きに盛りたるもども持て来つつ据ゆめり。「侍(さぶらひ)の料」悪しくもあぬ饗、一・二膳ばかり据ゑつ雑色・女どもの料たるまで、数多く持て来り。「講師の御試(んこころみ)」とて、こだいな物据ゑた。講師にはなる人の具したる僧をせとしけるなり。
  
-「こたへまいれ」といへば庭中まいりてゐたに、つねまさ、「まうとは、なに仏を供養したてまつらんずるぞいへば「いでかしりたてまつらんずる」といふ「と、いかに。るべきぞ。もしこと人のくうしたてまつるを、ただ供養の事のかぎりをするか」とへば、「さも候はず。まさまろがくやうし奉るなり」といふ。「さいかでかなに仏とはしりたてつらぬぞ」とへば師こそは、りて候め」いふ。あやしけれど「げにさもあるらん。此男仏の御名わすれたるならん」とおもひて、「その仏師はいづくに」ととへば「ゑいめいぢにさぶらふ」といへば「さて近かんなり。よべ」といへばこの男、帰いりよびてきたり。+かくて物食ひ、酒飲みどするほどにこの講師請ぜられんず僧の言ふやうは、「明日講師とは承はれども『その仏を供養んずるぞこそえ承はらね。何仏(なにぼとけ)を供養し奉るにらん。あまおはますなり承はりて読経をせばや」とへば、つねまさて、「さことなり」とて、さゆきや候ふ」とへば、この供養する男なるべ、た高く、をせぐみたる者、赤髭にて、年五十ばりなる、太刀股貫(ももぬき)はき出で来たり。
  
-ひらづらる法師のふとりるが、六十ばかりなるにてあり。「物に心えたる覧かし」とみえず。いできてまさゆきならびたるに、「此僧は仏師とへば「さに候」と云。「まさゆきがや作たる」とへば、「作りたてまつりたり」とふ。「いかしら造てまつ」とへば、「五頭作たてり」とふ。「さて、それなにを作奉たるぞ」とへば、「えしり候はず」とこたふ。「とはいか。まゆきしずと云。仏師しらずば、がしらん」といへば、仏師は、「いかでかしり候はん。仏師のしやうは候はず」といへば、「さは、たがしるきぞ」とへば、「講師御房こそしらせ給はめ」といふ+「こなたへ参れ」と言へば庭中参りたるに、つねまさ、「かのまうを供養し奉らんず」とへば、「いかでか知奉らんずる」とふ。「とはいかに。誰(た)が知るべきぞ。も異人(ことびと)の供養し奉るを、だ供養のことのかぎをす」とへば、「さも候はず。さゆきまろが供養し奉り」とふ。「さては、いかでか何とは知奉らぬぞ」とへば、「仏師こそは、知ふらめ」とふ。あやしけれど、にさもあるこの男、の御名を忘れるならん」と思ひて「その仏師はいづくにる」と問へば「ゑめいぢにさぶらふ」と言へば、「さ近かんなり。呼べ」とへば、男、帰り入りて呼びて来たり
  
-「こはいかに」とつまてわらひのしれば、仏師はは立て、「物のやうだいもらせ給はざりけり」とてたちぬ。「こはなる事ぞ」とてたづぬれ、はやう、「ただ、、つくてまつれ」とへば、ただ、まろがしらにて、斎の神の冠もなきやうな物を、五かしらきざみたてて、供養したてまつらん講師して、そ、かの仏と、名てまつ也けり。それをひききておかしかし中にも、おなじ功徳にもなればききし+平面(ひらづら)なる法師の太りたるが、六十ばりなるにてあり。「もに心得たるんかし」と見えず。出で来、まさゆきに並びて居るに、「この僧仏師か」と問へば、「さに候ふ」と言ふ。「まさゆきがや作りた」とへば、「作り奉りり」と言ふ。「いく頭(かしら)造り奉りたぞ」と問へば頭(いつかしら)作りたてまつれり」と言ふ「さて、それは何仏を作り奉りたるぞ」問へば「え知候はず」答ふ
  
