text:yomeiuji:uji096
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text:yomeiuji:uji096 [2015/03/30 16:43] – [第96話(巻7・第5話)長谷寺参籠の男、利生に預る事] Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji096 [2018/08/17 21:04] (現在) – Satoshi Nakagawa | ||
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**長谷寺参籠の男、利生に預る事** | **長谷寺参籠の男、利生に預る事** | ||
- | いまはむかし、父母、しうもなく、妻も子もなくて、只一人ある青侍ありけり。すべき方もなかりければ、「観音たすけ給へ」とて、長谷にまいりて、御前にうつぶし伏て申けるやう、「此世にかくてあるべくは、やがて此御前にてひしにに死なん。もし又、をのづからなる便もあるべくは、そのよしの夢をみざらんかぎりは出まじ」とて、うつぶしふしたりけるを、寺の僧みて「こは、いかなるもののかくては候ぞ。物食所もみえず。かくうつぶしうつぶしたれば、寺のため、けがらひいできて、大事に成なん。誰を師にはしたるぞ。いづくにてか物はくふ」などとひければ、「かくたよりなき物は、師もいかで侍らん。物たぶる所もなくあはれと申人もなければ、仏の給はん物をたべて、仏を師とたのみ奉て候也」とこたへければ、寺の僧どもあつまりて、「此事いとど不便の事也。寺のためにあしかりなん。観音をかこち申人にこそあんなれ。是あつまりて、やしなひさぶらはせん」とて、かはるがはる物をくはせければ、もてくる物をくひつつ、御前を立さらず候ける程に、三七日に成にけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | 三七日はてて明んとする夜の夢に、御帳より人のいでて、「此おのこ、前世の罪のむくひをばしらで、観音をかこち申て、かくて候事、いとあやしき事也。さはあれども、申事のいとおしければ、いささかの事はからひ給りぬ。先、すみやかにまかりいでよ。まかり出んに、なににしあれ、手にあたらん物を取て、捨ずしてもちたれ。とくとく、まかり出よ」とをはるると見て、はいおきて、やくそくの僧のがりゆきて、物うち食てまかり出ける程に、大門にてけつまづきて、うつぶしにたをれにけり。 | + | 今は昔、父母(ぶも)、主(しう)もなく、妻も子もなくて、ただ一人ある青侍ありけり。すべきかたもなかりければ、「観音助け給へ」とて長谷((長谷寺))に参りて、御前にうつぶし伏して申しけるやう、「この世にかくてあるべくは、やがて、この御前にて干死(ひじ)にに死なん。もしまた、おのづからなる便りもあるべくは、そのよしの夢を見ざらんかぎりは出づまじ」とて、うつぶし伏したりけるを、寺の僧見て、「こは、いかなる者の、かくては候ふぞ。もの食ふ所も見えず、かくうつぶし伏したれば、寺のため、けがらひ出で来て、大事になりなん。誰(たれ)を師にはしたるぞ。いづくにてか、ものは食ふ」など問ひければ、「かく頼りなき者は、師もいかで侍らん。もの賜ぶる所もなく、『あはれ』と申す人もなければ、仏の給はん物を食べて、仏を師と頼み奉りて候ふなり」と答へければ、寺の僧ども集まりて、「このこと、いとど不便(ふびん)のことなり。寺のために悪しかりなん。観音をかこち申す人にこそあんなれ。これ集まりて、養ひ候(さぶら)はせん」とて、かはるがはる物を食はせければ、持てくる物を食ひつつ、御前を立ち去らず候ひけるほどに、三七日になりにけり。 |
- | おきあがりたるに、あるにもあらず、手ににぎられたる物をみれば、わらすべといふ物をただ一筋にぎられたり。「仏のたぶ物にて有にやあらん」といとはかなく思へども、「仏のはからはせ給やうあらん」と思て、これを手まさぐりにしつつ行程に、虻((原本は虫偏に育))一、ぶめきてかほのめぐりに有を、うるさければ、木の枝をおりて払すつれども、猶ただおなじやうにうるさくぶめきければ、とらへて腰をこのわらすぢにてひきくくりて、枝のさきにつけてもたりければ、腰をくくられてほかへはえいかで、ぶめき飛まいりけるを、長谷にまいりける女車の、前の簾をうちかつぎてゐたるちごの、いとうつくしげなるが、「あの男のもちたる物はなにぞ。