ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:yomeiuji:uji106

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
次のリビジョン
前のリビジョン
text:yomeiuji:uji106 [2014/10/07 19:12] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji106 [2018/12/10 21:37] (現在) Satoshi Nakagawa
行 6: 行 6:
 **滝口道則、術を習ふ事** **滝口道則、術を習ふ事**
  
-むかし、陽成院位にておはしましける時、滝口道則、宣旨を承て陸奥へくだるあひだ、信濃国ヒクニといふ所にやどりぬ。郡の司にやどをとれり。まうけして、もてなして後、あるじの郡司は郎等引ぐして出ぬ。+===== 校訂本文 =====
  
-いもねられざりればらおきただすずみあり、みば、屏風をたてして、畳どきよげに火ともしてよろづめやすきやうにしつらひたり。「そらだき物すやらん」とかうばしけり+昔、陽成院((陽成天皇))、位にておはしましる時滝口道則(([[text:k_konjaku:k_konjaku20-10|『今昔物語集』20ー10]]で「道範」))、宣旨を承り、陸奥(ちのく)へ下るひだ、信濃国ヒクニといふ所に宿ぬ。郡の司宿をとり。うけしてもてなして後主(あじ)の郡司は郎等引て出でぬ
  
-よいよ心にくくおぼえてよくのぞきてみれば、年廿ばかりる女一人ありけり。みめことがらすがた有さまこといみじかりけるが、ただとりふしたり。みるままに、たあるべ心ちせず。あたりに人なし。火は几帳外にてあれば、あかくあり。+も寝られざりければやはら起きて、たすず歩(あり)くに、見れば、屏風を立て回して、畳ど清げに敷き火灯して、よろづ目安きやうしつらひたり。「そらだきものするやらん」香ばき香しけり。
  
-さて、この道則とふやう、「よにねんごろにもなして心ざし有つる郡司妻を、うしろめたな心つかはん事いとをしけこのありさまをみるにただあらむことかなはじ」と思ひてよりてかはらにす。女、けにくくもおどろかず、口おほひをしてわらひふしたり。いはんかなくうれしく覚ければ、長月十日比なれば、衣もまたきず、一かさねばか女もきたりかうばき事なし+くく思え、よくて見年二十七・八ばかりなる女一ありけり。見目・ことがら・姿・ありさま、ことにいみじりけるが、ただ一人臥したり。見るままに、るべ心地せ。あたに人なし火は几帳の外に灯てあれば、明くあり。
  
-我きぬをばぬぎて、のふとこへ入にしかば引ふたぐやしけれど、あながちにけにくかず。ふとこに入+て、道則思やう、「よによに、ねんごろにもてなて、心ざしありつる郡司の妻を、うしろめたなき心つかはんこと、いとほしけれど、この人の有様を見るに、ただらむことかはじ」と思ひて、寄りて傍ら臥す。女、けにくくも驚かず、口おほひをして、笑ひ臥したりいはんかたなく嬉しく思えければ、長月十日ごなれば、衣もあまた着ず、一襲(かさね)ばか、男も女も着たり。香ばしきことかぎりなし
  
-男のまへの、かゆやうなりけれ、さぐりてみるに物なし。おどろきあやしみて、よくよくさぐれども、おがひひげをさぐるやうにてすべてあとかたな。大におどろきて、此女のめでげなるもわすられぬ。この男のさりてあしみくるめく、女すこほえみて有けれいよいよ心えずおぼえて、やはらおきてわね所へ帰てさぐるらになし+わが衣(ぬ)を脱ぎて、女の懐(ふころ)へ入に、しばしは引塞(ふ)ぐやにしけれどもあなけにくかず、懐入りぬ
  
-あさましく成てくつかふ郎等をよびて、かかるとはいはで、「ここにめでた女あ。我も行たりつる也」といへば、、此男いぬれば、ありて、よよにあさまにて、此男いたれば、「是もさり」と思てこと男をすすめつ。是も又、ししありて出きぬ。空をあふぎて、よ心えぬけして、帰てけり。かくのごとく、七八人まで郎等をやるに、じ気色にみゆ+男の前の痒(ゆ)やうなければ、探りみるに物な。驚き怪て、よく探れども、おとがひの髭を探るやうて、すべて跡形な。大き驚きて、この女のめでたげなるも忘らぬ。この男の探りて怪しみくるめくに少しほほ笑みければ、いよいよ心得ず思て、やはら起きて、わが寝所(ねどころ)へるに、さらに
  
