text:yomeiuji:uji105
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text:yomeiuji:uji105 [2014/10/07 19:12] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji105 [2018/12/02 15:43] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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**千手院僧正、仙人に逢ふ事** | **千手院僧正、仙人に逢ふ事** | ||
- | 昔、山の西塔千手院に住給ける、静観僧正と申ける座主、夜更て、尊勝陀羅尼を夜もすがらみてあかして、年比になり給ぬ。きく人もいみじくたうとくみけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | 陽勝仙人と申仙人、空をとびて、この坊のうへを過るが、この陀羅尼のこゑをききておりて、高欄のほこ木の上に居給ぬ。僧正「あやし」とおもひてとひたまひければ、蚊の声のやうなるこゑして、「やうせう仙人にて候なり。空を過候つるが、尊勝陀羅尼の声をうけたまはりて、まいり侍るなり」との給ければ、戸をあけて請ぜられければ、飛入て前に居給ぬ。 | + | 昔、山((比叡山延暦寺))の西塔、千手院に住み給ひける、静観僧正と申しける座主、夜更けて、尊勝陀羅尼を夜もすがら見て明かして、年ごろになり給ひぬ。聞く人も、いみじく尊みけり。 |
- | 年比の物語して、「いまはまかりなん」とて立ちけるが、人けにをされて、えたたざりければ、「香炉の煙をちかくよせ給へ」との給ければ、僧正、香呂をちかくさしよせ給ける。その煙にのりて、空へ上にけり。 | + | 陽勝仙人(やうせうせんにん)と申す仙人、空を飛びて、この坊の上を過ぎけるが、この陀羅尼の声を聞きて、下りて、高欄の架木(ほこぎ)の上に居給ひぬ。僧正、「あやし」と思ひて、問ひ給ひければ、蚊の声のやうなる声して、「陽勝仙人にて候ふなり。空を過ぎ候ひつるが、尊勝陀羅尼の声を承りて、参り侍るなり」とのたまひければ、戸を開けて請ぜられければ、飛び入りて、前に居給ひぬ。 |
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+ | 年ごろの物語して、「いまはまかりなん」とて立ちけるが、人気(ひとけ)におされて、え立たざりければ、「香炉の煙を近く寄せ給へ」とのたまひければ、僧正、香炉を近くさし寄せ給ひける。その煙に乗りて、空へ上りにけり。 | ||
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+ | この僧正は、年を経て、香呂をさし上げて、煙(けぶり)を立ててぞおはしける。この仙人は、もと使ひ給ひける僧の、行ひして失せにけるを、年ごろ「あやし」と思しけるに、かくして参りたりければ、「あはれあはれ」と思してぞ、常に泣き給ひける。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 昔山の西塔千手院に住給ける静観僧正と申ける座主夜 | ||
+ | 更て尊勝陀羅尼を夜もすからみてあかして年比になり給ぬ | ||
+ | きく人もいみしくたうとみけり陽勝仙人と申仙人空をとひて | ||
+ | この坊のうへを過けるかこの陀羅尼のこゑをききておりて | ||
+ | 高欄のほこ木の上に居給ぬ僧正あやしとおもひてとひたま | ||
+ | ひけれは蚊の声のやうなるこゑしてやうせう仙人にて候なり空を | ||
+ | 過候つるか尊勝陀羅尼の声をうけたまはりてまいり侍るなりと/下4オy261 | ||
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+ | の給けれは戸をあけて請せられけれは飛入て前に居給ぬ | ||
+ | 年比の物語していまはまかりなんとて立ちけるか人けにをさ | ||
+ | れてえたたさりけれは香炉の煙をちかくよせ給へとの給けれは | ||
+ | 僧正香呂をちかくさしよせ給けるその煙にのりて空へ上に | ||
+ | | ||
+ | おはしける此仙人はもとつかひ給ける僧のおこなひして失に | ||
+ | けるを年比あやしとおほしけるにかくしてまいりたりけれは | ||
+ | あはれあはれとおほしてそつねになき給ける/下4ウy262 | ||
- | 此僧正は、手をへて、香呂をさしあげて、けぶりをたててぞおはしける。此仙人は、もとつかひ給ける僧の、おこなひして失にけるを、年比「あやし」とおぼしけるに、かくしてまいりたりければ、「あはれあはれ」とおぼしてぞ、つねになき給ける。 |
text/yomeiuji/uji105.txt · 最終更新: 2018/12/02 15:43 by Satoshi Nakagawa