かれこひて我にたべ」と、馬に乗てともにあるさぶらひにいひければ、その侍、「その持たる物、若公のめすにまいらせよ」といひければ、「仏のたびたる物に候へど、かく仰事候へば、まいらせ候はん」とて、とらせたりければ、「此男、いとあはれなる男也。若公のめす物をやすくまいらせたる事」といひて、大柑子を、「これのどかはくらん。たべよ」とて、三、いとかうばしきみちのく紙に包てとらせたりければ、侍、とりつたへてとらす。 | + | 三七日果てて、明けんとする夜の夢に、御帳(みちやう)より人の出でて、「この男(おのこ)、前世の罪の報ひをば知らで、観音をかこち申して、かくて候ふこと、いとあやしきことなり。さはあれども、申すことのいとほしければ、いささかのこと、はからひ給はりぬ。まづ、すみやかにまかり出でよ。まかり出でんに、何にもあれ、手に当らん物を取りて、捨てずして持ちたれ。とくとく、まかり出でよ」と追はるると見て、這ひ起きて、約束の僧のがり行きて、物うち食ひてまかり出でけるほどに、大門にてけつまづきて、うつぶしに倒れにけり。 |
- | 「藁一筋が大柑子三になりぬる事」と思て、木の枝にゆい付て、かたにうちてかけて行ほどに、「ゆへある人の忍てまいるよ」とみえて、侍など、あまたぐしてかちよりまいる女房の、あゆみこうじて、ただたりにたりゐたるが、「喉のかはけば、水のませよ」とて、きえ入やうにすれば、ともの人々、手まどひをして、「ちかく水やある」と走さはぎもとむれど、水もなし。「こはいかがせんずる。御はたご馬にやもしある」ととへど、「はるかにをくれたり」とてみえず。ほとほとしきさまにみゆれば、まことにさはぎまどひて、しあつかふをみて、「のどかはきてさはぐ人よ」とみければ、やはらあゆみよりたるに、「ここなる男こそ、水のあり所はしりたるらめ。此辺ちかく、水のきよき所やある」と問ければ、「此四五町がうちには、きよき水候はじ。いかなる事の候にか」ととひければ、「あゆみこうぜさせ給て、御喉のかはかせ給て、水ほしがらせ給に、水のなきが大事なれば、たづぬるぞ」といひければ、「不便に候御事かな。水の所は遠て、汲てまいらば程へ候なん。これはいかが」とて、つつみたる柑子を三ながらとらせたりければ、悦さはぎてくはせたれば、それを食てやうやう目を見あげて、「こはいかなりつる事ぞ」といふ。 | + | 起き上がりたるに、あるにもあらず、手に握られたる物を見れば、藁すべといふ物を、ただ一筋握られたり。「仏の賜ぶ物にてあるにやあらん」と、いとはかなく思へども、「仏のはからはせ給ふやうあらん」と思ひて、これを手まさぐりにしつつ行くほどに、虻((底本異体字。虫偏に育))一つ、ぶめきて顔のめぐりにあるを、うるさければ、木の枝を折りて払ひ捨つれども、ただ同じやうに、うるさくぶめきければ、捕へて、腰をこの藁筋(わらすぢ)にて引きくくりて、枝の先に付けて持たりければ、腰をくくられて、ほかへはえ行かで、ぶめき飛び回りけるを、長谷に参りける女車の、前の簾をうちかつぎてゐたる児(ちご)の、いと美しげなるが、「あの男の持ちたるものは何ぞ。かれ乞ひて、我に賜べ」と、馬に乗りて、ともにある侍に言ひければ、その侍、「その持たるもの、若公(わかぎみ)の召すに、参らせよ」と言ひければ、「仏の賜びたるものに候へど、かく仰せごと候へば、参らせ候はん」とて、取らせたりければ、「この男、いとあはれなる男なり。若公の召すものを、やすく参らせたること」と言ひて、大柑子を、「これ、喉渇(のどかは)くらん。食べよ」とて、三つ、いと香ばしき陸奥紙(みちのくにがみ)に包みて取らせたりければ、侍、取り伝へて、取らす。 |
- | 「御のどかはかせ給て『水のませよ』とおほせられつるままに、御とのごもりいらせ給つれば、水もとめつれども、清き水も候はざりつるに、ここに候男の、思がけぬに、その心をみて、この柑子を三たてまつりたりつれば、まいらせたるなり」といふに、此女房「我は、さは、のどかはきて、絶入たりけるにこそ有けれ。『水のませよ』といひつる斗はおぼゆれど、其後の事は露おぼえず。此柑子えざらましかば、此野中にてきえ入なまし。うれしかりける男かな。此おとこ、いまだあるか」ととへば、「かしこに候」と申。「その男、しばしあれといへ。いみじからん事ありとも、たえ入はてなば、かひなくてこそやみなまし。男のうれしとおもふばかりの事は、かかる旅にてはいかがせんずるぞ。くひ物はもちてきたるか。くはせてやれ」といへば、「あの男、しばし候へ。御はたご馬などまいりたらんに、物など食てまかれ」といへば、「うけ給ぬ」とてゐたるほどに、はたご馬、かはご馬などきつきたり。 | + | 「藁一筋が、大柑子三つになりぬること」と思ひて、木の枝に結ひ付けて、肩にうちてかけて行くほどに、「ゆゑある人の忍びて参るよ」と見えて、侍など、あまた具して徒歩(かち)より参る女房の、歩み困(こう)じて、ただたりにたりゐたるが、「喉の渇けば、水飲ませよ」とて、消え入るやうにすれば、供の人々、手惑ひをして、「近く水やある」と走り騒ぎ求むれど、水もなし。「こは、いかがせんずる。御旅籠馬(はたごうま)にや、もしある」と問へど、「はるかに遅れたり」とて見えず。 |