-するほどに夜も明ぬれば、道則思やう、「よひにあるじのいみじうてなしつるをうれし思つれどもかく心えず浅ましき事ればとくいでん」と思て、だ明はてざるて出れば、七八町行程に、うしろよよばひて馬馳くる物あり。しりつきて、しつつみたる物をさしあげてく。+あさましなりて近く使郎等を呼びて、かかるとは言はで、「ここめでたき女り。われ行きたりつるなり」言へば悦びて、こ男往ぬれば、しばしありて、よによにあさしげにて、この男で来たれば、「これもさるなめ」と思ひて、また、異男(ことおとこ)を勧めこれもまた、ばしあて出で来ぬ。空をあふぎて、よに心得ぬ気色(けしき)にて帰りけり。かのごとく、七・八人まで郎等をやるに、同じ気色に見ゆ
  
-馬を引へてまてば、ありつどにかよひしつる郎等也。「こは何ぞ」ととへば、「此郡司『まらせよ』と候のに候。かかいかですててはおは候ぞ。たのごとうけて候へども、御いそぎにれをさへおさせ給てけり。されば、ひろいあつめまいらせ候」といへばなにぞ」と取てみれば、松茸をつつみあつめたるやうにてある物あり。あさましくおぼえて、八人の郎等共もあやしみをしてみるに、まことの九の物あり+かくすどに、夜も明けぬれば、道則思ふやう、「宵(よひ)に主(あるじ)のいみじうもてなしつるを、『嬉』と思ひつれども、かく心得ずあさましことのあれば、とく出でん」と思ひて、いまだ明け果てざるに急ぎ出づれば、七・八町行くほど、後ろより呼ばひて、馬を馳せて来る者あり。走りつきて、白き紙に包たる物上げ持(も)て来(く)
  
-一度にさつとせぬ。さて、使はやがて馬を馳て帰りぬ。そのおり身よりはじめて郎等り」とひけり。+馬を引かへて待てば、ありつる宿に通ひしつる郎等なり。「これは何ぞ」と問へば、「この郡司の『参らせよ』と候ふ物にて候ふ。かかる物をば、いかで捨ててはおはし候ふぞ。形(かた)のごとく御まうけして候へども、御急ぎに、これをさへ落させ給ひてけり。されば、拾ひ集めて参らせ候ふ」と言へば、「いで、何ぞ」とて、取りて見れば、松茸を包み集めたるやうにてある物、九つあり。あさましく思えて、八人の郎等どもも怪しみをなして見るに、まことに九つの物あり。一度にさつとせぬ。さて、使(つかひ)はやがて馬を馳て帰りぬ。そのわが身よりめて郎等ども、みな、「り」とひけり。
  
-さて、奥州にて金け取て帰時、信濃のし郡司のもとへきてやどりぬ。さて、郡司に、金鷲羽などおほらす。郡司、に悦て、「これはいかにおぼして、かくはし給ぞ」とひければ、ちかりて、「かたはらいたき申なれはじめこれにまいりて候し時、あやしきの候しかば、いかなることにか」とふに、郡司、物をおほてありければ、さりがたく思てありのままにふ。+さて、奥州にてけ取て帰時、また、信濃のありし郡司のもとへきて宿りぬ。さて、郡司に、金鷲羽(わしのは)などらす。郡司、に悦て、「これはいかにして、かくはし給ぞ」とひければ、りてやう、「かたはらいたき申しごとなれどもめこれにりて候し時、あやしきことの候しかば、いかなることにか」とふに、郡司、物をてありければ、さりがたく思ありのままにふ。
  
