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text:yomeiuji:uji082 [2015/03/09 18:00]
Satoshi Nakagawa [第82話(巻5・第13話)山の横川の賀能、地蔵の事]
text:yomeiuji:uji082 [2018/05/12 20:06] (現在)
Satoshi Nakagawa
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 **山の横川の賀能、地蔵の事** **山の横川の賀能、地蔵の事**
  
-これも今はむかし、山の横川に賀能知院といふ僧、きはめて破戒無慙のものにて、昼夜に仏の物をとりつかふ事をのみししけり。横川の執行にてありけり。+===== 校訂本文 =====
  
-「政所へ行」とてもとをつね過ありきければ塔のも地蔵の物の中に捨きたる、きとたてまつりて、時々きぬかぶりしたるをうちぬぎ、頭をかたぶて、すこすこうやまひおがつつ時もありけり。+これも今は昔山((比叡山延暦寺))横川に、賀能知院僧、はめて破戒無慙の者にて、昼夜に仏の物を取り使ふことしけ((「しけり」は底本「ししけり」。衍字とて一字削除。))。横川の執にてありけり。
  
-かかる程に、かの賀能、はかな失ぬ。師の僧都をききて「彼僧は破戒無慚後世、さだめて落ん事うがひなし」心うがり、あはれみ給事し。+「政所へ行」とて塔のもと常に過ぎ歩(あり)ければもとに、古き蔵の、物の中捨て置きるを、き見奉時々衣(きぬ)りしたるをうち脱ぎ、頭を傾(かたぶ)けて、少し少し敬ひ拝みつつ行く時もありけり
  
-かかるに、「塔もとの地蔵こそこの程みえ給ねば、いかなる事にか」と院内の人々いひあひたり「人『修理したてまつらん』とて、とり奉たるにや」などいひける程に、此僧都の夢にみ給やう、「此地蔵みえ給はぬは、いかなる事ぞ」と尋給、かたはらに僧有いはく「此地蔵菩薩はやう賀能知院が無間地獄に落しその日、『やがて助てあて入給也」といふ。夢ちにいとさましくて、「いかにして、さる罪人にぐして入たるぞ」問給へば、「塔のもとを常に過るに、地蔵をみや申て、時々おがみ奉ゆへなり」とこたふ+かかるほどに、賀能、はかなく失せぬの僧都、これを聞きて、「は、破戒無慚の者にて、後世さだめて地獄に落し」と心憂がり、あはれみふこかぎし。
  
-夢覚て後みづから塔のもとへおはしてみ給に、地蔵、とにみえ給はず。「さは此僧にまことにしておはしたるにや」とおぼす程に、其後、又僧都の夢に見給やう、もとにおはしてみ給へば、此地蔵、立たり。「これ失させ給し地蔵、いかにしていでき給たりぞ」とまへば又人いふやう賀能ぐして地獄へ入てたすけてへるなり。されば御あのやけ」といふ。御足をみ給へば、御足くろう焼給ひた。夢心ちにまことにあさまき事限+かかるほどに塔のもと地蔵こそ、このほど見え給はねばいかなることにか」と、院内の人々、言ひ合ひたり。「人の、『修理奉らん』と、取り奉りたるにや」など言ひけるほどに、この僧都の夢に見給やう、「この地蔵の見え給はぬは、いかなることぞ」と尋ね給ふに、傍(かは)らに僧ありていはく「こ地蔵菩薩、はやう賀能知院が無間地獄に落ちしその日『やがて助ん』と、あひ具して入りなり」と言ふ夢心地にいとあましくて「いかにて、さる罪人には具して入りひた」と問ひ給へば、「塔のもとを常に過ぐるに、地蔵を見や申して時々拝み奉りゆゑり」と答ふ
  