- | 「など、かくはるかにをくれてはまいるぞ。御はたご馬などはつねにさきだつこそよけれ。とみの事などもあるに、かくをくるるはよき事かは」などいひて、やがてまんびき、たたみなどしきて、「水遠かんなれど、こうぜさせ給たれば、めし物はここにてまいらすべき也」とて、夫どもやりなどして、水くませ食物しいだしたれば、此男にきよげにして、くはせたり。物をくふくふ、「ありつる柑子、なににかならんずらん。観音はからせ給事なれどば、よもむなしくはやまじ」と思ゐたる程に、しろくよき布を三むら、とりいでて「これあの男にとらせよ。此柑子の喜は、いひつくすべき方もなけれども、かかる旅の道にては、うれしとおもふ斗の事はいかがせん。これは、ただ心ざしのはじめをみする也。京のおはしましし所はそこそこになん。かならずまいれ。此柑子の喜をばせんずるぞ」といひて、布三むらとらせたれば、悦て布をとりて、「わらすぢ一筋が布三むらになりぬる事」と思て、腋にはさみてまかる程に、其日は暮にけり。 | + | ほとほとしきさまに見ゆれば、まことに騒ぎ惑ひて、しあつかふを見て、「喉渇きて騒ぐ人よ」と見ければ、やはら歩み寄りたるに、「ここなる男こそ、水のあり所は知りたるらめ。このあたり近く、水の清き所やある」と問ひければ、「この四・五町がうちには、清き水候はじ。いかなることの候ふにか」と問ひければ、「歩み困ぜさせ給ひて、御喉の渇かせ給ひて、水欲しがらせ給ふに、水の無きが大事なれば、尋ぬるぞ」と言ひければ、「不便に候ふ御ことかな。水の所は遠くて、汲みて参らばほど経(へ)候ひなん。これはいかが」とて、包みたる柑子を、三つながら取らせたりければ、悦び騒ぎて食はせたれば、それを食ひて、やうやう目を見上げて、「こは、いかなりつることぞ」と言ふ。 |
- | 道づらなる人の家にとどまりて明ぬれば、鳥と友におきて行く程に、日さしありて、辰の時ばかりに、えもいはずよき馬にのりたる人、此馬を愛しつつ、道もゆきやらず、ふるまはするほどに、「まことにえみいはぬ馬かな。これをぞ千貫がけなどはいふにやあらん」とみるほどに、此馬、にはかにたうれて、ただしににしぬれば、主、我にもあらぬけしきにて、おりて立ゐたりてまどひして、従者どもも鞍おろしなどして、「いかがせんずる」といへども、かひなくしにはてぬれば、手をうちあさましがり泣ぬばかりに思ひたれど、すべき方なくて、あやしの馬のあるに乗ぬ。 | + | 「御喉渇かせ給ひて、『水飲ませよ』と仰せられつるままに、御殿籠(おほとのごも)り入らせ給ひつれば、水求め候ひつれども、清き水も候はざりつるに、ここに候ふ男の、思ひがけぬに、その心を得て、この柑子を三つ奉りたりつれば、参らせたるなり」と言ふに、この女房、「われは、さは、喉渇きて、絶え入りたりけるにこそありけれ。『水飲ませよ』と言ひつるばかりは覚ゆれど、その後のことは、つゆ覚えず。この柑子、得ざらましかば、この野中にて、消え入りなまし。嬉しかりける男かな。この男(おとこ)、いまだあるか」と問へば、「かしこに候ふ」と申す。「その男、『しばしあれ』と言へ。いみじからんことありとも、絶え入り果てなば、かひなくてこそやみなまし。男の嬉しと思ふばかりのことは、かかる旅にては、いかがせんずるぞ。食ひ物は持ちて来たるか。食はせてやれ」と言へば、「あの男、しばし候へ。御旅籠馬など参りたらんに、物など食ひてまかれ」と言へば、「承りぬ」とて居たるほどに、旅籠馬、皮籠馬(かはごうま)など、来着きたり。 |