-「それは、わかく候し時、この国のおくの郡に候し郡司の年りて候しが、妻のわかく候しに、しのびて罷よりて候しかば、かくのごとく失てありしに、あやしく思て、その郡司にねんに心ざしをつくして習て候。もし、ならはんとおぼさば、たびはやけの御使なり、のぼり給て、わざと下給てならひ給へ」とひければ、その契をなして、のぼりて金などまいらせて、暇を申てくだりぬ。+「それは、く候し時、この国のの郡に候し郡司のりて候しが、妻のく候しに、びてまかり寄りて候しかば、かくのごとく失てありしに、しく思て、その郡司にねんごろに心ざしをして習て候ふなり。もし、はんとさば、このたびはおほやけの御使なり、すみやかり給、また、わざと下、習ひ給へ」とひければ、その契をなして、りて金などらせて、また、(いとま)を申りぬ。
  
-郡司にさるべき物などちて下りてらすれば、郡司大に悦びて、「心の及ばんかぎりはをしへん」と思て、「これは、おぼろげの心にてならにては候はず。七日、水をみ、精進をして習事也」とふ。そのままに清まはりて、その日になりて、ただふたりつれて、ふかき山に入ぬ。大なる川のながるるほとりに行て、様々事共を、えもいはず罪ふかき誓言ども、たてさせけり。+郡司にさるべき物などちて下りて、取らすれば、郡司に悦びて、「心の及ばんかぎりはへん」と思て、「これは、おぼろげの心にてことにては候はず。七日、水をみ、精進をして習ふことなり」とふ。そのままに清まはりて、その日になりて、ただ二人つれて、き山に入ぬ。大なる川のるるほとりに行て、さまざまことどもを、えもいはず罪き誓言どもてさせけり。
  
-さて、かの郡司は、水上へ入ぬ。「その川上よりながん物を、いかにもいかにも鬼にてもあれ、何にてもあれいだけ」とひて行ぬ。+さて、かの郡司は、水上(みなかみ)へ入ぬ。「その川上よりん物を、いかにもいかにも鬼にてもあれ、何にてもあれ、抱(いだ)け」とひて行ぬ。
  
-しばしばかりて、水上の方より、雨り風吹てくらくなり水さる。しばしありて、川より、かしら一いだきばかりなる大蛇の、目はかなまりを入たるやうにて、せなかは青く紺青をりたるやうに、くびしたは紅のやうにてゆるに、「先こん物をいだけ」とひつれども、せんかたなくおそろしくて、草の中にしぬ。+しばしばかりありて、水上の方より、雨り風吹、暗くなりさる。しばしありて、川より、頭(かしら)抱(いだ)きばかりなる大蛇の、目は鋺(かなまり)を入たるやうにて、背中は青く紺青をりたるやうに、は紅のやうにてゆるに、「まづ来ん物をけ」とひつれども、せんかたなくしくて、草の中にしぬ。
  
-しばして、郡司たりて「いかに取給つや」とひければ、「かうかうおぼえつれば、らぬ」とひければ、「よく口惜事哉。さては、此事はえ習給はじ」とひて、「今一度心みん」とひて、入ぬ。+しばしありて、郡司たりて「いかにつや」とひければ、「かうかうえつれば、らぬなり」とひければ、「よく口惜しきことかな。さては、このことはえ習給はじ」とひて、「今一度心みん」とひて、またぬ。
  
-しばし斗有て、やをばかりなる猪のししのて、石をはらはらとくだけば、火きらきらとづ。毛をいららかして走てかかる。せんかたなくおそろしけれども、「をさへ」と思りて、はしりていだきてれば、朽木の三尺ばかりあるをいだきたり。ねたく、くやしきかぎりなし。「はじめのも、かかる物にてこそありけれ。などかいだかざりけん」とおもに、郡司来りぬ。+しばしばかりありて、やをばかりなる猪のししのて、石をはらはらとけば、火きらきらとづ。毛をいららかして走てかかる。せんかたなくしけれども、「これをさへ」と思ひ切りて、りてきてれば、朽木の三尺ばかりあるをきたり。ねたく、しきことかぎりなし。「めのも、かかる物にてこそありけれ。などかかざりけん」とほどに、郡司来りぬ。
  
