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text:yomeiuji:uji099 [2014/04/12 02:06] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji099 [2018/09/25 23:48] (現在) Satoshi Nakagawa
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 +宇治拾遺物語
 ====== 第99話(巻8・第1話)大膳大夫以長、前駆の間の事 ====== ====== 第99話(巻8・第1話)大膳大夫以長、前駆の間の事 ======
  
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 **大膳大夫以長、前駆の間の事** **大膳大夫以長、前駆の間の事**
  
-これもいまはむかし、橘大膳亮大夫以長といふといふ、蔵人の五位有けり。法勝寺千僧供養に鳥羽院御幸有けるに、宇治左大臣まいり給けり。さきに公卿の車行けり。しりより、左府まいり給ければ、車ををさへて有ければ、御前の随身おりてとほりけり。それにこの以長、一人おりざりけり。「いかなる事にか」とみる程に、とほらせ給ぬ。+===== 校訂本文 =====
  
-さて、帰らせ給て、「いかなるぞ。公卿あひて礼節して車をさへたれば、御前の随身みなりたるに、未練のこそあらめ、以長りざりつるは」と仰らる。以長、申やう、「こは、いかなる仰にか候らん。礼節と申候は、前にまかる人、しりより御出なり候はば、車を遣返して、御車にむかへて、牛をかきはづして、榻にくび木をきて、とほまいらするをこそ礼節とは申候に、さきに行人、車をさへ候も、しりをむかまいらせて、とほまいらするは、礼節にては候はで、無礼をいたすに候とこそえつれば、『さらん人にはなんでうり候はむずるぞ』と思て、り候はざりつるに候。『あやまりてさも候はば、打よせて一こと葉申さるや』と思候つれども、以長、年老候にたれば、さへて候つるに候」と申ければ、左大臣殿「いさ、このいかがあるべからん」とて、あの御方に((傍注「富家殿」))「かかるこそ候へ。いかに候はんずるぞ」と申させ給ければ、「以長ふるさぶらひに候けり」とぞ、仰ありける。+これも今は昔、橘大膳亮大夫以長((橘以長))といふ、蔵人の五位ありけり。法勝寺千僧供養に鳥羽院((鳥羽天皇))御幸ありけるに、宇治左大臣((藤原頼長))参り給ひけり。 
 + 
 +さきに公卿の車行きけり。しりより、左府参り給ければ、車を押さへてありければ、御前の随身、下りて通りけり。それに、この以長、一人下りざりけり。「いかなることにか」と見るほどに、通らせ給ひぬ。 
 + 
 +さて、帰らせ給て、「いかなることぞ。公卿あひて礼節して車をさへたれば、御前の随身みなりたるに、未練のこそあらめ、以長りざりつるは」と仰らる。以長、申やう、「こは、いかなる仰にか候らん。礼節と申は、前にまかる人、しりより御出なり候はば、車を遣返して、御車にへて、牛をかきして、榻(しぢ)にくび木をきて、らするをこそ礼節とは申に、さきに行人、車をさへ候へども、しりを向け参らせてらするは、礼節にては候はで、無礼をいたすに候ふ』とこそえつれば、『さらん人にはなんでうり候はむずるぞ』と思て、り候はざりつるに候。『りてさも候はば、うち寄せて葉申さるや』と思つれども、以長、年老にたれば、さへて候つるに候」と申ければ、左大臣殿「いさ、このこと、いかがあるべからん」とて、あの御方に((底本傍注「富家殿。富家殿は頼長の父、藤原忠実))「かかることこそ候へ。いかに候はんずることぞ」と申させ給ければ、「以長、古侍(ふるさぶらひ)に候けり」とぞ、仰せごとありける。 
 + 
 +昔はかき外して、榻をば轅(ながえ)の中に下りんずるやうに置きけり。これぞ、礼節にてはあんなるとぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これもいまはむかし橘大膳亮大夫以長といふ蔵人の五位有 
 +  けり法勝寺千僧供養に鳥羽院御幸有けるに宇治左 
 +  大臣まいり給けりさきに公卿の車行けりしりより左 
 +  府まいり給けれは車ををさへて有けれは御前の随身おり 
 +  てとほりけりそれにこの以長一人おりさりけりいかなる事 
 +  にかとみる程にとほらせ給ぬさて帰らせ給ていかなる事そ公卿 
 +  あひて礼節して車ををさへたれは御前の随身みなおり 
 +  たるに未練の物こそあらめ以長おりさりつるはと仰らる以 
 +  長申やうこはいかなる仰にか候らん礼節と申候は前にまかる 
 +  人しりより御出なり候はは車を遣返して御車にむかへ 
 +  て牛をかきはつして榻にくひ木ををきてとほしまいらするを/112オy227 
 + 
 +  こそ礼節とは申候にさきに行人車ををさへ候ともしり 
 +  をむけまいらせてとほしまいらするは礼節にては候はて無礼 
 +  をいたすに候とこそみえつれはさらん人にはなんてうおり候 
 +  はむするそと思ており候はさりつるに候あやまりてさも候 
 +  はは打よせて一こと葉申さるやと思候つれとも以長年老 
 +  候にたれはをさへて候つるに候と申けれは左大臣殿いさ 
 +  この事いかかあるへからんとてあの御方に(富家殿歟)かかる事こそ 
 +  候へいかに候はんする事そと申させ給けれは以長ふるさふら 
 +  ひに候けりとそ仰事ありけるむかしはかきはつして 
 +  榻をは轅のなかにおりんするやうにをきけりこれそ礼節 
 +  にてはあんなるとそ/112ウy228
  
-むかしはかきはづして、榻をば轅のなかにおかんずるやうにをきけり。これぞ礼節にてはあんなるとぞ。 
text/yomeiuji/uji099.txt · 最終更新: 2018/09/25 23:48 by Satoshi Nakagawa