- | 「かくてここにありともすべきやうもなし。我等はいなん。これ、ともかくもして、ひきかくせ」とて、下すおとこを一人とどめていぬれば、此男みて「此馬『わが馬にならん』とて、死ぬるにこそあんめれ。藁一すぢが、柑子三になりぬ。柑子三が、布三むらになりたり。此ぬのの馬になるべきなめり」と思て、あゆみよりて、此下す男にいふやう、「こはいかなりつる馬ぞ」ととひければ、「みちのくよりえさせ給へる馬なり。よろづの人のほしがりて、『あたいもかぎらず買ん』と申つるをもおしみて、はなち給はずして、けふかくしぬれば、そのあたい、少分をもとらせ給はずなりぬ。おのれも『皮をだにはがばや』と思へど、『旅にてはいかがすべき』と思て、まもり立て侍なり」といひければ、「その事也。いみじき御馬かなと見侍りつるに、はかなくかくしぬる事、命ある物はあさましき事也。まことに旅にては、皮をはぎ給たりとも、えほし給はじ。おのれは此辺に侍れば、皮はぎてつかひ侍らん。えさせておはしね」とて、此布を一むらとらせたれば、男、「思はずなる所得したり」と思て、「おもひもぞかへす」とやおもふらん、布をとるままに、見だにもかへらず、はしりいぬ。 | + | 「など、かくはるかに遅れては参るぞ。御旅籠馬などは、常に先立つこそよけれ。とみのことなどもあるに、かく遅るるはよき事かは」など言ひて、やがて幔引(まんひ)き、畳など敷きて、「水遠かんなれど、困ぜさせ給ひたれば、召し物は、ここにて参らすべきなり」とて、夫(ぶ)どもやりなどして、水汲ませ、食ひ物し出だしたれば、この男に、清げにして、食はせたり。 |
- | 男、よくやりはてて後、手かきあらひて、はせの御方にむかひて、「此馬、いけて給はらん」と念じゐたる程に、この馬、目を見あくるままに、頭をもたげておきんとしければ、やはら手をかけておこしぬ。うれしき事限なし。「をくれてくる人もぞある。又、ありつる男もぞくる」など、あやうくおぼえければ、やうやうかくれのかたに引入て、時うつるまでやすめて、もとのやうに心ちもなりにければ、人のもとに引もて行て、その布一むらして、轡や、あやしの鞍にかへて、馬に乗ぬ。 | + | 物を食ふ食ふ、「ありつる柑子、何にかならんずらん。観音、はからせ給ふことなれば、よもむなしくはやまじ」と思ひ居たるほどに、白く良き布を三疋(みむら)、取り出でて、「これ、あの男に取らせよ。この柑子の喜びは言ひつくすべきかたもなけれども、かかる旅の道にては、嬉しと思ふばかりのことはいかがせん。これはただ、心ざしの始めを見するなり。京のおはしまし所は、そこそこになん。必ず参れ。この柑子の喜びをばせんずるぞ」と言ひて、布三疋取らせたれば、悦びて布を取りて、「藁筋一筋が布三疋になりぬること」と思ひて、腋(わき)に挟みてまかるほどに、その日は暮れにけり。 |
- | 京ざまにのぼる程に、宇治わたりにて、日くれにければ、その夜は人のもとにとまりて、今一むらの布して、馬の草・わが食物などにかへて、其の夜はとまりて、つとめて、いととく京ざまにのぼりければ、九条わたりなる人の家に、物へいかんずるやうにて、立さはぐ所あり。 | + | 道づらなる人の家にとどまりて、明けぬれば、鳥とともに起きて行くほどに、日さしあがりて、辰の時ばかりに、えもいはず良き馬に乗りたる人、この馬を愛しつつ、道も行きやらず、ふるまはするほどに、「まことに、えもいはぬ馬かな。これをぞ『千貫がけ』などは言ふにやあらん」と見るほどに、この馬、にはかに倒(たう)れて、ただ死にに死ぬれば、主、われにもあらぬ気色(けしき)にて、下りて立ち居たり。手まどひして、従者どもも、鞍下(おろ)しなどして、「いかがせんずる」と言へども、かひなく死に果てぬれば、手を打ち、あさましがり、泣きぬばかりに思ひたれど、すべき方なくて、あやしの馬のあるに乗りぬ。 |
- | 「此馬、京にいて行たらんに、見しりたる人ありて、『ぬすみたるか』などいはれんもよしなし。やはら、これを売てばや」と思て、「かやうの所に馬など用なる物ぞかし」とて、おり立てよりて、「もし馬などや買せ給ふ」ととひければ、「馬がな」と思けるほどにて、此馬をみて、「いかがせん」とさはぎて、只今かはりぎぬなどはなきを、この鳥羽の田や米などにはかへてんや」といひければ、「中々きぬよりは第一の事也」と思て、「きぬや銭などこそ用には侍れ。おのれは旅なれば、田ならば何にかはせんずると思給ふれど、馬の御用あるべくは、ただ仰にこそしたがはめ」といへば、此馬にのり心み、はせなどして、「ただ、思つるさま也」といひて、此鳥羽のちかき田三町、稲すこし、米などとらせてやりて、此家をあづけて「おのれもし命ありて帰のぼりたらば、その時返しえさせ給へ。のぼらざらんかぎりは、かくてゐ給つれ。もし又、命たえてなくもなりなば、やがてわが家にして居給へ。