-「いかに」とへば、「かうかう」とひければ、「まへの物、うしなひ給はえならひ給はずなりぬ。さてことの、はかなき物をものになすならはれぬめり。されば、それををしへん」とてをしへられて帰のぼりぬ。口惜事限なし。+「いかに」とへば、「かうかう」とひければ、「の物、ひ給ふことはえひ給はずなりぬ。さて異事(ことごと)の、はかなき物をになすことはれぬめり。されば、それをへん」とて、教へられてり上りぬ。口惜しきことかぎりなし。
  
-大内に参りて、滝口どものきたる沓どもを、あらがひをして、犬子になしてはしらせ、古き藁沓どもを、三尺なる鯉になして、台盤のうへにおらする事なをしけり+大内に参りて、滝口どものきたる沓どもを、あらがひをして、みな犬子(ゐのこ)になしてらせ、古き藁沓どもを、三尺ばかりなる鯉になして、台盤の上に踊らすることなどをしけり。 
 + 
 +御門、このよしを聞こし召して、黒戸の方に召して、習はせ給ひけり。御几帳の上より、賀茂祭など渡し給ひけり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  むかし陽成院位にておはしましける時滝口道則宣旨を承て 
 +  陸奥へくたるあひた信濃国ヒクニといふ所にやとりぬ郡の司に 
 +  やとをとれりまけしてもてなして後あるしの郡司は郎等引 
 +  くして出ぬいもねられさりけれはやはらおきてたたすみありくに 
 +  みれは屏風をたてまはして畳なときよけにしき火ともして/下4ウy262 
 + 
 +  よろつめやすきやうにしつらひたりそらたき物するやらんと 
 +  かうはしき香しけりいよいよ心にくくおほえてよくのそきて 
 +  みれは年廿七八はかりなる女一人ありけりみめことからすかた有 
 +  さまことにいみしかりけるかたたひとりふしたりみるままにたたある 
 +  き心ちせすあたり人もなし火は几帳の外にともしてあれは 
 +  あかくありさてこの道則思ふやうよによにねんころにもてなして 
 +  心さし有つる郡司の妻をうしろめたなき心つかはん事いとをし 
 +  けれとこの人のありさまをみるにたたあらむことかなはしと思ひてよ 
 +  りてかたはらに臥す女けにくくもとろかす口おほひをして 
 +  わひふしたりいはんかたなくうれしく覚けれは長月十日比なれは 
 +  衣もあまたき一かさねはかり男も女もきたりかうはしき事 
 +  かきりなし我きぬをはぬきて女のふところへ入にしはしは引 
 +  ふたくやうにしけれともあなかちにけにくからすふところに入りぬ/下5オy263 
 + 
 +  男のまへのかゆきやうなりけれはさくりてみに物なしおとろき 
 +  あやしみてよくよくさくれともおとかひのひけをさくるやうにて 
 +  すへてあとかたなし大きにおとろきて此女のめてたけなるもわす 
 +  られぬこの男のさくりてあやしみくるめくに女すこしほほえみて 
 +  有けれはいよいよ心えすおほえてやはらおきてわかね所へ帰てさくる 
 +  にさらになしあさましく成てちかくつかふ郎等をよひてかかるとは 
 +  いはてここにめてたき女あり我も行たりつる也といへは悦て此男 
 +  いぬれはしはしありてよによにあさましけにて此男いてきたれは是も 
 +  さるなめりと思て又こと男をすすめてやりつ是も又しはしありて 
 +  出きぬ空をあふきてよに心えぬけしきにて帰てけりかくのことく 
 +  七八人まて郎等をやるにおなし気色にみゆかくするほとに 
 +  夜も明ぬれは道則思ふやうよひにあるしのいみしうもてなし 
 +  つるをうれしと思つれともかく心えす浅ましきのあれはとく/下5ウy264 
 + 
 +  いてんと思ていまた明はてさるに急て出れは七八町行 
 +  程にうしろよりよはひて馬を馳てくる物ありはしりつきて 
 +  しろき紙につつみたる物をさしあけてもてく馬を引へて 
 +  まてはありつるやとにかよひしつる郎等也これは何そととへは 
 +  此郡司のまいらせよと候ものにて候かかる物をはいかてすてては 
