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text:yomeiuji:uji103

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text:yomeiuji:uji103 [2014/04/12 15:50] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji103 [2018/10/19 17:33] (現在) Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第103話(巻8・第5話)東大寺花厳会の事 ====== ====== 第103話(巻8・第5話)東大寺花厳会の事 ======
  
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 **東大寺花厳会の事** **東大寺花厳会の事**
  
-これも今はむかし、東大寺に恒例の大法会あり。花厳会とぞいふ。大仏殿のうちに、高座をたてて、講師のぼりて、堂のうしろよりかひけつやうにして逃ていづるなり。+===== 校訂本文 =====
  
-古老つたへてい建立のはじめ、鯖を売翁きたる。爰本願上皇、めしとどめて大会の講師うる所鯖を経机にをく。変じて八十華厳経となる。則講説あひだ梵語をさへづる。法会の中間に高座にして、忽に失おは+これも今東大寺に恒例の大法会(だいほふゑ)あり。華厳会とぞいふ大仏殿、高座立てて、講師(こう)上りて、後ろよりかい消つやうにして逃げて出づるなり。
  
-又云、鯖をる翁、杖を持て鯖をになふその鯖の数八十、変じて八十華厳経となる。件の杖の木大仏殿東回廊の前につきたつ。忽に杖、枝葉なすこれ、白榛木也。今、伽藍のさかへ、おとろへとするにしたがひて、この木、さかへ、枯るといふ+古老、伝へていはく、「御寺建立の始め、鯖をる翁来たる。ここに本願の上皇((聖武天皇))召しとどめ、大会(だいゑ)の講師とす。売る所の鯖を経机置く。変じて八十華厳経となる。すなはち講説梵語さへづる法会中間(ちゆうげ)に、高座にして、たちまちに失せおはりぬ」
  
-講師この比までも中間に高座よりおりて、後戸よりかひけつやにして出事、これをまなぶなり+またいはく、「鯖を売る翁、杖を持ちて鯖を担(にな)ふ。そ数八十すなはち変じ八十華厳経となる。件(くだん)の杖の木大仏殿の内東回廊の前に突き立。たちまちに枝葉をなす。これ、白榛(びくしん)の木なり。今、伽藍の栄へ、衰へんとするにしたがひて、この木、栄へ、枯る」と言ふ
  
-かの鯖の杖の木、三四十年がさきまでは、葉は青くてさかへたり厥后なを枯木にてたてりしが、此た平家の炎上にやけおはりぬ+かの会の講師、このごろまでも、中間に高座より下りて、後戸(うしろど)より、かい消つやうにして出づること、これをまなぶなり。 
 + 
 +かの鯖の杖の木、三四十年が前(さき)までは、葉は青くて栄へたり。その後、なほ枯木にて立てりしが、このたび、平家の炎上に焼けおはりぬ。世の末のしき、口惜しかりけり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし東大寺に恒例の大法会あり花厳会 
 +  とそいふ大仏殿のうちに高座をたてて講師のほりて堂 
 +  のうしろよりかひけつやうにして逃ていつるなり古老つたへて 
 +  いはく御寺建立のはしめ鯖を売翁きたる爰に本願の 
 +  上皇めしととめて大会の講師とすうる所の鯖を経机に 
 +  をく変して八十華厳経となる則講説のあひた梵語を 
 +  さへつる法会の中間に高座にして忽に失おはりぬ又云鯖 
 +  をうる翁杖を持て鯖をになふその鯖の数八十則変して 
 +  八十華厳経となる件の杖の木大仏殿の内東回廊の前に/121ウy246 
 + 
 +  つきたつ忽に枝葉をなすこれ白榛の木也今伽藍 
 +  のさかへおとろへんとするにしたかひてこの木さかへ枯といふ 
 +  かの会の講師この比まても中間に高座よりおりて 
 +  後戸よりかひけつやうにして出事これをまなふなり 
 +  かの鯖の杖の木三四十年かさきまては葉は青くて 
 +  さかへたり厥后なを枯木にてたてりし此た平家 
 +  の炎上にやけおはりぬ世の末のしき口惜かりけり/122オy247
  
-世の末のしき、口惜かりけり。 
text/yomeiuji/uji103.txt · 最終更新: 2018/10/19 17:33 by Satoshi Nakagawa