子も侍らねば、とかく申人もよも侍らじ」といひて、あづけて、やがてくだりにければ、その家に入居て、みたりける。 | + | 「かくて、ここにありとも、すべきやうもなし。われらは去なん。これ、ともかくもして、引き隠せ」とて、下種男(げすおとこ)を一人とどめて去ぬれば、この男、見て、「この馬、『わが馬にならん』とて、死ぬるにこそあんめれ。藁一筋が、柑子三つになりぬ。柑子三つが、布三疋(みむら)になりたり。この布の、馬になるべきなめり」と思ひて、歩み寄りて、この下種男に言ふやう、「こは、いかなりつる馬ぞ」と問ひければ、「陸奥国(みちのくに)より得させ給へる馬なり。よろづの人のほしがりて、『値(あたひ)も限らず買はん』と申しつるをも惜しみて、放ち給はずして、今日かく死ぬれば、その値、少分をも取らせ給はずなりぬ。おのれも、『皮をだに剥がばや』と思へど、『旅にては、いかがすべき』と思ひて、まもり立ちて侍るなり」と言ひければ、「そのことなり。『いみじき御馬かな』と見侍りつるに、はかなくかく死ぬること、命あるものは、あさましきことなり。まことに、旅にては、皮はぎ給ひたりとも、え干し給はじ。おのれは、このあたりに侍れば、皮剥ぎて使ひ侍らん。得させておはしね」とて、この布を一疋取らせたれば、男、「思はずなる所得したり」と思ひて、「思ひもぞかへす」とや思ふらん、布を取るままに、見だにも返らず、走り去ぬ。 |
- | 米、稲など、取をきて、ただひとりなりけれど、食物ありければ、かたはらそのへんなりける下すなどいできて、つかはれなどして、ただありつきに居つきにけり。 | + | 男、よくやりはてて後、手かき洗ひて、長谷の御方に向ひて、「この馬、生けて給はらん」と念じ居たるほどに、この馬、目を見開くるままに、頭をもたげて、起きんとしければ、やはら手をかけて起こしぬ。嬉しきことかぎりなし。「遅れて来る人もぞある。また、ありつる男もぞ来る」など、あやふく思えければ、やうやう隠れの方に引き入れて、時移るまで休めて、もとのやうに心地もなりにければ、人のもとに引き持て行きて、その布一疋して、轡(くつわ)や、あやしの鞍にかへて、馬に乗りぬ。 |
- | 二月斗の事なりければ、そのえたりける田を、なからは人に作らせ、今なからは我れうにつくらせたりけるが、人のかたのもよけれども、それはよのつねにて、おのれがぶんとて作たるは、ことのほかにおほくいできたりければ、稲おほく刈をきて、それよりうちはじめ、風の吹つくるやうに徳つきて、いみじきとく人にてぞありける。 | + | 京ざまに上るほどに、宇治わたりにて、日暮れにければ、その夜は、人のもとに泊りて、今一疋の布して、馬の草・わが食ひ物などにかへて、その夜は泊りて、つとめて、いととく京ざまに上りければ、九条わたりなる人の家に、ものへ行かんずるやうにて、立ち騒ぐ所あり。 |
- | その家あるじもをとせずなりにければ、其家も我物にして、子孫などいできて、ことのほかにさかへたりけるとか。 | + | 「この馬、京に率(い)て行きたらんに、見知りたる人ありて、『盗みたるか』など言はれんもよしなし。やはら、これを売りてばや」と思ひて、「かやうの所に、馬など用なるものぞかし」とて、下り立ちて、寄りて、「もし、馬などや買はせ給ふ」と問ひければ、「馬がな」と思ひけるほどにて、この馬を見て、「いかがせん」と騒ぎて、「ただ今、かはり絹(ぎぬ)などは無きを、この鳥羽の田や米などにはかへてんや」と言ひければ、「なかなか、絹よりは第一のことなり」と思ひて、「絹や銭などこそ、用には侍れ。おのれは旅なれば、田ならば何にかはせんずると思ひ給ふれど、馬の御用あるべくは、ただ仰せにこそしたがはめ」と言へば、この馬に乗り試み、馳せなどして、「ただ、思ひつるさまなり」と言ひて、この鳥羽の近き田三町、稲少し、米など取らせて、やがてこの家をあづけて、「おのれ、もし命ありて帰り上りたらば、その時、返し得させ給へ。上らざらんかぎりは、かくて居給へれ。もしまた、命絶えて、なくもなりなば、やがてわが家にして居給へ。子も侍らねば、とかく申す人もよも侍らじ」と言ひて、あづけて、やがて下りにければ、その家に入り居て、みたりける。 |
+ | |||
+ | 米・稲など、取り置きて、ただ一人なりけれど、食物ありければ、かたはら、その辺(へん)なりける下種など出で来て、使はれなどして、ただありつきに、居付きにけり。 | ||
+ | |||