 +  おはし候そかたのことく御まうけして候へとも御いそきにこれを 
 +  さへおとさせ給てけりされはひろいあつめてまいらせ候といへは 
 +  いてにそとて取てみれは松茸つつみあつめたるやうにて 
 +  ある物九ありあさまくおほえて八人の郎等共もあやしみを 
 +  なしてみるにまことに九の物あり一度にさつとうせぬさて使は 
 +  やかて馬を馳て帰ぬそのおり我身よりはしめて郎等共皆 
 +  ありありといひけりさて奥州にて金うけ取て帰時又信濃の 
 +  有し郡司のもとへゆきてやとりぬさて郡司に金馬鷲羽なと/下6オy265 
 + 
 +  おほくとらす郡司よによに悦てこれはいかにおほしてかくはし 
 +  給そといひけれはちかくよりていふ様かたはらいたき申事なれ共 
 +  はしめこれにまいりて候し時あやしき事の候しかはいかなること 
 +  にかといふに郡司物をおほくえてありけれはさりかたく思て 
 +  ありのままにいふそれはわかく候し時この国のおくの郡に候し郡 
 +  司の年よりて候しか妻のわかく候しにしのひて罷よりて候しかは 
 +  かくのことく失てありしにあやしく思てその郡司にねん比に 
 +  心さしをつくして習て候也もしならはんとおほしめさは此たひは 
 +  大やけの御使なり速にのほり給て又わさと下給てならひ給へと 
 +  いひけれはその契をなしてのほりて金なとまいらせて又暇を 
 +  申てくたりぬ郡司にさるへき物なともちて下りてとらすれは郡司 
 +  大に悦ひて心の及はんかきりはをしへんと思てこれはおほろけの 
 +  心にてならふ事にては候はす七日水をあみ精進をして習事也/下6ウy266 
 + 
 +  といふそのままに清まはりてその日になりてたたふたりつれて 
 +  ふかき山に入ぬ大なる川のなかるるほとりに行て様々の事共を 
 +  えもいはす罪ふかき誓言ともたてさせけりさてかの郡司は水 
 +  上へ入ぬその川上よりなかれこん物をいかにもいかにも鬼にてもあれ何 
 +  にてもあれいたけといひて行ぬしはしはかり有て水上の方より 
 +  雨ふり風吹てくらくなり水まさるしはしありて川よりかしら一 
 +  いたきはかりなる大蛇の目はかなまりを入たるやうにてせなかは青 
 +  く紺青をぬりたるやうにくひのしたは紅のやうにてみゆるに先 
 +  こん物をいたけといひつれともせんかたなくおそろしくて草の中 
 +  にふしぬしはし有て郡司きたりていかに取給つやといひけれは 
 +  かうかうおほえつれはとらぬ也といひけれはよく口惜事哉さては此事は 
 +  え習給はしといひて今一度心みんといひて又入ぬしはし斗有て 
 +  やをはかりなる猪のししのいてきて石をはらはらとくたけは火きらきらと/下7オy267 
 + 
 +  いつ毛をいららかして走てかかるせんかたなくおそろしけれとも是を 
 +  さへと思きりてはしりよりていたきてみれは朽木の三尺はかり 
 +  あるをいたきたりねたくくやしき事かきりなしはしめのもかかる 
 +  物にてこそありけれなとかいたかさりけんとおもふ程に郡司来りぬ 
 +  いかにととへはかうかうといひけれはまへの物うしなひ給事はえならひ 
 +  給はすなりぬさてこと事のはかなき物をものになす事はならは 
 +  れぬめりされはそれををしへんとてをしへられて帰のほりぬ口惜事 
 +  限なし大内に参りて滝口とものはきたる沓ともをあらかひをし 
 +  て皆犬子になしてはしらせ古き藁沓ともを三尺斗なる鯉になして台 
 +  盤のうへにおとらする事なとをしけり御門此由をきこしめして 
 +  黒戸のかたにめしてならはせ給けり御几帳のうへより賀茂祭 
 +  なとわたし給けり/下7ウy268
  
-御門、此由をきこしめして、黒戸のかたにめして、ならはせ給けり。御几帳のうへより、賀茂祭などわたし給けり。 
text/yomeiuji/uji106.txt · 最終更新: 2018/12/10 21:37 by Satoshi Nakagawa