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text:yomeiuji:uji088 [2015/03/16 20:58]
Satoshi Nakagawa [第88話(巻6・第6話)賀茂社より、御弊紙米等給ふ事]
text:yomeiuji:uji088 [2018/07/17 18:46] (現在)
Satoshi Nakagawa
ライン 6: ライン 6:
 **賀茂社より、御弊紙米等給ふ事** **賀茂社より、御弊紙米等給ふ事**
  
-今はむかし、比叡山に僧ありけり。いとまづしかりけるが、鞍馬に七日まいりけり。「夢などやみゆる」とてまいりけれど、見えざりければ「今七日」とてまいれども、猶みえねば、七日をのべのべして、百日まいりけり。+===== 校訂本文 =====
  
-その百日といふ夜の夢、「我はえしらず清水へまれ」仰らるとみければ日よ、又、清水へ百日まいに、「又我はえこそしらね。賀茂にまいりて申せ」と夢にみてければ、又賀茂にまいる。七日と思へども、「例の夢みん、例の夢みん」とまいるどにといふ夜の夢に、「わ僧、かくまいる。いとおければ、御幣紙、うちまきの米ほどの物たしかにとらせん」と仰らるるとみて、うちおどろきたる心ちいと心うくあはれにかなし+今は昔、比叡山((延暦寺))僧ありけり。いと貧しかりけ鞍馬((鞍馬寺))に七けり。「夢などや見ゆる」とて参りけれど、見えざりければ「今七日て参れども、見えねばを延べ延べして、百日参りけり
  
-所々まりあるきつる、ありありして、「かく仰らるるよ。うちまきのかり斗給はりて、なにかはせん。我山へかへりのぼむも、人目はづかし賀茂川にやおち入りなまし」など思ど、又、さすがに身もえなげず。「いかやうにはからはせ給べきにか」とゆかしきかたもあれば、もとの山の坊に帰てゐたるに、しりる所より、「物申候ん」といふ人あ。「たそ」とてみれば、白き長櫃をなひ、ゑんにをきて帰ぬ。いとあやしく思て使を尋れど、大かたなし。これをあてみれば、しろき米と、よき紙とを一長櫃入+その百日とふ夜の夢に、「われえ知清水((清水寺))参れ」と仰せらるると見ければ、明日日より、ま清水へ百日参るに、た、「われえこそ知らね。賀茂((賀茂神社))に参て申せ」とてければ、賀茂に参る
  
-「これはみし夢のままなりけり。さりともこそ思つれ、こればかりを誠にたびたる」といと心うく思へど、「いかがはせん」とて、此米をよろづつかふに、ただおなじおほさにてつくる事なもおなじとつかど、する事なくていとべらきらしからど、いとたのしき法師になりてぞありける+七日と思へど、「例の夢見ん、例の夢見ん」と参るほど、百日とい夜の夢に、「わ僧がか。いとほければ、御幣(ごへいがみ)・打撒(うち)の米ほどの物、たしかに取せん」と仰らるると見て、うちおろきたる心地、いと心憂く、あはれ
  
-猶心なく物まうはすき也+「所々参り歩(あり)きつるに、ありありて、かく仰せらるるよ。打撒のかはりばかり給はりて、何にかはせん。わが山へ帰り登らむも、人目恥かし。賀茂川にや落ち入りなまし」など思へど、また、さすがに身もえ投げず。 
 + 
 +「いかやうに、はからはせ給ふべきにか」と、ゆかしきかたもあれば、もとの山の坊に帰りて居たるほどに、知りたる所より、「もの申し候はん」と言ふ人あり。「誰(た)そ」とて見れば、白き長櫃(ながびつ)を担(にな)ひて、縁(ゑん)に置きて帰りぬ。いとあやしく思ひて、使を尋ぬれど、おほかたなし。 
 + 
 +これを開けて見れば、白き米と、よき紙とを、一長櫃入りたり。「これは見し夢のままなりけり。『さりとも』とこそ思ひつれ、こればかりをまことに賜びたる」と、いと心憂く思へど、「いかがはせん」とて、この米をよろづに使ふに、ただ同じ多さにて、尽くることなし。紙も同じごと使へど、失することなくて、いと別(べち)にきらきらしからねど、いとたのしき法師になりてぞありける。 
 + 
 +なほ心長く、もの詣ではすべきなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今はむかし比叡山に僧ありけりいとまつしかりけるか鞍馬に 
 +  七日まいりけり夢なとやみゆるとてまいりけれと見えさり 
 +  けれは今七日とてまいれともみえねは七日をのへのへして 
 +  百日まいりけりその百日といふ夜の夢に我はえしらす 
 +  清水へまいれと仰らるるとみけれは明日日より又清水へ 
 +  百日まいるに又我はえこそしらね賀茂にまいりて申せと 
 +  夢にみてけれは又賀茂にまいる七日と思へとも例の夢 
 +  みん例の夢みんとまいるほとに百日といふ夜の夢にわ僧かかくまいる 
 +  いとおしけれは御幣紙うちまきの米ほとの物たしかにとら 
 +  せんと仰らるるとみてうちおとろきたるちいと心うくあはれに/92ウy188 
 + 
 +  かし所々まいりありきつるにありありてか仰らるるようち 
 +  まきのかはり斗給はりてなににかはせん我山へかへりのほら 
 +  むも人目はつかし賀茂川にやおち入りなましなと思へと 
 +  又さすかに身もえなけすいかやうにはからはせ給へきに 
 +  かとゆかしきかたもあれはもとの山の坊に帰てゐたる程に 
 +  しりたる所より申候はんといふ人ありたそとてみれは 
 +  白き長櫃をになひてゑんにをきて帰ぬいとあやしく思 
 +  て使を尋れと大かたなしこれをあけてみれはしろき米 
 +  とよき紙とを一長櫃入たりこれはみし夢のまなりけり 
 +  さりともとこそ思つれこれはかりを誠にたひたるといと心 
 +  ​く思へといかかせんとて此米をよろつにつかふにたたおなし 
 +  おほさにてつくる事なし紙もおなしことつかへとうる 
 +  事なくていとへちにきらきらしからねといとたのしき法師に/93オy189 
 + 
 +  なりてそありける猶心なかく物まうてはすへき也/93ウy190
  


text/yomeiuji/uji088.txt · 最終更新: 2018/07/17 18:46 by Satoshi Nakagawa