+ | 二月ばかりのことなりければ、その得たりける田を、半(なか)らは人に作らせ、今半らは、わが料(れう)に作らせたりけるが、人の方(かた)のも良けれども、それは世の常にて、おのれが分(ぶん)とて作りたるは、ことのほかに多く出で来たりければ、稲多く刈り置きて、それよりうちはじめ、風の吹きつくるやうに徳付きて、いみじき徳人(とくにん)にてぞありける。 | ||
+ | |||
+ | その家主(いへあるじ)も、音せずなりにければ、その家もわがものにして、子孫など出で来て、ことのほかに栄えたりけるとか。 | ||
+ | |||
+ | ===== 翻刻 ===== | ||
+ | |||
+ | いまはむかし父母しうもなく妻も子もなくて只一人ある青侍 | ||
+ | ありけりすへき方もなかりけれは観音たすけ給へとて長谷 | ||
+ | にまいりて御前にうつふし伏て申けるやう此世にかくてあるへく | ||
+ | はやかて此御前にてひしにに死なんもし又をのつからなる便も | ||
+ | あるへくはそのよしの夢をみさらんかきりは出ましとてうつふし | ||
+ | ふしたりけるを寺の僧みてこはいかなるもののかくては候そ物 | ||
+ | 食所もみえすかくうつふしふしたれは寺のためけからひいてきて | ||
+ | 大事に成なん誰を師にはしたるそいつくにてか物はくふなと | ||
+ | とひけれはかくたよりなき物は師もいかて侍らん物たふる所もなく | ||
+ | あはれと申人もなけれは仏の給はん物をたへて仏を師とたのみ奉て | ||
+ | 候也とこたへけれは寺の僧ともあつまりて此事いとと不便の事也 | ||
+ | 寺のためにあしかりなん観音をかこち申人にこそあんなれ是 | ||
+ | あつまりてやしなひさふらはせんとてかはるかはる物をくはせけれは/105オy213 | ||
+ | |||
+ | もてくる物をくひつつ御前を立さらす候ける程に三七日に成 | ||
+ | にけり三七日はてて明んとする夜の夢に御帳より人のいてて | ||
+ | 此おのこ前世の罪のむくひをはしらて観音をかこち申 | ||
+ | てかくて候事いとあやしき事也さはあれとも申事のいとおし | ||
+ | けれはいささかの事はからひ給りぬ先すみやかにまかりいてよ | ||
+ | まかり出んになににもあれ手にあたらん物を取て捨すしてもち | ||
+ | たれとくとくまかり出よとをはるると見てはいおきてやくそくの僧の | ||
+ | かりゆきて物うち食てまかり出ける程に大門にてけつまつきてうつ | ||
+ | ふしにたをれにけりおきあかりたるにあるにもあらす手ににきら | ||
+ | れたる物をみれはわらすへといふ物をたた一筋にきられたり | ||
+ | 仏のたふ物にて有にやあらんといとはかなく思へとも仏のはからはせ | ||
+ | 給やうあらんと思てこれを手まさくりにしつつ行程に蜟一ふめきて | ||
+ | かほのめくりに有をうるさけれは木の枝をおりて払すつれとも/105ウy214 | ||
+ | |||
+ | 猶たたおなしやうにうるさくふめきけれはとらへて腰をこの | ||
+ | わらすちにてひきくくりて枝のさきにつけてもたりけれは | ||
+ | 腰をくくられてほかへはえいかてふめき飛まはりけるを長谷に | ||
+ | まいりける女車の前の簾をうちかつきてゐたるちこのいとうつくし | ||
+ | けなるかあの男のもちたる物はなにそかれこひて我にたへと馬に乗て | ||
+ | ともにあるさふらひにいひけれはその侍その持たる物若公のめす | ||
+ | にまいらせよといひけれは仏のたひたる物に候へとかく仰事 | ||
+ | 候へはまいらせ候はんとてとらせたりけれは此男いとあはれなる男 | ||
+ | 也若公のめす物をやすくまいらせたる事といひて大柑子を | ||
+ | これのとかはくらんたへよとて三いとかうはしきみちのくに紙に包 | ||
+ | てとらせたりけれは侍とりつたへてとらす藁一筋か大柑子三に | ||
+ | なりぬる事と思て木の枝にゆい付てかたにうちてかけて行 | ||
+ | ほとにゆへある人の忍てまいるよとみえて侍なとあまたくして/106オy215 | ||
+ | |||
+ | かちよりまいる女房のあゆみこうしてたたたりにたりゐたるか | ||
+ | 喉のかはけは水のませよとてきえ入やうにすれはともの人々手 | ||
+ | まとひをしてちかく水やあると走さはきもとむれと水もなし | ||
