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text:yomeiuji:uji091 [2014/10/06 22:15] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji091 [2015/03/20 05:44] – [第91話(巻6・第9話)僧伽多、羅刹の国へ行く事] Satoshi Nakagawa
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 片時もはなるべき心ちせずして住あひだ、此女、日ごとにひるねをする事久し。かほおかしげながら、ね入たびにすこしけうとくみゆ。僧伽多、此けうときをみて、心えずあやしくおぼしければ、やはらおきてかたがたをみれば、さまざまのへだてへだてあり。 片時もはなるべき心ちせずして住あひだ、此女、日ごとにひるねをする事久し。かほおかしげながら、ね入たびにすこしけうとくみゆ。僧伽多、此けうときをみて、心えずあやしくおぼしければ、やはらおきてかたがたをみれば、さまざまのへだてへだてあり。
  
-ここに、ひとつのへだてあり。築地をたかくつきめぐらしたり。戸にぢやうをつよくさせり。そばよりのぼりて内をみれば、人おほくあり。或は死に、或はにようこゑす。又、しろきかばね、あかき尸おほくあり。そうかた、独のいきたる人をまねきよせて、「これはいかなる人の、かくてはあるぞ」ととふに、答云、「我は南天竺の物なり。あきなひのために海をありきしに、あしき風にはなれてこの島にきたれば、よにめでたげなる女どもにたばかられて、帰らん事も忘て住ほどに、うみとうむ子はみな女なり。かぎりなく思て住ほどに、又こと商人、舟よりきぬれば、もとの男をばかくのごとくして、日の食にあつるなり。御身どもも、又、舟きなばかかるめをこそは見給はめ。いかにもして、とくとくにげ給へ。この鬼は、昼三時斗はひるねをする也。そのあひだに、よくにげば、逃つべき也。この篭られたる四方は鉄にてかためたり。其うへ、よろづすぢをたたれたれば、逃べきやうなし」となくなくいひければ、「あやしとは思つるに」とて、帰てのこりのあき人どもに、此よしをかたるに、みなあきれまどひて、女のねたる隙に、僧かたをはじめとして、浜へみな行ぬ。+ここに、ひとつのへだてあり。築地をたかくつきめぐらしたり。戸にぢやうをつよくさせり。そばよりのぼりて内をみれば、人おほくあり。或は死に、或はにようこゑす。又、しろきかばね、あかき尸おほくあり。そうかた、独のいきたる人をまねきよせて、「これはいかなる人の、かくてはあるぞ」ととふに、答云、「我は南天竺の物なり。あきなひのために海をありきしに、あしき風にはなれてこの島にきたれば、よにめでたげなる女どもにたばかられて、帰らん事も忘て住ほどに、うみとうむ子はみな女なり。かぎりなく思て住ほどに、又こと商人、舟よりきぬれば、もとの男をばかくのごとくして、日の食にあつるなり。御身どもも、又、舟きなばかかるめをこそは見給はめ。いかにもして、とくとく給へ。この鬼は、昼三時斗はひるねをする也。そのあひだに、よくにげば、逃つべき也。この篭られたる四方は鉄にてかためたり。其うへ、よろづすぢをたたれたれば、逃べきやうなし」となくなくいひければ、「あやしとは思つるに」とて、帰てのこりのあき人どもに、此よしをかたるに、みなあきれまどひて、女のねたる隙に、僧かたをはじめとして、浜へみな行ぬ。
  
