text:yomeiuji:uji086
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text:yomeiuji:uji086 [2018/06/23 19:59] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji086 [2018/06/23 20:00] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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- | 今は昔、人のもとに宮仕へしてある、なま侍ありけり。することのなきままに、清水へ人真似して、千度詣を二たびしたりけり。 | + | 今は昔、人のもとに宮仕へしてある、なま侍ありけり。することのなきままに、清水((清水寺))へ人真似して、千度詣を二たびしたりけり。 |
その後、いくばくもなくして、主(しう)のもとにありける同じやうなる侍と、双六を打ちけるが、多く負けて、渡すべきものなかりけるに、いたく責めければ、思ひわびて、「われ、持ちたる物なし。ただ今貯へたる物とては、清水に二千度参りたることのみなんある。それを渡さん」と言ひければ、傍らにて聞く人は、「謀(はか)るなり」と、をこに思ひて笑ひけるを、この勝ちたる侍、「いとよきことなり。渡さば得ん」と言ひて、「いな、かくては受け取らじ。三日して、このよし申して、おのれ渡すよしの文書きて渡さばこそ、受け取らめ」と言ひければ、「よきことなり」と契りて、その日より精進して、三日といひける日、「さは、清水へ」と言ひければ、この負け侍、「このしれ者に会ひたる」と、をかしく思ひて、悦びて、つれて参りにけり。 | その後、いくばくもなくして、主(しう)のもとにありける同じやうなる侍と、双六を打ちけるが、多く負けて、渡すべきものなかりけるに、いたく責めければ、思ひわびて、「われ、持ちたる物なし。ただ今貯へたる物とては、清水に二千度参りたることのみなんある。それを渡さん」と言ひければ、傍らにて聞く人は、「謀(はか)るなり」と、をこに思ひて笑ひけるを、この勝ちたる侍、「いとよきことなり。渡さば得ん」と言ひて、「いな、かくては受け取らじ。三日して、このよし申して、おのれ渡すよしの文書きて渡さばこそ、受け取らめ」と言ひければ、「よきことなり」と契りて、その日より精進して、三日といひける日、「さは、清水へ」と言ひければ、この負け侍、「このしれ者に会ひたる」と、をかしく思ひて、悦びて、つれて参りにけり。 | ||
- | 言ふままに文書きて、御前にて師の僧呼びて、ことのよし申させて、「二千度参りつること、それがしに、双六に打ち入れつ」と書きて、取らせければ、受け取りつつ悦びて、伏し拝みて、まかり出でにけり。 | + | 言ふままに文書きて、御前にて、師の僧呼びて、ことのよし申させて、「二千度参りつること、それがしに、双六に打ち入れつ」と書きて、取らせければ、受け取りつつ悦びて、伏し拝みて、まかり出でにけり。 |
その後(のち)、いくほどなくして、この負け侍、思ひかけぬことにて捕(とら)へられて、獄に居にけり。取りたる侍は、思ひがけぬたよりある妻まうけて、いとよく徳つきて、司(つかさ)などなりて、たのしくてぞありける。 | その後(のち)、いくほどなくして、この負け侍、思ひかけぬことにて捕(とら)へられて、獄に居にけり。取りたる侍は、思ひがけぬたよりある妻まうけて、いとよく徳つきて、司(つかさ)などなりて、たのしくてぞありける。 |
text/yomeiuji/uji086.1529751571.txt.gz · 最終更新: 2018/06/23 19:59 by Satoshi Nakagawa