+ | こはいかかせんする御はたこ馬にやもしあるととへとはるかにをくれ | ||
+ | たりとてみえすほとほとしきさまにみゆれはまことにさはきまとひて | ||
+ | しあつかふをみてのとかはきてさはく人よとみけれはやはらあゆみ | ||
+ | よりたるにここなる男こそ水のあり所はしりたるらめ此辺ちかく | ||
+ | 水のきよき所やあると問けれは此四五町かうちにはきよき水 | ||
+ | 候はしいかなる事の候にかととひけれはあゆみこうせさせ給て | ||
+ | 御喉のかはかせ給て水ほしからせ給に水のなきか大事なれは | ||
+ | たつぬるそといひけれは不便に候御事かな水の所は遠て汲て | ||
+ | まいらは程へ候なんこれはいかかとてつつみたる柑子を三なからとらせ | ||
+ | たりけれは悦さはきてくはせたれはそれを食てやうやう目を/106ウy216 | ||
+ | |||
+ | 見あけてこはいかなりつる事そといふ御のとかはかせ給て水の | ||
+ | ませよとおほせられつるままに御とのこもりいらせ給つれは水もと | ||
+ | め候つれとも清き水も候はさりつるにここに候男の思かけぬに | ||
+ | その心をえてこの柑子を三たてまつりたりつれはまいらせたるなり | ||
+ | といふに此女房我はさはのとかはきて絶入たりけるにこそ有 | ||
+ | けれ水のませよといひつる斗はおほゆれと其後の事は露 | ||
+ | おほえす此柑子えさらましかは此野中にてきえ入なまし | ||
+ | うれしかりける男かな此おとこいまたあるかととへはかしこに候と | ||
+ | 申その男しはしあれといへいみしからん事ありともたえ入はてなは | ||
+ | かひなくてこそやみなまし男のうれしとおもふはかりの事は | ||
+ | かかる旅にてはいかかせんするそくひ物はもちてきたるかくはせてや | ||
+ | れといへはあの男しはし候へ御はたこ馬なとまいりたらんに物なと食 | ||
+ | てまかれといへはうけ給ぬとてゐたるほとにはたこ馬かはこ馬/107オy217 | ||
+ | |||
+ | なときつきたりなとかくはるかにをくれてはまいるそ御はたこ馬なと | ||
+ | はつねにさきたつこそよけれとみの事なともあるにかくをくるるは | ||
+ | よき事かはなといひてやかてまんひきたたみなとしきて水遠 | ||
+ | かんなれとこうせさせ給たれはめし物はここにてまいらすへき也 | ||
+ | とて夫ともやりなとして水くませ食物しいたしたれは此男に | ||
+ | きよけにしてくはせたり物をくふくふありつる柑子なににかならん | ||
+ | すらん観音はからせ給事なれはよもむなしくはやましと思 | ||
+ | ゐたる程にしろくよき布を三むらとりいててこれあの男に | ||
+ | とらせよ此柑子の喜はいひつくすへき方もなけれともかかる | ||
+ | 旅の道にてはうれしとおもふ斗の事はいかかせんこれはたた心さし | ||
+ | のはしめをみする也京のおはしまし所はそこそこになんかならすまいれ | ||
+ | 此柑子の喜をはせんするそといひて布三むらとらせたれは悦て | ||
+ | 布をとりてわらすち一筋か布三むらになりぬる事と/107ウy218 | ||
+ | |||
+ | 思て腋にはさみてまかる程に其日は暮にけり道つらなる人 | ||
+ | の家にととまりて明ぬれは鳥と友におきて行く程に日さし | ||
+ | あかりて辰の時はかりにえもいはすよき馬にのりたる人此 | ||
+ | 馬を愛しつつ道もゆきやらすふるまはするほとにま | ||
+ | ことにえもいはぬ馬かなこれをそ千貫かけなとはいふにや | ||
+ | あらんとみるほとに此馬にはかにたうれてたたしににしぬれ | ||
+ | は主我にもあらぬけしきにておりて立ゐたりてまとひして | ||
+ | 従者ともも鞍おろしなとしていかかせんするといへともかひ | ||
+ | なくしにはてぬれは手をうちあさましかり泣ぬはかりに思ひ | ||
+ | たれとすへき方なくてあやしの馬のあるに乗ぬかくてここに | ||
+ | ありともすへきやうもなし我等はいなんこれともかくもしてひ | ||
+ | きかくせとて下すおとこを一人ととめていぬれは此男みて | ||
+ | 此馬わか馬にならんとて死ぬるにこそあんめれ藁一すちか/108オy219 | ||