 はるかに補陀落世界のかたへむかひて、もろともにこゑをあげて観音を念じけるに、沖の方より、大なる白馬、浪のうへを游て商人等の前にきて、うつぶしにふしぬ。「これ念じまいらするしるしなり」と思て、あるかぎりみなとり付て乗ぬ。 はるかに補陀落世界のかたへむかひて、もろともにこゑをあげて観音を念じけるに、沖の方より、大なる白馬、浪のうへを游て商人等の前にきて、うつぶしにふしぬ。「これ念じまいらするしるしなり」と思て、あるかぎりみなとり付て乗ぬ。
行 22: 行 22:
 さて、女どもは、ねおきてみるに、男ども一人もなし。「逃ぬるにこそ」とて、あるかぎり浜へ出てみれば、男、みなあしげなる馬にのりて、海をわたりてゆく。女ども、忽に長一丈ばかりの鬼になりて、四五十丈たかくおどりあがりて、さけびののしるに、この商人の中に、女のよにありがたかりし事をおもひいづるもの一人ありけるが、とりはづして海におち入ぬ。羅刹、ばいしらがひて、これを破り食けり。 さて、女どもは、ねおきてみるに、男ども一人もなし。「逃ぬるにこそ」とて、あるかぎり浜へ出てみれば、男、みなあしげなる馬にのりて、海をわたりてゆく。女ども、忽に長一丈ばかりの鬼になりて、四五十丈たかくおどりあがりて、さけびののしるに、この商人の中に、女のよにありがたかりし事をおもひいづるもの一人ありけるが、とりはづして海におち入ぬ。羅刹、ばいしらがひて、これを破り食けり。
  
-さて、馬は南天竺の西の浜にいたりてふせりぬ。商人共、悦ておりぬ。その馬、かきけつやうにうせぬ。僧かた、ふかく、おそろしと思て、この国にきてのち、此事を人にかたらず。+さて、馬は南天竺の西の浜にいたりてふせりぬ。商人共、悦ておりぬ。その馬、かきけつやうにうせぬ。僧かた、ふかく、おそろしと思て、この国にきてのち、此事を人にかたらず。
  
 二年をへて、この羅刹女の中に、僧伽多が妻にてありしが、僧かたが家に来りぬ。みしよりも猶いみじく目出なりて、いはんかたなくうつくし。僧かたにいふやう、「君をばさるべき昔の契にや。ことにむつまじく思ひしに、かくすてて逃給へるはいかにおぼすにか。我国には、かかる物の時々いできて、人を食なり。されば、じやうをよくさし、築地を高くつきたるなり。それに、かく人のおほく浜にいでてののしるこゑをききて、かの鬼どものきていかれるさまをみせて侍し也。あへて我らがしわざにあらず。帰給て後、あまりに恋しくかなしくおぼえて、殿はおなじ心にもおはさぬにや」とて、さめざめとなく。おぼろげの人の心には、「さもや」と思ぬべし。されども僧伽多、大に嗔て、太刀をぬきて殺さんとす。 二年をへて、この羅刹女の中に、僧伽多が妻にてありしが、僧かたが家に来りぬ。みしよりも猶いみじく目出なりて、いはんかたなくうつくし。僧かたにいふやう、「君をばさるべき昔の契にや。ことにむつまじく思ひしに、かくすてて逃給へるはいかにおぼすにか。我国には、かかる物の時々いできて、人を食なり。されば、じやうをよくさし、築地を高くつきたるなり。それに、かく人のおほく浜にいでてののしるこゑをききて、かの鬼どものきていかれるさまをみせて侍し也。あへて我らがしわざにあらず。帰給て後、あまりに恋しくかなしくおぼえて、殿はおなじ心にもおはさぬにや」とて、さめざめとなく。おぼろげの人の心には、「さもや」と思ぬべし。されども僧伽多、大に嗔て、太刀をぬきて殺さんとす。
行 39: 行 39:
  
 さて帰て大やけにこのよしを申ければ、僧伽多にやがてこの国をたびつ。二百人の軍をぐして、その国にぞ住ける。いみじくたのしかりけり。いまは僧伽多が子孫、彼国の主にてありとなん、申つたへたる。 さて帰て大やけにこのよしを申ければ、僧伽多にやがてこの国をたびつ。二百人の軍をぐして、その国にぞ住ける。いみじくたのしかりけり。いまは僧伽多が子孫、彼国の主にてありとなん、申つたへたる。
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text/yomeiuji/uji091.txt · 最終更新: 2018/07/27 10:26 by Satoshi Nakagawa