-やしのものどもは、かく希有のどもをし侍りけるなり。+「とはいかに。まさゆき、知らずと言ふ。仏師知らずは、誰が知らんぞ」と言へば、仏師は、「いかでか知り候はん。仏師の知るうは候はず」と言へば、「さは、誰が知るべきぞ」と言へば、「講師の御房こそ知らせ給はめ」と言ふ。「こはいかに」とて、集まりて、笑ひののれば、仏師は腹立ちて、「もの様体(やうだい)知らせ給はざりけり」とて立ちぬ。 
 + 
 +「こはいかなることぞ」とて、尋ぬれば、はやう、ただ、「仏、作りて奉れ」と言へば、ただ、円頭(まろがしら)にて、斎(さい)の神の冠もなきやうなる物を、五頭刻み立てて、供養し奉らん講師して、その仏、かの仏と、名を付け奉るなりけり。それを問ひ聞きて、をかしかりし中にも、同じ功徳にもなればと聞きし。あやしどもは、かく希有(けう)ことどもをし侍りけるなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  昔ひゃうとうたいふつねまさといふ物ありきそれは筑前国や 
 +  まかの庄といひし所にすみし又そこにあからさまにゐたる人/下16オy285 
 + 
 +  ありけりつねまさか郎等にまさゆきとてありしをのこの仏 
 +  つくりたてまつりて供養し奉んとすとききわたりてつねまさか 
 +  ゐたるかたに物くひさけのみののしるをこはなに事するそといはす 
 +  れはまさゆきといふものの仏供養したてまつらんとてしうのもと 
 +  にかうつかまつりたるをかたへの郎等とものたへののしる也けふ饗百膳 
 +  斗そつかまつるあすそこの御まへの御れうにはつねまさやかてくして 
 +  まいるへくさふらふなるといへは仏供養したてまつる人はかならす 
 +  かくやはするゐ中のものは仏くやうしたてまつらんとてかねて四 
 +  五日よりかかる事ともをしたてまつる也昨日一昨日はおのかわたくし 
 +  に里隣の私のものともよひあつめてさふらひつるといへはおかしかりける 
 +  ことかなといひてあすを待へきなめりといひてやみぬあけぬれは 
 +  いつしかと待ゐたるほとにつねまさいてきにたりさなめりと思ふ 
 +  ほとにいつらこれにまいらせよといふされはよと思ふにさせる事はなけれと/下16ウy286 
 + 
 +  たかく大きにもりたる物とももてきつつすゆめりさふらひのれう 
 +  とてあしくもあらぬ饗一二せんはかりすへつ雑色女とものれうに 
 +  いたるまてかすおほくもてきたり講師の御試とてこたいなる物 
 +  すへたり講師にはこのたひなる人のくしたる僧をせんとしける也 
 +  けりかくて物くひ酒のみなとするほとにこの講師に請せら 
 +  れんする僧のいふやうはあすの講師とはうけ給れともその仏を 
 +  供養せんするそとこそえうけたまはらねなに仏をくやうし 
 +  たてまつるにかあらん仏はあまたおはします也うけ給て読経をもせ 
 +  はやといへはつねまさききてさる事なりとてまさゆきや候といへは 
 +  此仏供養したてまつらんとするおのこなるへしたけたかくをせくみ 
 +  たるものあかひけにてとし五十はかりなる太刀はきももぬき 
 +  はきていてきたりこなたへまいれといへは庭中にまいりてゐたるに 
 +  つねまさかのまうとはなに仏を供養したてまつらんするそと/下17オy287 
 + 
 +  いへはいかてかしりたてまつらんするといふとはいかにたかしるへきそ 
 +  もしこと人のくやうしたてまつるをたた供養の事のかきりをする 
 +  かととへはさも候はすまさゆきまろかくやうし奉るなりといふさては 
 +  いかてかなに仏とはしりたてまつらぬそといへは仏師こそはしりて候 
 +  らめといふあやしけれとけにさもあるらん此男仏の御名をわす 
 +  れたるならんとおもひてその仏師はいつくにかあるととへはゑいめい 
 +  ちにさふらふといへはさては近かんなりよへといへはこの男帰いりて 
 +  よひてきたりひらつらなる法師のふとりたるか六十はかりなる 
 +  にてあり物に心えたる覧かしとみえすいてきてまさゆきに 
 +  ならひてゐたるに此僧は仏師かととへはさに候と云まさゆきか 
 +  仏や作たるととへは作りたてまつりたりといふいくかしら造たて 
 +  まつりたるそととへは五頭作たてまつれりといふさてそれは 
 +  なに仏を作奉りたるそととへはえしり候はすとこたふとはいかに/下17ウy288 
 + 
 +  まさゆきしらすと云仏師しらすはたかしらんそといへは仏師は 
 +  いかてかしり候はん仏師のしるやうは候はすといへはさはたかしるへき 
 +  そといへは講師の御房こそしらせ給はめといふこはいかにとてあ 
 +  つまりてわらひののしれは仏師ははら立て物のやうたいもしら 
 +  せ給はさりけりとてたちぬこはいかなる事そとてたつぬれはは 
 +  やうたた仏つくりてたてまつれといへはたたまろかしらにて斉の 
 +  神の冠もなきやうなる物を五かしらきさみたてて供養し 
 +  たてまつらん講師してその仏かの仏と名を付たてまつる也 
 +  けりそれをとひききておかしかりし中にもおなし功徳にもなれ 
 +  はとききしあやしのものともはかく希有の事ともを 
 +  し侍りけるなり/下18オy289
  
text/yomeiuji/uji110.txt · 最終更新: 2019/01/17 22:08 by Satoshi Nakagawa