+ | |||
+ | 柑子三になりぬ柑子三か布三むらになりたり此ぬのの馬に | ||
+ | なるへきなめりと思てあゆみよりて此下す男にいふやうこはいか | ||
+ | なりつる馬そととひけれはみちのくによりえさせ給へる馬 | ||
+ | なりよろつの人のほしかりてあたいもかきらす買んと申つるをも | ||
+ | おしみてはなち給はすしてけふかくしぬれはそのあたい少分 | ||
+ | をもとらせ給はすなりぬおのれも皮をたにはかはやと思へと | ||
+ | 旅にてはいかかすへきと思てまもり立て侍なりといひけれはその | ||
+ | 事也いみしき御馬かなと見侍りつるにはかなくかくしぬる事 | ||
+ | 命ある物はあさましき事也まことに旅にては皮はき給たり | ||
+ | ともえほし給はしおのれは此辺に侍れは皮はきてつかひ侍らん | ||
+ | えさせておはしねとて此布を一むらとらせたれは男思はすなる | ||
+ | 所得したりと思ておもひもそかへすとやおもふらん布を | ||
+ | とるままに見たにもかへらすはしりいぬ男よくやりはてて/108ウy220 | ||
+ | |||
+ | 後手かきあらひてはせの御方にむかひて此馬いけて | ||
+ | 給はらんと念しゐたる程にこの馬目を見あくるままに頭を | ||
+ | もたけておきんとしけれはやはら手をかけておこしぬうれしき | ||
+ | 事限なしをくれてくる人もそある又ありつる男もそくる | ||
+ | なとあやうくおほえけれはやうやうかくれのかたに引入て時うつるまて | ||
+ | やすめてもとのやうに心ちもなりにけれは人のもとに引もて行て | ||
+ | その布一むらして轡やあやしの鞍にかへて馬に乗ぬ京さま | ||
+ | にのほる程に宇治わたりにて日くれにけれはその夜は人のもと | ||
+ | にとまりて今一むらの布して馬の草わか食物なとにかへ | ||
+ | て其の夜はとまりてつとめていととく京さまにのほりけれは九条 | ||
+ | わたりなる人の家に物へいかんするやうにて立さはく所あり | ||
+ | 此馬京にいて行たらんに見しりたる人ありてぬすみたるかなと | ||
+ | いはれんもよしなしやはらこれを売てはやと思てかやうの所に/109オy221 | ||
+ | |||
+ | 馬なと用なる物そかしとており立てよりてもし馬なとや買 | ||
+ | せ給ふととひけれは馬かなと思けるほとにて此馬をみていかか | ||
+ | せんとさはきて只今かはりきぬなとはなきをこの鳥羽の田や米 | ||
+ | なとにはかへてんやといひけれは中々きぬよりは第一の事也と思 | ||
+ | てきぬや銭なとこそ用には侍れおのれは旅なれは田ならは | ||
+ | 何にかはせんすると思給ふれと馬の御用あるへくはたた仰にこそ | ||
+ | したかはめといへは此馬にのり心みはせなとしてたた思つるさま也 | ||
+ | といひて此鳥羽のちかき田三町稲すこし米なととらせて | ||
+ | やかて此家をあつけておのれもし命ありて帰のほりたらはその | ||
+ | 時返しえさせ給へのほらさらんかきりはかくてゐ給へれもし | ||
+ | 又命たえてなくもなりなはやかてわか家にして居給へ子も侍ら | ||
+ | ねはとかく申人もよも侍らしといひてあつけてやかてくたりにけれは | ||
+ | その家に入居てみたりける米稲なと取をきてたたひとりなり/109ウy222 | ||
+ | |||
+ | けれと食物ありけれはかたはらそのへんなりける下すなといてき | ||
+ | てつかはれなとしてたたありつきに居つきにけり二月斗の | ||
+ | 事なりけれはそのえたりける田をなからは人に作らせ今なからは | ||
+ | 我れうにつくらせたりけるか人のかたのもよけれともそれはよのつね | ||
+ | にておのれかふんとて作たるはことのほかにおほくいてきたり | ||
+ | けれは稲おほく刈をきてそれよりうちはしめ風の吹つくる | ||
+ | やうに徳つきていみしきとく人にてそありけるその家あるしも | ||
+ | をとせすなりにけれは其家も我物にして子孫なといてきて | ||
+ | | ||
text/yomeiuji/uji096.txt · 最終更新: 2018/08/17 21:04 by Satoshi Nakagawa