-さて、めて、とまずして、いそぎおはし、塔のもとをみ給へば、うつつにも地蔵立給り。御足をみにやけ給へり。れを給に、あはれかなしき事、かぎりなし。さて、なくなく此地蔵をいだき出したてまつり給てけり+めてみづから塔のもへおはして見給ふに、地蔵、ことに見え給は。「さは、この僧に、まことに具しておはしたるにや」と思すほどに、その後、また僧都の夢に見給ふやう、塔のもとにおはして見給へば、この地蔵ひたり。「こは失せさせ給し地蔵いかして出で来給ひたるぞ」とのたまへば、また、人の言ふう、「賀能、具して地獄へ入りて、助て帰り給へるなり。ば、御足の焼け給へるなり」と言ふ。御足へば、まこと御足黒(くろ)う焼け給ひたり。夢心地、まことにあさましきことかぎりなし。
  
-「いまにおはします。二尺五寸斗の程にこそと人はかたりしこれかたりける人みたてまつりけるとぞ。+さて、夢覚めて、涙止まらずして、急ぎおはして、塔のもとを見給へば、うつつにも地蔵立ち給へり。御足を見れば、まことに焼け給へり。これを見給ふに、あはれにかなしきこと、かぎりなし。さて、泣く泣くこの地蔵を抱(いだ)き出だし奉り給てけり。 
 + 
 +「いまにおはします。二尺五寸ばかりのほどにこそ」と人は語りし。これ、語りける人、拝み奉りけるとぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今はむかし山の横川に賀能知院といふ僧きはめて 
 +  破戒無慙のものにて昼夜に仏の物をとりつかふ事をのみ 
 +  ししけり横川の執行にてありけり政所へ行とて塔のもとを 
 +  つねに過ありきけれは塔のもとにふるき地蔵の物の中に 
 +  捨をきたるをきとみたてまつりて時々きぬかふりしたるを 
 +  うちぬき頭をかたふけてすこしすこしうやまひおかみつつ行時 
 +  もありけりかかる程にかの賀能はかなく失ぬ師の僧都是を 
 +  ききて彼僧は破戒無慚の物にて後世さためて地獄に落 
 +  ん事うたかひなしと心うかりあはれみ給事かきりなしかかる 
 +  程に塔のもとの地蔵こそこの程みえ給はねはいかなる事にか 
 +  と院内の人々いひあひたり人の修理したてまつらんとてとり 
 +  奉たるにやなといひける程に此僧都の夢にみ給やう此 
 +  地蔵のみえ給はぬはいかなる事そと尋給にかたはらに僧有て/85オy173 
 + 
 +  いはく此地蔵菩薩はやう賀能知院か無間地獄に落しその 
 +  日やかて助んとてあひくして入給也といふ夢心ちにいと 
 +  あさましくていかにしてさる罪人にはくして入給たるそと問給 
 +  へは塔のもとを常に過るに地蔵をみやり申て時々おかみ奉し 
 +  ゆへなりとこたふ夢覚て後みつから塔のもとへおはしてみ給に 
 +  地蔵まことにみえ給はすさは此僧にまことにくしておはし 
 +  たるにやとおほす程に其後又僧都の夢に見給やう塔の 
 +  もとにおはしてみ給へは此地蔵立給たりこれは失させ給し 
 +  地蔵いかにしていてき給たるそとのたまへは又人のいふやう 
 +  賀能くして地獄へ入てたすけて帰給へるなりされは御あしの 
 +  やけ給へる也といふ御足をみ給へは誠に御足くろう焼給ひ 
 +  たり夢心ちに誠にあさましき事限なしさて夢さめて泪 
 +  とまらすしていそきおはして塔のもとをみ給へはうつつにも地蔵/85ウy174 
 + 
 +  立給へり御足をみれは誠にやけ給へりこれをみ給にあは 
 +  れにかなしき事かきりなしさてなくなく此地蔵をいたき出 
 +  したてまつり給てけりいまにおはします二尺五寸斗の程に 
 +  ​こそと人はかたりしこれかたりける人おみたてまつりけるとそ/86オy175
  
text/yomeiuji/uji082.txt · 最終更新: 2018/05/12 20:06 by Satoshi Nakagawa
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